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お金はなくても根拠のない自信があったからここまでこれた〜スランプさんいらっしゃい・5歳さん対談〜

株式会社ディー・エヌ・エーが運営するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、オリジナル作品の『ホリデイラブ』はTVドラマ化、『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスの編集長を務めるのは安江亮太さん。多くの事業を束ねてきた安江さんはこれまで数々のクリエイターや社員の悩みに乗り、解決に導いてきました。
今回は株式会社アマヤドリ代表、5歳さんとの対談企画。前後編の前編は5歳さんのスランプ話から、スランプをどう脱してきたか、自己肯定感の大切さなどについて聞いていきます。

※この対談は2020年2月28日に収録したものです。

銀行強盗を考えるほどお金に苦しめられた、借金地獄の20代

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安江:5歳さん今日はよろしくお願いします。
いろんな方のスランプを聞いている連載なんですが、5歳さんはスランプになったことありますか?

5歳:いやー、まさに20代はどん底でしたね。それも仕事のスランプではなく、借金です。借金をしてしまうと頭の中がお金のことだけになってしまい、いろんなことが上手くいかなくなってくるんですよ。

安江:借金でのスランプはこれまでになかったですね。どうしてそうなってしまったんですか?

5歳:専門学校を卒業したぐらいのとき、初めてクレジットカードを作ったんです。実際はお金がないのに、好きなものが買えて、楽しいことができて、これは「魔法のカード」だと(笑)。しかもリボ払いなので、最初の方の支払いは少しだけでいいわけです。

安江:ヤバい予感がしてきました(笑)。

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5歳:それで上限マックスの300万円ぐらいまでいってしまって。そこからが地獄でしたね。

安江:300万のリボ払いだったら毎月利子でも結構大変そう……。

5歳:毎月の返済が20万のうちほとんどが利子で元本がなかなか減らないんですよ。だから頑張って働いていたんですが、それでもお金が入ったらパチンコ屋に行って「絶対これで勝ってやる」という思考になっていました。

安江:着実に返すとかじゃなくなってくるんですね。

5歳:そうなんです。お金で苦しむと、お金のことしか考えられなくなるんです。その状態を脱するいいアイディアなんてなかなか生まれない。本当に苦しかったときは、銀行強盗をするしかないと思って、寝る前に「どうやったらうまくいくかな」と計画を建てるぐらいで……。

安江:うわあ、犯罪一歩手前だ……。

5歳:よく詐欺のニュースをみて、「詐欺する能力があるなら、もっとちゃんとした稼ぎ方があるじゃん」という人がいますけど、余裕があるからそう思えるだけで、お金がないと精神が蝕まれていくんですよ。「貧すれば鈍する」じゃないですけど、貧乏のときはポジティブな思考なんてできない。コンビニ強盗とか、パチンコ台叩き割ってしまう人の気持ちが僕にはよくわかるので、ニュースをみるたびに同情してしまいます。

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安江:でもそのあと、借金をどう返していったんですか?

5歳:ずっとそんな状態だったので、ある日「こんなこと考えてもしょうがない」と思った瞬間があって。それから死ぬものぐるいで働くと決めて、バイトを3つくらい掛け持ちしました。ほぼ寝ずに働いて、月60万ぐらい稼ぎましたね。

安江:バイトで60万はすごい!

5歳:今でも続けている整体の仕事から、寿司屋、パチンコ屋、生協の配達など、本当にいろんなバイトをしました。そんな中でもやはり文章を書く仕事をできたのは大きかったです。

安江:おお、今に繋がってきましたね。どんなきっかけがあったんですか?

