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ありえたかもしれない未来を考える――くらもちふさこ『おばけたんご』

くらもちふさこといえば、『いつもポケットにショパン』『おしゃべり階段』『天然コケッコー』などの名作を思い浮かべる人が多いと思うのだけど、隠れた名作は『おばけたんご』だと思う。

昨年出た画集で(名久井直子さんが装丁していて、めちゃくちゃかっこいい)、『おばけたんご』について先生がコメントしていたのだけど、作品が描けなくなった後にようやく自分で描きたいと思えたのが『おばけたんご』だったというようなことが書かれていた。読者の人に見放されるかもしれないと思いながら描いた、と。実際に賛否両論だったらしいが、私はこの作品がくらもちふさこの漫画の中で一番好き。
くらもちふさこを語るとき、画力やストーリー、くらもち男子、カラーイラストなど、取り上げるべきことが多すぎるのだが、まず構成力が飛び抜けて上手いのだ。長編でも短編でも、作品全体でも1話の中でも、すべての要素がきれいに組み立てられていく。普通に読んだ後、コマ割りを見るために読み直し、絵の上手さを見るために読み直し、構成の巧妙さを感じるために読み直し、その度にくらもちふさこのすごさを実感する。

余談だが、藤本タツキの『ルックバック』を読んだとき、一番に『おばけたんご』を思い出した。「ありえたかもしれない未来」を「かつての自分が選んだからこうなった現在」と一緒に扱うことは、一種の救いになる。
さらに余談だが、藤本タツキの独特なコマの構図は、くらもちふさこの漫画の中でもたまに見かける。2人とも感性が近いのではないかと思っていて、なにか間違いが起こって対談とかしないかなあと妄想してしまう。

『おばけたんご』はコミックスもありますが、電子版でも良いなら、連載当時のカラーページを見られる全集をおすすめします。やっぱりくらもちふさこのカラーページは別格なので。全集8巻だと、『いろはにこんぺいと』も最高の作品です。


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