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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(32)

第三十二章
 ~共犯~

***
 ユリはマサミの部屋にいた。
 時々記憶を失っていること、アフターピルが間に合わなかったこと、サイトウに助けを求めたが、断られたことなどをマサミに報告し、対策を一緒に練るということで会っていた。

「何がどうなっているのか分からない。でも、やっぱり斉藤先生とのことは間違いだったということよね?」
「降霊の時にとどめていたら、問題はなかったのは確かよね。メンバーにはリアルでは厳禁と言って、優子も未希も守っていたのに、ユリは相手が身近にいるからどうしても欲求が抑えられなかったということになると思うよ。お陰で私たち全員がもしかしたらとてもまずい状況になっているんじゃないかな」
「そうよね。アタシ、どうしたらいい?」
「どうしたらいい、というのは愚問よね。早く対応しないと対応できなくなるのは分かっていると思うけど、斉藤先生は応じてくれない、ご両親にも言えないとなると、強行突破しかないかな」
「うう、できれば」
「できれば?何?何ができるの?何をしないといけないの?多分、こうしている間にも状況はどんどん悪化するのよ」
「分かっているけど、何かしようとすると気を失っていたり、記憶が一部なかったり、物を失くしたり」
「一緒に行動した方がいいかな。私ができるだけ重要な時に一緒に行動するよ」
「それって、病院とか、斉藤先生と会う時とか?」
「そうね」
「ありがとう。まずは病院を決めて、日にちを決めなくちゃ」
「そうね。明日、一緒に行こう」
「うん、ありがとう」
「午後、休んでいく?」
「目立つから、午前中の方がいいかなぁ」
「そうね。ねぇ、斉藤が邪魔しているってことはあり得る?」
「どういうこと?」
「自分はインキュバスだってユリに言ったのよね?」
「言った」
「インキュバスは夢魔むまっていって、夢の中で女性を誘惑する悪魔なんだけど、西洋では婚約中のカップルが結婚前に子供ができちゃった時はインキュバスのせいにするのよね」
「夢の中で誘惑されて子供ができちゃったってこと?」
「そういう言い訳をしないと教会の手前、結婚していないの子供ができちゃったことの言い訳ができないのよ。結婚は神の前での約束事で、その約束が成り立つ前に肉体関係を持つと、姦淫の戒めに反したことになるの。子供ができちゃうと、神との約束に反した行為をした証拠になっちゃうから、相手のせいにするのではなくて夢魔のせいにするの」
「でも、悪魔は人間と子供は作れないって」
「そうなの。多分、インキュバスが人間を妊娠させる方法には二つあると思うの。一つ目はサーキュバス、あ、インキュバスの女性版ね、が男性を誘惑して交わった結果集めてきた精液をインキュバスに渡して、インキュバスが夢の中で女性の体内にそれを入れて妊娠させる方法。二つ目はインキュバスが男性の精神と肉体を乗っ取って、その体を使って実際に女性と肉体関係を持って妊娠させる方法」
「アタシは斉藤先生と実際にエッチしたから、2番目の方法ってこと?」
「いや、降霊の時は精神だけだったはず。このルールは私たちじゃなくて、神の世界のルールだから問題ないはず。インキュバスがユリを学園で誘惑したのは、その声で、だったよね?」
「うん、斉藤先生の声に体が反応したっていうか」
「多分、ほかの子も、その母親たちもインキュバスの声に誘惑されたんだと思う。それがたまたまなのか本当にそうなのか、斉藤先生の声が素敵で、インキュバスはそれを使ったんだと思う」
「そして、斉藤先生の肉体でアタシや他の子を誘惑したの?」
「他の子は分からないけど、その母親たちは当然経験があるからハードルが低かったんじゃないかな。欲求不満やレスだったら、彼の誘惑に乗ってしまったケースがあるんじゃないかな。生徒達は全員が経験あるわけじゃないから、警戒する子、躊躇する子もいて、全員が斉藤先生と関係を持ったわけじゃないでしょう」
「アタシは元々先生が好きだったからすぐに関係を持ってしまったということね。でも、気を失っている時や夢の中での斉藤先生との行為は?」
「夢の中にユリがいるように思わせて、夢魔が斉藤先生の肉体を使ったこともあったんじゃないかな」
「じゃあ、気を失うとか記憶をなくすとかは?」
「それが問題なのよね。私には合理的な説明ができないわ」
「ルキフェルがアタシの時間を奪うと言っていたけど、その可能性ってある?」
「ルキフェル様はいつでも好きな時にユリの時間を取り上げることができるけど、そんなに都合よく、というかインキュバスに都合よくユリの記憶が消されたり、時間を取られたりしているとしたら、共犯ってこと?」
「その可能性、あるよね?でも、ルキフェルに聞くというのは、難しいよね?ゆり子の素朴な疑問であんなに激昂したじゃん?」
「ねぇ、ユリは明日の晩、ウチに来れる?」
「うん、大丈夫だと思うけど」
「二人でルキフェル様に相談してみない?」
「え、相談してって、大丈夫なの?機嫌悪くならない?というか、そんなことを聞いたら、アタシたちの首、引っこ抜かれない?梨花なんて、あの時怖くておしっこしちゃってたし、優子は過呼吸寸前だったのよ。高校生がたかが質問1つで命が掛かっちゃうなんて思いもしなかったから」
「だから、私の家でユリと私の二人だけで降霊をするの」

