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「結局不安はなくならないから」そのためにできること〜スランプさんいらっしゃい・ビジネス座談会後編〜

株式会社ディー・エヌ・エーが運営するマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」。有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、オリジナル作品の『ホリデイラブ』はTVドラマ化、『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスの編集長を務めるのは安江亮太さん。多くの事業を束ねてきた安江さんはこれまで数々のクリエイターや社員の悩みに乗り、解決に導いてきました。
今回は安江さんの飲み友だちというモリジュンヤさん、飯髙悠太さんとの対談企画。後半では二人が役員や経営者としてどのようなアプローチで課題と向き合ってきたか、そしてメンバーに対してどうアドバイスをしてきたかを中心に聞いていきます。前編はこちらから↓

過去を鑑みずにやりたいことやっていける方が、人生幸せになれるんじゃないだろうか

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安江:「(前編では)スランプではなく課題として捉えることで、前に進んでいく」という考え方がありました。じゃあ課題が生まれたとき、二人はどう考えているのかなというのを聞けたらと思ってます。

飯髙:これはそもそもの課題設定の話なんだけど、近視眼的にみないということが大事だなあと。これは僕が中学・高校でサッカー部のキャプテンをしていて、チームを見ていたときに気づいたんだけど、「今この問題があるからこれに対処する」という感じで一つずつ問題を潰していっても、すぐに結果が出るのって稀なんだよね。

安江:もっと先を考えないとダメってことなんですかね。

飯髙:そう。中長期的に課題を設定して、アプローチしていかなければならない。例えば、会社の営業成績が悪いとしたら、今すぐに解決するのって難しいけれど、「これとこれをしたら3ヶ月後にはこうなるよね」みたいな思考をするようにしてるの。逆にいえば「3ヶ月後なりたい像」を設定して、そのために何が必要かを考える。

モリ:それ大事だよね。課題に対して「できないことを分析して解決する」ギャップアプローチと、なりたい姿に対して「そうなれるようにするにはどうするかを考える」ポジティブアプローチがあって、今いってたのは後者の考え方だよね。

飯髙:そうそう。

モリ:時間軸でいうと、ちょっと先にプロットして「どこに行って何をやりたいんだっけ?」という思考が大切なんだよね。

安江:なるほどね。ただ、みんなが今役員や経営者になっているから、そのアプローチができているのかもしれないなと思っていて、もう少し具体的に深堀りたいな。メンバークラスだったときはどんなことを意識して仕事をしていたの?

モリ:会社でメンバーに話していることでもあるんだけど、「コントロール範囲を自分がどうやったら増やせるか」は意識していたかなあ。基本的に仕事のある一部分を見ていてもなかなか好転しなくて、「自分が関わっている仕事がどうしたら全体でうまくいくか」と考えて動くほうが仕事の効率もクオリティも上がるし、ストレスも減るんだよね。

安江:その考え方は確かに、仕事の解像度が高くなりそうだね。

モリ:あと、「過去の自分がこうだったから未来の自分がこう」という考え方はあんまりしないようにしているかな。もちろん過去の自分をみるのは大事だと思うんだけど、それをやりすぎることは自分の可能性が狭めてしまう気がしていて。

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モリ:例えば、ライティングの仕事をしていると「小さい頃から文章書いたり、本を読むのが好きだったんですか?」と質問されるんだけど、実は全然そんなことないんだよね。

安江:そうだよね。だって俺高校時代、ジュンヤに小説一冊おすすめしたら「小説って初めて読んだ」って言われたの覚えてるもん(笑)。

モリ:そうそう(笑)。人は何かに紐づけたくなるんだよね。何かにチャレンジするときでも「今から自分がやっても大丈夫か、やれている人は昔からやれていたんじゃないか」ということを考えがちなんだけど、実際そんなことなくて。せっかくやりたいことができたんだから、今までの人生関係なくやったほうがいいんじゃないかな。

安江:「(前半の)自分の常識や前提を手放せるか」という話もそこに近いよね。

モリ:そうだね。人生と紐づけることによって生まれるエネルギーと、足引っ張るもの、どちらもあると思うんだよ。でも、もし変わりたいんだったら、今までの人生とあんまり関係なくても、ジャンプして非連続的な人生をやったほうが、ハッピーなんじゃないかなあと思う。それはメンバーのときもそうだったし、今でもそう考えているかな。

飯髙:わかるなあ。新卒面接とかをしてると、「僕は御社に入る星の元に生まれたんです! だから入れてください」という人が多くて、それでももちろんいいんだけど、みんながそうじゃないのはもう知っているからさっていう。

安江:あるある。新卒はとりあえずそう言わなきゃいけないみたいな風潮も影響しているのかもしれないね。

飯髙:ジュンちゃんの今の話って、好きを仕事にする・しないにも共通していると思うな。

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安江:というと?

