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Creepy Nutsを好きになって約1年半。ずっとワンマンライブに行きたいと思い続けてきた。武道館はチケットを持っていなかったし、かつ天のツアーファイナルは直前に体調を崩してしまい行かれなくなった。

4月のラジオイベントin野音のチケットが奇跡的に当たり、初めてお2人の発する生音を浴びて撃ち抜かれた。この音をワンマンライブで2時間たっぷり浴びたい。欲望に拍車がかかった。


7月になり、応募していた念願のワンマンツアーのファイナルに当選したことが分かってからは、ずっとワクワクしていた。
ツアーグッズのガチャガチャを15種類コンプリートしたくて、500円玉をコツコツ集めたり(最終的に18枚貯まった😊)、当日着るボトムスとアウターを娘から借りる約束を取り付けたり、美容院に行き、3月以来整えていなかった真っ白い鬣を見栄えよくしてもらったり、現地でお会いできた方々にお渡しするお土産を買い出してラッピングしたり、メッセージを書いたり。少しずつ、着々と準備を進めた。

楽しいことの前に、苦手なことを片付けようとも思った。長い間保留になっていた案件を進めるために、先方に電話をかけたし、粗大ゴミ回収の手配もした。風呂の掃除も階段の掃除も完璧にした。

苦手で大嫌いなことをしている間ですら、ずっとずっと幸せな気持ちだった。大好きなお2人に会える。2時間、お2人の発する生音を全身に浴びられる。そのことで頭がいっぱいだった。

事前に何人かのFFさんとお会いする約束をしていた。初めてお会いするFFさんもいる。当日の朝になって、急きょ参戦することにしたから会いたいとDMをくれたFFさんもいて、私の気持ちは最高潮に高まっていた。
残りの家事をささっと片付けて、娘にご飯を食べさせて、一刻も早く出かけなくちゃ。

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時を少し戻そう。7月、チケットの当選が分かった頃。
本格的に暑くなり始め、娘の体重が少しずつ落ち始めた。例年夏になると食欲が無くなり、2kgくらいは減ってしまう。いつもは涼しくなるにつれ食欲も戻るのだが、今年はなかなか戻らず、気付けば体重は40kgを切ってしまっていた。去年の秋から今年の春、半年かけて少しずつ増やした3kgが、あっという間になかったことになった。ショックだった。

食事量が減り、体重が減ると、精神的にも不安定になる。今月に入ってから、突然泣き出したり、全身の震えが止まらなくなったり、息苦しくなったりすることが増えた。

今思えば、本当はこの時点で、早めの判断をしておくべきだったのかもしれない。

ライブ当日の朝。娘に次から次へと注意事項を言われた。いわく、海外でフェスに参加した人がステージに夢中になっている間に変な注射をされていたというニュースがあったから、くれぐれも気をつけるようにとか、誰かからお茶しましょうと言われても怪しい何かの勧誘かもしれないから、ほいほいついていかないようにとか…(その後にもいろいろ言われたがたくさんありすぎて忘れた)

今思えば、これも不安の表れだったのだろう。

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我が家から会場まではトータルで1時間半くらいかかる。入場時混雑緩和のために設けられた来場推奨時間は16時半。その前にグッズを買いたいから、15時半には会場に到着していたい。逆算すると遅くとも14時には家を出たかった。

13時を過ぎても昼食を食べようとしない娘に、そろそろお昼食べてほしいなと声をかけた。何を食べたいか聞き、食事を作る。食べ慣れたいつものメニューだ。
食卓に出した途端、娘がどうしようと言って泣き出した。いつもと同じはずなのに、なぜか食事の匂いが臭くて耐えられないと言う。いつもと同じスーパーで買って来たいつもと同じ肉を、いつもと同じように調理したのに。私にはいつもと同じ匂いしかしないのに。では別のメニューを作るよと言ったが、とにかくこの匂いが臭くて耐えられないからと自室のドアをぴったり閉めて中にとじこもってしまった。
こうなってしまうと、もう誰にもどうすることもできない。キッチンとダイニングからこの匂いが完全に消えるまで、娘は食卓には座れないし、私は娘が食事を食べ終えてくれるまで出かけることはできない。

キッチンの換気扇を最大に回して、窓を開け放って、ダイソンの空気清浄機(料理の匂いも吸引して無臭化してくれるので、我が家の必需品だ)の電源を入れる。1時間くらいすれば匂いはなくなるだろうか。
出発が1時間遅れても、どうにかグッズの列に並べるだろうし、短時間かもしれないけれどFFさんとご挨拶くらいはできるだろう。このときはまだそんなことを考える余裕もあった。

15時を回っても部屋から出てきてくれない娘に、何か食べないと栄養が足りなくてますます具合が悪くなってしまうよと声をかけた。白米を自室で食べるから持ってきてほしいと言う。運んで食べるところを見守っていると、3〜4口食べたところでもうこれ以上食べられないと言って泣き出した。茶碗にはまだ半分以上白米が残っている。

