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自分の好きだった作品を振り返る(その12)~育児漫画のなかで印象深い作品を(後)不育症・流産・死産などの体験

続きです。

2013年から始めた育児漫画目録。ちょうど、育児漫画やコミックエッセイが面白い流れになってきた時期でした。その流れの一つに「帝王切開出産の描写が変わった」「死産や流産といった体験をフラットに描くようになった」ことがあります。

帝王切開出産の描写

理由は分かりませんが、2000年代まではぼんやりと描いていたのですが、2014年頃から明確な体験として描かれるようになりました。

2000年代まではこんな感じで、赤ちゃん視点で描かれることが多かったです。多いと言っても、帝王切開出産を描く人自体が少なくて。私が知ってる2件が2件ともこういう描写でした。(画像は『愛ある暮らし』より)

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2014年以降はこんな感じで、帝王切開出産の様子がリアルに分かるような描写が主流になりました。(画像は『妊娠17カ月!』より)

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帝王切開出産の描写の変化についてはこの記事に書きましたので参考に…。

『不育症戦記』

今では比較的、知られているのかな?『不育症』と呼ばれる症状があります。赤ちゃんを妊娠しても、流産しやすかったり、お腹の中で死んでしまうという、辛い症状です。

「育児漫画目録」を始めた時、楠桂さんが雑誌で連載していた『不育症戦記』を読み直したいと思いました。雑誌で読んでいた時の私は妊娠体験がありませんでしたが、それでも辛い体験だと思って読んでいました。

この作品はもっと読まれて欲しいと考えたので、感想記事を書く予定でした。2010年に発売したコミックスでしたが、2013年の時点で既に絶版しており、古本を入手するしかない状態でした。

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入手して読んで、やはりこれは過酷な体験だな…と改めて思いました。

漫画を描くには、プロットを作って編集者と打ち合わせ、ネームを描き、下書きをしてペン入れ…と、何回も何回も、自分の辛い体験を目の当たりにしながら、仕上げていく必要があります。だから、こうやって読者が読めるような状態になっていることが既に尊いと言いますか、生半可な覚悟では描けなかっただろうと。作者である楠桂さんの志がすごいと感服しました。

…ということで、レビューを書きました。

ところが。2013年頃のインターネットでは、この作品、賛否両論で。どちらかというと否定的な意見が多かったんですよ。「自分に酔ってる」「自分がかわいそうばかり」って。

作者の楠さんがブログで「アマゾンで酷評」と記していたりして。

えーーーー!!だってこんな…こんな体験だぞ…。流産3回、死産2回だぞ…。それを漫画にしてるんだぞ…。すごくないか?と。

2010年頃にはまだ、コミックエッセイでも、多分、ブログなどでも「闘病記」てジャンルは成立しておらず、マイナだったこともあるでしょうが、この作品が正当に評価されないのか…と、ちょっと悔しい気分になりました。

勿論、読書体験はその読者のものであって、読んでどういった感想を抱こうと、その読者の勝手ではあるのですが、キラキラしない、スピリチャルに頼らない、リアルな流産や死産の描写があって良いと思ったし、『不育症戦記』が描かれたことで不育症という病が知られていった。体験していない人も理解しやすくなった。その功績は称えて良いとも思ったんですね。

しかし、「無事な出産」は良いけど、死産や流産といった体験は描くのが難しいし、読者の反応も変わる。紹介するのも難しいな、と思いました。

『妊娠17カ月!』

2014年に、『妊娠17カ月!』の連載が始まりました。この漫画は1人目の子供の死産と、2人目の子供の帝王切開出産を描いたコミックエッセイです。

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私はこの作品、連載から追っていました。総合的には好きな作品ですし、この作品をきっかけに坂井恵理という漫画家を知れてよかった…!と思っているのですが、評価は割れるよな~そうだよな~…という作品でもあります。

単行本が発売した直後に検索数が増えたこともあり、連載中の感想を大きく書き直したのが ↑ の記事なのですが、8割は作品へのダメだしというか、私が読んで引っかかった部分の解説を書きました。本当に良いと感じたところはほぼ語ってません。そこは読めば分かると思うし、コミックエッセイとはいえ、ネタバレしたら面白くないから。