飯髙:仕事をするベクトルって“好き”と“得意”があると思う。この2つが上手いこと重なって、しかも、若いうちにそれを発見できる人って少ないじゃん。好きじゃないけど、いろいろ仕事をやってみたら「どうやら向いているのかもしれない」と思う瞬間があったとして、そこに舵を取っていくのも覚悟だと思うんだよね。

安江:稼ぐ手段が、「好きなことなのか」それとも「好きじゃないけど得意なことなのか」ということだよね。

飯髙:そうそう、別にそれでもいいわけだもんね。

フリーランスに必要な仕事への“意味づけ”とスキルの考え方

安江:今マネジメント・マネージャーというポジションの中で、いろいろ若手とかから相談を受けるケースがあると思うんだよね。そういうときは、どういう掘り下げ方をして、どうアドバイスをしているの?

モリ:僕の役割はコーチングとティーチングだと思っていて、まずは課題の特定をするかな。相談してくる人には、漠然とした不安や上手く仕事ができないモヤモヤが必ずあるから、「それが何によって起因しているのか」「そもそもどうなりたいのか」ということを言葉にして紐解いていく。

安江:特にジュンヤの場合、ライターさんや編集さんがいるけど、そういった方々から具体的にどんなことを言われるの?

モリ:フリーランスという働き方をしている場合の話にはなるけれど、「今仕事があるけど、自分の中で確かさがない」とか「自分のスキルをどう伸ばしていけばいいのかわからない」って相談はあるね。要は「自信が持てない」ということなんだよね。

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安江:これまでのこの『スランプさん』の連載も全部そうだったなあ。

モリ:そうでしょ。それって結局、ピープルマネジメント的な人が、こういう職業に対して少ないからなんだよね。だから、
・そもそもあなたは何がしたいんですか?
・それをすることで将来何がやりたいですか?
・何のためにそのスキル使って仕事してるんですか?
・それが経済で成立するためにどういうプランでいきますか?
・それはマーケットが成立してくるんですか?
とかは質問するようにしてるね。

安江:よくすらすら出てくるね(笑)。今の質問、これ読んでいる“スランプさん”にもぜひ考えてみてほしい。

モリ:漠然とした不安に追われるかどうかは、目の前の仕事が何につながっているかを考えられているかどうかで決まると思う。「この仕事であれば、一定の価値が出せる」といった将来の価値につながる実感を持ちながら仕事ができているのか、そうじゃないか。要は仕事の意味付けができてない人が多いんだよね。

安江:あーなるほど。

モリ:目の前に仕事に対して「ただ単に金を稼ぐためだけにやっている」「とりあえずお願いされたからやっている」という姿勢で向き合っていたら、特に学びは得られない。そんな仕事ばかりしていると、「何やっているんだっけ、自分」って不安になってしまう。やっていることが未来に繋がる実感は得られていないのに、忙しい状態だね。

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飯髙:そうなると、仕事に対しての意味付けやモチベーションを維持するのが難しいよね。

安江:これは会社員もそうで、いい上司がちゃんと意味づけをしてくれたらいいんだけど、ただ仕事を与えているだけのケースもよくあるよね。特にフリーランスは仕事を決めるのも自分の仕事だから、余計目の前のことに追われてしまうんだろうなあ。

モリ:「この仕事は何につながっているのか」という仕事への意味づけをする。価値をお金に変える仕事もあれば、将来の価値につなげるための仕事もある。今、価値になる仕事をしながら、将来価値につながるだろうスキルを習得したり、新しいことをはじめたりと、経験の“投資”にリソースを回せる。
その状態になると「これがダメだった時どうしよう」という不安は少なくなるんじゃないかな、とは思う。

安江:なるほどね。そういう風に話を聞いて、道筋を作っているわけだ。

「不安がなくなることはない」。だから自分がどこにいるのか位置を把握しておく必要がある

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安江:悠太はどう掘り下げてるの?