 ユリはマサミの顔を覗き込んで、本気なのを確認した。

「できるの?最低五人必要じゃないの?」
「私、自分の血で結界を完成させる方法を見つけたの」
「血?」

 マサミはユリに自分の左手を見せた。
 ユリはマサミがしばらく包帯を巻いていたことを思い出していた。そして、その左掌の真ん中に大きな傷があった。

「左手をナイフで切って、血を流し、五芒星の先端、西の先端、に垂らすと炎が五芒星の形に上がり、結界が完成してルキフェル様が降臨するの」
「いつそんなことを知ったの?」
「今回、サクラとスミレのことを調べようと思った時に見つけたの。だから、実はメチャ最近よ」
「やったことあるのね?というか、出来るのね、降霊」
「うん。でもね、その時のルキフェル様、なんか普段と違ったのよね」
「普段と違う?初めから機嫌が悪かったの?」
「ううん、そうじゃなくて、私たちと話したことを忘れていたような気がしたの」
「え、ルキフェルも記憶をなくしていたの?」
「そういう感じじゃなくて、普段より慎重で、私たちが"西の部屋"でしていたことに否定的だったの」
「初めから賛成はしていないと思うけど、確かに、反対もしていなかったよね」
「それが、お前たちの欲求は分かるけど、あまりそれに流されるなよって感じだったの」
「普段は何も言わずに見守っているよね。まぁ、賛成しているわけではないんでしょうけど、黙認というか」
「それで、さっき共犯の可能性をちょっと考えたんだけど、私たちがこれまで降霊で話してきたルキフェル様と私が先日一人で話したルキフェル様が違うとすると、考え方の違いにも納得できるけど、同じルキフェル様だとしたら二重人格というか」
「明日、それを確かめようとした時、ルキフェルが怒ったら、アタシたち無事でいられるの?」
「それはもう賭けだね」
「うわぁ、めちゃ不利な賭けはやっちゃいけないって斉藤先生が」
「数学的に正しいことを説明してくれたのよね?」
「間違ってはいないし、受験で使うから」

 ユリの気持ちが少し改善したのをマサミは感じた。

「じゃあ、明日ね」
「うん、7時?」
「いや、学校からずっと一緒にいた方がいいと思うから、放課後から一緒にうちに来て、夕食を一緒に食べて、すぐに勉強することにして、屋根裏部屋に上がろう」

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