―満月から視た世界―「死相があると言われた女性の結末①」
こんにちは。満月叶子です。今回から新しいシリーズを執筆しようと思います。
私が実際に目にしたり耳にしたりした不思議な体験談を語るシリーズ「満月から視た世界」。ご本人の許可を得て執筆させていただいております。
あなたはこの話を聞いてどう感じるでしょうか。ぜひ最後まで読んで、あなたの感想をお聞かせください。
死相があると言われた女性の結末①
『あなたは占いを信じますか』
おそらく多くの人が「当たるも八卦当たらぬも八卦」ということわざを聞いたことがあると思います。
これは「占いとは当たることもあれば当たらないこともある」という意味です。つまり、必ず当たるとは限らないのですから、吉凶いずれにしても気にすることはないというたとえです。
これからお話しする女性は、まったく占いを気にしていませんでした。というより、むしろ、占いそのものを信じていませんでしたし、占いに興味さえありませんでした。
しかし、この女性は、占い師の言葉を信じざるを得なかったのです。なぜならば、「死相がある」と告げられたのは、二度目だったからです。
『占い師に呼び止められる』
七月のある晩のことです。十八歳の響子さん(仮名)は、渋谷駅の近くを大学の友人達と歩いておりました。人ごみの中で、肩に何かがぶつかったので、ちらりと横を見ました。
この時の響子さんは、よっぱらいのおじさんにでもぶつかったのかと思ったのです。しかし、響子さんの横に立っていたのは、五十代か六十代の見知らぬ女性でした。
「すみません」と言って、響子さんがその場を去ろうとした時、「ちょっと待って」と呼び止められたのです。
「どうしたの?」と友人が心配そうに響子さんに声をかけます。響子さんは、口元に手を添えて小声で友人に、「わからない、早く行こう」と言いますが、見知らぬ女性は響子さんに向かって「ちょっとこっちへ来て」と強引に話しかけるのです。
「何ですか」と女性をよく見ると、薄茶色の変わった衣装をまとっていて、不気味な雰囲気を漂わせておりました。
「あなた、たいへんなことになるから視てあげます。」と迷惑そうな顔をしている響子さんを気にも留めないのです。
隣にいた友人のひとりが、その女性に向かって「もしかして占い師さんですか」と尋ねました。
友人は、女性の数歩後ろにある薄明りに照らされたテーブルの上の水晶を見ていました。
『死相が現れていますよ』
響子さんと占い師は、薄暗い中、テーブルを挟んで向かい合って座りました。
「先ほどは、いきなり肩を叩いてしまって驚かれたでしょう。」占い師が言いました。
ぶつかったのではなく、肩を叩いたのか・・・響子さんは不思議そうに占い師の顔を見ます。
「お時間大丈夫かしら」と占い師が言ったので、響子さんは「少しなら」と気乗りしない声で返事をしました。
しかし、先に店に行っているという友人達を引き留めておかなかったことを後悔しました。
占い師は、まじまじと響子さんの顔を見た後に「右手の手のひらを見せて」と言いました。
言われた通りに、手のひらを差し出すと、占い師は響子さんの右手を掴んで灯篭の近くに持っていきました。
「あなたね、死相が現れているんですよ。」占い師は唐突に言ったのです。
「し・そ・う?」初めて言われた言葉に、響子さんは首を傾げました。
「そう死相。はっきり言うと、死ぬかもしれないということです。」
占い師は、冷静な口調で言いました。
死相と言われても突然のことで、響子さんにはぴんときませんでした。
「あのう、どういうことですか」
きょとんとした顔をしていると、そこで初めて氏名と生年月日を聞かれました。そして、占い師は星周りがどうだとか、あなたの顔の相がどうだとか、あれこれ説明し始めました。ですが、時間が経つにつれて、響子さんの恐怖心が膨らんできて、占い師の言葉が頭に入ってきません。
ただ「死相が現れている」という言葉だけが、響子さんの記憶の中に刻み込まれていたのです。
『名前を呼ぶ声』
響子さんが店の扉を開けると、先に着いていた友人達は、両手を振って「こっちこっち」と呼んでいます。
そして、友人達は、響子さんが占い師に何を言われたのかを代わる代わる尋ねました。
少しためらいながら「死相があるって言われた」と言うと、「死相?噓でしょ」と友人達は笑い転げました。
友人達の大笑いしている様子を見て、響子さんの気持ちが落ちつきました。
「今時の占い師はキャッチもすれば、占いの押し売りはするはでたいへんだね。占いって儲かるのかな。」などという話になり、響子さんは、気にしていたことが馬鹿らしくなり、占い代金として支払った千円さえ惜しく思い始めました。
翌八月、すっかり占い師ことも忘れて、大学のクラスメイト五人で軽井沢に遊びに行きました。テニスコートを借りて、ダブルスをしようということになりました。
テニスをやったことがなかった響子さんは、ベンチで応援することにしました。
しばらくして、友人が受け損ねたテニスボールが響子さんの足元に転がってきました。そして急いでボールを拾い上げた時です。
「響子」
誰かが名前を呼んだのです。
声がしたのは、友人達がいるテニスコートとは逆の方向だったので、そちらを向きました。
一瞬、眩しい光が見えました。正確には、見えたように感じただけで、その光はすぐに消え、目の前が真っ暗になりました。
とっさに響子さんは、両手で顔を覆いました。大丈夫という友人達の声が近づいてきました。
次にズキンと痛みが走り、響子さんは、目に何かが当たったことに気づきました。痛みのない方の目をそっと開け、片手を顔から離しました。
友人達の足元が見え、口々に、大丈夫?目に当たった?と心配そうな声が聞こえました。
「大丈夫・・・だと思う」やっとのことで響子さんは言葉を発します。しかし、片方の目は閉じたまま、押さえた手も離すことはできませんでした。
響子さんは友人に連れられて、病院に行くと眼底出血という診断を受けました。医師からは、もう少し強く当たっていたら失明していたかもしれないと言われました。ですが、今回は、数カ月で完治するだろうと言われた響子さんは安堵しました。
一緒に付き添ってくれた友人に、診断内容を伝えました。ほっとした顔を見せた友人でしたが、急に神妙な顔つきになり呟いたのです。
「急に怖くなっちゃったんだけど、確か、渋谷の占い師さんに、八月、九月、十月は注意しなさいって言われてたよね。」
(死相があると言われた女②へ続きます)
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