結論としては「4話まで試し読み出来るんだから、試し読みしてから買いましょう」です。今だと、Kindleでも無料の分冊版があります。

この作品に限りませんが、私は表現は多様であってよいし、もっと多様になれ、と思っています。万人向けである必要はないし、誰かに気に入られるために描く必要はない。実録系マンガはその人自身の体験をリアルに描くから、そこに嘘がないから、面白いとも思うのです。

『妊娠17カ月!』という作品は、絶対に賛否両論になると思っていたので、今の★1と★5で割れるAmazonレビューも納得感があるのですが、『不育症戦記』の二の舞は避けたかった。

だから、「タイトルで興味を持ったけど、買うかどうか迷っている人」に向けて、レビューを書きました。合わないと思う人が買わずに済むように、判断材料になるようなレビューです。

おかげさまで、「育児漫画目録」の感想記事経由で1番売れた妊娠・出産・育児漫画はこの作品だと思います。電子書籍版の方が売れたこともあり、死産の体験は読みたい人も多いけどあまり読めないのかな、と思ったりもしました。

『がけっぷち出産ぶんぶんマーチ』

こちらは2回の流産体験を描いた漫画です。

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この時期には単行本を調べるのが楽になっていて、この漫画も検索で発売を知ったのですが、タイトルに『がけっぷち出産ブンブンマーチ―3歩進んで2歩下がる高齢・不育ロード』とあり。分かっていてつけたのでしょうが、「不育症」て冠すると結構大変だよ?大丈夫?という気持ちが大きかった…。

この漫画の感想も、発売直後に丁寧に書いてます。

この作品は比較的好評みたいで良かったなあと。★1レビューは予想通りで、私が記事の中で「こういう人は合わないと思う」と書いた内容と一致します。

人生いろいろ。コミックエッセイもいろいろ。共感できる作品もあれば、共感できない作品もあって良いと思います。

育児漫画で学んだ多様性

2013年頃からの6年間で、妊娠・出産・育児漫画をたくさん読みました。多分200人とか300人くらいの単位で読んでるはずですが、それによって私が獲得した能力…といったらちょっと大げさですけど。「多様性のすばらしさ」に気付くと同時に、「多様性の難しさ」も学びました。

このnoteで書いているのは、基本的に私が好きな作品です。

例えば、育児漫画は何でも好きか?って訊かれた場合、当然ですが私にも苦手なもの、合わないものもあります。絵が合わないこともあれば、ネタが合わないこと、作者の姿勢が合わないもの、教育方針に疑問を抱くもの、色々あります。

子供への虐待はダメだし、嘘を実話として描くのはダメです。

その辺を別として、「どんな育児漫画もあって良い」と思います。それは、どんな家庭があって良いのと同じです。幸せの形も、日々の生活の形も、様々だと思います。

SNSが普及してよかった

「育児漫画目録」を始めた2013年頃だと、私が紹介したり、情報をまとめることに意味があったと思うんですが、作者も読者も多様になると、私というフィルタが邪魔に思えて仕方なかったので、Instagramが登場して本当に良かったと思います。タグをたどって自分好みの漫画を探せる世の中は良いですね。

まとめ

育児漫画しか読めなくなって始めた「育児漫画目録」でしたが、ネット発の作品を追うのは楽しかったし、得られたものも大きかったと思います。

「育児漫画目録」の更新は辞めたんですが、元々「娘が小学生になる前に辞めよう」と思ってましたし、「育児漫画が面白いのは育児がしんどい時期だ」と思っていたので、最近の、子育てが楽になった私の書評は温いなあ、面白いしか言ってないじゃないか、等の不満もあったのでサクッと辞めれて良かったです。

今はふつーの創作漫画も読めるし、今後は色々な作品を読んでいきたいと思っております。そのうえで、育児の歴史も調べたいし、育児の知識やネットの有益な記事を集積したデータベース的なものも作りたい。

育児の問題って解決してないことも多いんですが、情報を把握しにくい状況が一因でもあると思っていて。ネット上の既存の仕組みを利用して、問題を解決できる仕組みを作りたいな、とか考えています。

長い文章を読んで下さりありがとうございました。


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