5歳:バイトをしながらもTwitterをしていたんですが、少しずつフォロワーが増えてきたタイミングで、「記事を書いてみないか?」と依頼を受けたんです。それまでは肉体労働でしたが、「頭や自分のスキルを使って稼ぐ方法はもっといっぱいあるんだな」と気づいて、そこからはいいペースで返せるようになりました。それでも全額返済できたのは5年前とかなので、ここ最近ですね。

安江:約 10年……長いスランプでしたね。

5歳:本当に長かったです。もしかしたら同じ境遇の方もいらっしゃると思うので、借金を経験した僕からのアドバイスとしては、とにかく働くか、自分のスキルを身に着けて別な稼ぐ方法かを見つけて、貧困状態を脱しないといけません。お金の問題とは、ちゃんと正面から向き合わないと次のステップに進めない。一攫千金でお金が得られるとか、おいしい話はあまり考えない方がいいと思います。

「自分はできる」という根拠のない自信、それさえあれば生きていける

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安江:お金がないときにこそ、おいしい話に目が眩んでしまうんですよね。でも、当時の人間関係はどうだったんですか? そういうときって自己肯定感がなくなって、人間関係で失敗する人が多そうな気がします。

5歳:幸い、人間関係は大丈夫でしたね。「お金どうしよう」という焦りや悲壮感はもちろんありましたけど、誰かにあたることはなかったと思います。嫁と子どもがいたので、いかに不安にさせないかは大変でしたけど……。

安江:え、その状態で、お子さんがいたんですか! 奥さんはなんておっしゃっていたんですか?

5歳:ヤバいですよね……(笑)。借金のことを言ったら不安がると思って、「ちょっと借金あるんだよね、まあ返済するから大丈夫」と、全額は言ってなかったんです。全然大丈夫じゃないんですけどね(笑)。嫁には「なんでそんな働くの?」と見られていたかもしれませんが、こっちはこっちの事情で精一杯でしたね。

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安江:危ない橋をくぐりぬけてきたんですね(笑)。今でこそ笑い話ですが、当時は笑えなかったと思います。

5歳:借金に特化した記事一回出したことあるんですけど、「5歳さん、やばいです」と反響が大きかったです。自分がいかに危ない経験をしてきたのか実感しました。
今は毎年四月になると学生向けに「リボ払いがいかに危険か」というツイートをして絶対にリボ払いだけはしてはいけないぞという啓蒙活動をしています。リボ払いは本当に悪魔のシステムです!

安江:スランプ話のはずが、「リボ払い、ダメ、ゼッタイ」の話になってきた(笑)。

5歳:でもさっきおっしゃっていた自己肯定感がなくなるって話でいうと、僕、自己肯定感なくなったことないんですよね。

安江:そうなんですか?

5歳:「お前はできる」と言われて育てられてきたので、親には本当に感謝しています。銀行強盗をしようと考えているときは確かに前向きではなかったんですが、借金から脱したとき「やっぱり俺はできるんだ」と改めて思いましたね。
そういう「根拠のない自信」って生きていく上でとても大切だなと思っていて、それさえあれば生きていけるんじゃないかなと思っているんですよね。

安江:なるほど。

5歳:だから教育がとても大切です。これを読んでいる人がもし子育てをするとか、若い人たちを育てていく立場だとしたら、「大丈夫、できるよ!」という風に接してあげてほしいですね。

安江:「すごい!」と言われると、嬉しいですし、自身が持てますよね。

大人になってから自己肯定感を高めるためには「自分から与えること」

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安江:ただ、根拠のない自信は大事なんですが、期待値が高くありすぎちゃうと辛くなるのではないかと思ってしまうんですよね。漫画家の方と話している中でも、例えば「ジャンプの作家になる」と腹をくくったものの、それが実現されないためにアイデンティティが崩壊してしまい、スランプになってしまう話を聞いたことがあります。

5歳:確かに、自分では「できる」と思っているのに、実際できなかったときは苦しいだろうなと思います。でもそれは喜ばせる軸を自分に置きすぎているからだと思うんですよ。自己肯定感って自分のことをいかに喜ばせることができるか、というものですが、それって自分に向けたものだけじゃないと思います。
例えば、僕はライターですが、自分が楽しいものというよりも、「これを読んだら誰が喜ぶかな」と思って書いている。誰かが喜んでくれる瞬間が一番嬉しいというか。