飯髙:ジュンちゃんも言ってる箇所もあるけど、
・自分がどうなりたいのか
・なりたい像がなければその組織で何を達成したいのか
・なりたい自分にとって正しい選択なのか
・覚悟を持ってやれるのか
・人に与えられた唯一の平等は時間で、その時間を使いきれるくらいの熱量なのか

このあたりは聞いていくかなあ。
また、お金の面での“意味づけ”という話をすると、自分の適正価格をわかっている人って不安になりにくいし、強いなと思う。

安江:どういうことだろう。

飯髙:例えばコンサルの仕事がきたときに、自分の仕事にちゃんと意味づけができていれば、仕事を因数分解をして適正な価格を提示できるの。営業も発生していて、マーケ設計でこのぐらい手を動かして、あとは外注するから、じゃあ月100万かなとか。それでも価格を決めるのが難しい場合は、他の会社や人と比べたりして。

安江:なるほど。

飯髙:適正価格がわかっていると、「ここまでもらわなくても、これできますよ」といえるし、逆に「もう少しアッパー出してくれるんだったら、これもできます」ということをフラットに提案できるわけ。そういう人ってやっぱりみている視座が違うんだよね。

モリ:わかるなあ。ライターの場合、書き手や原稿の難易度が同じでも、仕事によって全然価格が違うことがあるんだよね。例えば、BtoBのサービスに関連する記事を書く仕事とカルチャー紙に記事を寄稿する仕事があったとして、やっぱり前者の方が単価が高いことが多い。なぜならビジネスモデルが違うから。「BtoBでコンテンツを作る目的は何で、どこでお金が発生していて、どんな費用対効果があるのか」がわかっているかどうかでは大きな差なんだよね。

安江:逆にカルチャー紙で書くことが、例えば自分のプロモーションのため、と意味を見出していれば、適切な価格設定もできていることになるよね。

モリ:そうだね。

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飯髙:お金の流れを知っているのは大きいよね。近い話だと、二人は今のポジションだと社員から「自分がこれだけやっているから給料あげてくれ」っていう交渉があるでしょ。

安江:あるある。

飯髙:組織としてめちゃくちゃ利益出ているんだったら、「自分はそこに対してどれだけの役割を担った」という交渉はできる。でも、組織が儲かってないと基本的に給与って上がらないわけだから、まず動かしているプロジェクト全体を成功させなきゃいけないのよ。それがわからずに「これだけ頑張っているのになんで?」と考えちゃうと、スランプになっていくよね。

安江:そうだね。「自分が会社に認められてないんじゃないか」と捉えられてしまうよね。

飯髙:結局、自分でどれくらい自分のこと知っているかに尽きるよね。自分の位置がわかってないから不安になるし、スランプになる。だから仕事の座標の中で、自分がどこにいるのか位置を把握するのがとても大事なの。

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安江:俺も『スランプさん』でずっと意味づけや座標の把握をしてきたんだよなあと、なんかしっくりきたなあ。じゃあ最後、今不安を抱えていたり、スランプな人に一言お願いします。

飯髙:そうだなー。不安なのは僕もわかります。でもそれを言い出したら、これもう日本においては全員不安なんですよ。少子高齢化で、所得もこの20年間上がってないわけだから。そうなると貧困の国だって認めた上で仕事した方がいいと思うんだよね。だから不安がっているよりも、違う見方で進んでいきましょう。

モリ:そうだね。そもそも不安はなくならないから、不安に向き合える状態を作るためにどうすればいいのかに尽きると思います。

安江:「不安はなくならない」とわかっていることがなにより大きいよね。スキルがある人でも、30代でも変わらず不安はあるもんね。

高山:僕は40代でも不安です。

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▲急に不安を打ち明けだす高山社長

安江:高山さん、まだ不安なんですか!

一同:(笑)。


【出演者プロフィール】

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安江亮太
DeNA IPプラットフォーム事業部長 / マンガボックス編集長
2011年DeNAに新卒入社。入社1年目の冬に韓国でのマーケティング組織の立ち上げを手がける。2年目に米国でのマーケティング業務。その後全社戦略の立案などの仕事を経て、現在はおもにマンガボックス、エブリスタの二事業を管掌する。DeNA次世代経営層ネクストボード第一期の1人。
Twitter: https://twitter.com/raytrb

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モリジュンヤ
株式会社インクワイア代表取締役。「greenz.jp」副編集長を経て、ビジネス、テクノロジー領域のフリーライターとして活動。スタートアップニュースサイト「BRIDGE」の立ち上げに参画する他、スタートアップを中心にメディアの立ち上げやコンテンツ戦略を支援。2015年にインクワイアを創業、事業や組織に伴走する編集を行う。NPO法人soar副代表、FastGrow CCO。Twitter:https://twitter.com/junyamori

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飯髙 悠太
株式会社ホットリンク CMO。広告代理店、制作会社、スタートアップで複数のWebサービスやメディアを立ち上げる。企業のWebマーケティングやSNSプロモーションをはじめ、東証1部上場企業を含めて100社以上のコンサルティングを経験。2014年4月「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員に就任。2019年1月よりホットリンクに入社し、同年4月に執行役員CMOに就任。自著は『僕らはSNSでモノを買う』(5刷)、『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』。
Twitter:https:// twitter.com/yutaiitaka

ライター・撮影:高山諒
企画:おくりバント


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