疲れ切っている様子だったので、いったん眠ってくれればいいなと思った。薬を飲ませて、気持ちが落ち着いてくるのを待つ。16時過ぎ、ベッドでうとうとしているので、見守りを夫に任せてそっと娘の部屋を出ようとすると、突然目を覚まして喉のあたりを押さえ、苦しいと言い大声で泣き出した。全身をぶるぶる震わせている。

しばらく様子を見ていたが、この状態はなかなかおさまることはなかった。
私はようやく決意して、娘に言った。
「ママ今日行くのやめる。こんな状態なのに置いていけないよ」
お留守番できなかった…お留守番できなかった…。泣きじゃくる娘を、抱きしめてやることしかできなかった。

少しして気持ちが落ち着いてきたのか、娘が夫と何か話を始めたので、食べ残した茶碗を片付けるために私はキッチンへ向かった。茶碗をシンクに置くと、その場にへなへなと座りこんでしまう。急いでお会いする約束をしているFFさんにDM。文字を打ちこみながら、涙が止まらなくなった。泣き声を娘に聞かせるわけにはいかないから、声を押し殺して泣いた。肩がわなわな震えて止まらなくて、思うように文字が打てない。スマホの画面も滲んでよく見えない。

「ママー!!何してるのー?」
娘の声が聞こえる。行かないと言ったのに、私が出かける支度をしているのではないかと心配になったようだ。バシャバシャと水で顔を洗い、深呼吸をしてから娘の部屋に戻る。
私の顔を見ると心から安堵したような表情になり、そのまますうっと眠りについた。

18時からのライブは、iPad越しに配信で楽しんだ。本当だったらこの画面の中にいるはずなのにと思ったら、苦しくて胸が潰れてしまいそうに痛い。涙が溢れるのは、ライブが素晴らしいからなのか、この場にいられないことの悔しさなのか、その両方か、自分で自分の気持ちをはかりかねた。
出かけたら何か美味しいものをお腹いっぱい食べようと思っていたので、朝から何も食べていなかった。キッチンにiPadを置き、さっき娘が臭くて食べられないと言った食事を(温めすぎると匂いが出てしまうから)レンジでほんの少しだけ温めなおして、換気扇をつけてその下で食べた。私の定番の食事スタイル。換気扇下のラボはいつだって立食形式だ。

楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、2時間でライブは終了した。
ほんとうにほんとうに素晴らしい圧巻のステージ。どんなことをしてでも行きたかった。あのパンパンの観客のうちの1人になりたかった…
Twitterのタイムラインは会場前で撮った写真やライブ直後のほくほくの感想や現場レポで溢れていて、ほとんど見られなかった。いただいたリプとDMだけは返すようにして、スマホは手元から少し離れた場所に置いておいた。

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翌日。体調不良の続く中、娘が泣きながらこう言って、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。

「ママがいてくれて、嬉しい」

娘はただただ不安だったのだ。本当は私にどこにも行かないでと言いたかったのだ。でも、私がライブをどれだけ楽しみにしているか知っていたから、行かないでとは言えなかった。声に出せないから全身で表現するしかなかったのだ。
娘があれだけ苦しんだのは間違いなく、今回は行かないと早めに決断できなかった私のせいだ。一番大切なのは娘のはずなのに。自分を責めた。

何よりも娘の健康を願いながら、一方でその健康を損なうことをせずにはいられない。自分の欲深さにつくづく嫌気がさした。

洗面所で鏡を見る。普段は白毛だらけで伸び放題の鬣が、きれいに染め整えられていてハッとする。何度見てもどうも慣れない。ライブに行かなかったのだから、そもそも美容院になんて行かなくてよかったのだ。整った鬣が自分の強欲さの象徴のように思えて気が重くなる。

鏡の中の整った私がこう言う。
年に一回くらい楽しんだっていいじゃない。だって普段から2時間を超える外出なんてできないんだもん。会場まで往復3時間、ライブ2時間、グッズ並んで1時間。6時間くらい家を開けて何が悪いの。なにも独りぼっちにするわけじゃない。パパがずっと側についてる。その間くらい、ほんの少し我慢させたっていいじゃない。

人を呪わば穴二つ。あのときの呪いが続いているような気がしてならない。このまま一生ワンマンに行かれないのではないかという思い込みに精神を削られて、絶望しそうになる。

昔よく聴いていたこの曲をふと思い出した。昨日からこればかりずっと聴いている。
BONNIE PINKのEvil And Flowers。やって来ては去っていく邪悪と花。

ハッピーエンドのその先は、まだまだ遥か遠く、全く見通せそうにない。

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お会いしようと約束していたRちゃんTちゃんRさんMさんYさんHちゃん、お約束を守れずごめんなさい。この次また必ず絶対に、どこかの会場でお会いしましょう。
いや、でも約束してしまうと、またお会いできなかったときにつらすぎて今度こそ二度と立ち直れなくなるかもしれない。
…やっぱりはっきりとした約束はやめておこうかな。


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