安江:届いた瞬間に肯定されるわけですね。

5歳:だから、もちろん「ジャンプに載る」という夢は素晴らしいのですが、喜ばせる軸を自分から他人にシフトしてみると、実は別な雑誌の方がテイストが合ってて、そっちの方が多くの人に届けられるかもしれないと活路を見出すことができるはずです。自分の作品やクリエイティブにおいて、「誰を」一番喜ばせられるか考えるのはとても大事ですね。

安江:ジャンプに載って何になりたいか、何がしたいかっていうのがみえないと根拠のない自信も、自信をなくしてしまうものになりかねないと。

5歳:そうですね。もっとたくさんの人が喜ぶ、という観点で考えられれば、編集者から「この作品別の雑誌や漫画アプリに載せたらヒットすると思うよ」と言われたとき、柔軟にそれを受け入れられればその人の幅はもっと広がると思います。いずれにせよ、視野が狭くなっている状態はあまり良くないですね。

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安江:大人になってから自己肯定感を育むのはなかなか難しいと思うんですが、その場合はどうすればいいですか?

5歳:そうですね、それも他人軸の話と同じで、自分を肯定してくれる人と一緒にいることだと思います。自分はそのとき自己肯定感を持ってなくても、周りの人を褒めたり喜ばせたりすることはできるので、まず自分からしてみて、それをお互いにできる関係だと幸せなのかなと。

安江:僕もマネジメントをしていく中で「ギブ(与える)」の精神はとても大事だと思うことが多くて、「あなたのこと好きです信頼していますよ」「あなたの作品もっと見たい!」と伝えていたら自分に対しても何か返ってくるかもしれないし、返ってこなくてもいいけど、自分で言われて嬉しい言葉は積極的に伝えるようにしています。

5歳:やっぱり人は褒めて育つと思うし、僕も褒められて育ったタイプだから「叱咤激励」があまりいいと思えなくて。もしかしたらいい「叱咤」もあるんだとは思いますが、「激励だけでいいんじゃない?」と思います。
僕のライターとしての初めての仕事は、書いたものが良いのかどうかわからなかったんですが、編集者に「これおもしろいですよ」と言ってもらえて、そこで「俺、ライターできるのかもしれないな」って思ったんですよね。文章はボロボロだったかもしれないですが、ライターとしての自信がつきました。

安江:いい話ですね〜。じゃあ家庭でも、奥さんは全肯定してくれるんですか?

5歳:いや、それが全然で。「あんまり調子乗らないで」とよく言われます(笑)。

安江:漫画の通りなんですね!

5歳:でも、そばにいる人がいつも肯定していると、僕がどこまでも突っ走っちゃう気がしていて、だからいいバランスを保っていられると思います。

安江:奥さんがいてよかった(笑)。

(後半に続く)

■出演者プロフィール

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安江亮太(写真右)
DeNA IPプラットフォーム事業部長 / マンガボックス編集長
2011年DeNAに新卒入社。入社1年目の冬に韓国でのマーケティング組織の立ち上げを手がける。2年目に米国でのマーケティング業務。その後全社戦略の立案などの仕事を経て、現在はおもにマンガボックス、エブリスタの二事業を管掌する。DeNA次世代経営層ネクストボード第一期の1人。
Twitter: https://twitter.com/raytrb
5歳(写真左)
1983年生まれの37歳。7つ年下の嫁と、息子2人の4人家族。日々の家族日記をTwitterにつづる。好きなものは、嫁、息子、ビール、本。嫁に「これから子どもにお金が掛かるぞ〜」と毎日耳元で囁かれている。5歳さんと嫁と息子たちとの、ドタバタで愛情たっぷりの生活を漫画にした『ぼくの嫁の乱暴な愛情』(KADOKAWA)が発売中。また、現在会社設立のために奮闘中。
Twitter:https://twitter.com/meer_kato

ライター・撮影:高山諒
企画:おくりバント

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