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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(26)

第二十六章
 ~私の時間はどこへ~

 ユリの中で果てた斉藤は、腰を押しつけたまま、ペニスが全く動かなくなるまで、精液が全てユリの中に流れ出すまで待った。

 ユリは気持ち良さにまだ体が震えていた。

<ああ、すごかったわ。『本当にイく』ってこういうことよね。ホント、斉藤先生、最高!まだ抜かずにいるところも、いいわ>

 ユリの膣中なかで斉藤のペニスが徐々に硬さを失っていった。

「あ」

 斉藤のペニスがユリから押し出された。感想も感動もなく、彼は事実をユリに伝えた。

「押し出されたね」

 ユリはコクンと頷き、両腕を伸ばして、斉藤を抱きしめた。

「先生、これは夢?」
「どうだろう?
 ユリ君が両腕で掴んでいるのが俺なら、夢じゃないんじゃないか?」
「うん、夢じゃない!嬉しい」

 ユリは完全に肉体の欲求に支配されていた。いわゆる危険日に、避妊もせずに何度も男性の精液を注ぎ込まれれば、妊娠する可能性がいかに高まるか、知らないはずはないのに、それに考えが及んでいなかった。
 保健体育の授業のレベルの話しではなく、女子生徒の防衛本能としての避妊の大切さと、妊娠したい女性として性行為を求める本能とがせめぎ合った。その結果、ユリは今回、自分では制御不能な事態に陥って、本能のままに斉藤を求めてしまったのだ。

 密かに斉藤に気持ちを寄せていると噂のあった2年先輩の望月もちづき紗綾さあやが突然学校を転校して行ったことがあった。表向きは父親の転勤について行くということだった。まさか斉藤の子を身籠った結果、彼女の家庭が崩壊し、彼女は母親と地方に引っ越し、父親だけが東京に残っていたことを生徒たちは知らなかった。
 ユリには思いもよらない原因だったが、今ならそういう事態も有り得ることが理解できただろう。

「ユリ君、俺のことをどう思っているんだ?」
「好きよ」
「俺のためにいろいろ頑張ってくれるか?」
「もちろん!どんな事?」
「この学園を崩壊させる手伝いをして欲しい」
「え?」

 そこでユリは目が覚めた。全身汗びっしょりだったし、股間から何かが流れ出ていた。

<え、ちょっと待って。今のは夢じゃなかったの?何これ?>

 ユリは布団をまくり、股間から流れ出た液体を指で掬い、目の前まで持ってきて見つめた。臭いも嗅いで、精液だと確認した。

<まさか?!昨日の晩からアタシが夢の中の出来事と思っていたことは、実際に起こっていた、ということ?!え、排卵期なのにアタシ、生でしちゃったの?先生にたくさん出されたの?アフターピル、そう、アフターピルを飲まなくちゃ>

 何となく気だるい体を奮い起こして、ベッドを出たユリはカバンを開けて、アレ?となった。たか子にもらったはずのアフターピルがない。アレ?たか子んちの病院に立ち寄ったよね?なんでないの?まさか?!え、寄らずに真っ直ぐに帰ってきちゃったの、アタシ?

 ユリは携帯電話を出して、松田たか子に連絡してみた。

ユリ:ごめん、遅い時間に
たか子:ううん、大丈夫よ。
 それより大丈夫なの、ユリ?
 寄らずに帰るって連絡あったけど、一応用意しておいたよ
ユリ:ありがとう、いろいろあって、真っ直ぐ帰宅したの。
 今から行ってもいい?
たか子:え、受付はもう閉まっているよ。
 本当はいけないんだけど、取敢えずアタシのを分けてあげるね。
 明日にでも病院の分をちゃんと受取って、それで私に返して。
ユリ:うん、分かった。
 今から行くね。
たか子:分かったわ、気を付けてね

 ユリの自宅とたか子の実家=病院は自転車で20分くらいの距離だった。途中で何かあったら嫌だから、ユリはタクシーを使うことにして、出掛けた。
 タクシーはすぐに捉まったものの、ちょうど中間地点にある駅の混雑を避けるために、商店街の裏道を行こうとしたら、水道管工事の規制にぶつかり、思わぬ時間を取られてしまった。

「運転手さん、このまま待ってて」
「はい」

 ユリはたか子の家から1ブロック離れたところで一旦降りて、たか子の家に向かって歩き出した。

<うう、頭が割れそうに痛い。寝ている場合じゃない。たか子の家に行かなくちゃ>

 ユリは布団を捲り、起き上がった。

<あれっ、たか子のところに出掛けたよね、アタシ?ちょっと待って、どうなってるの、これ?>

 ユリは自分の部屋にいた。戻っていたのか、そもそも出掛けなかったのか、あやふやだった。

<どうなっているのよ、コレ!?>

 自分では答えられない疑問が頭をよぎった。自分の行動を自分で把握できない。ユリの顔は少しずつ青くなっていった。

<え、アタシ、たか子のところには行ってないの?>

 ユリは携帯電話をバッグから取り出して、通話履歴を調べた。たか子とは夕方に話してからもう一度通話した記録があった。
 恐る恐るその通話記録をタップしてみた。携帯電話は松田たか子に電話を架け、彼女が出るまで待った。

たか子:もしもし、ユリ、だいじょうぶ?
ユリ:ごめん、私、出掛けようと思っていたら、寝落ちしちゃったみたい。
たか子:今日2回も学校で倒れたからだいぶ具合が悪いんだと思うわ。
ユリ:明日、アフタ、学校で貰ってもいい?
たか子:いいけど、明日の朝じゃ効果ないかもよ。
ユリ:やっぱり、そうよね。たか子、もう少し起きている?
たか子:うん、待つよ。近くまで来たら、電話して。出て行くよ。
ユリ:ありがとう、すぐに出るわ。

 ユリは再度タクシーを拾い、夜間工事箇所を避けるよう、運転手に市役所の裏の道を南に行くよう指示し、松田病院の東側のたか子の自宅の裏に着いた。

ユリ:たか子、ごめん、着いたわ。
たか子:今、降りていくわ。自転車置き場、分かるよね?
ユリ:うん、そこにいる。
たか子:すぐに行くわ。
ユリ:ありがとう。

 ガチャ、ガチャ、カキン。

たか子:はい。
ユリ:ありがとう。
たか子:ごめんね、余計なことだとは思うけど、ユリ、今日二回も倒れているんだから、これ、気を付けてね。
ユリ:心配してくれて、ありがとう。大丈夫。アタシ、飲まないといけないの、コレ。
たか子:理由は深くは聞かないけど、これ飲むとどういうことが起こるか知ってるよね?明日、学校休んだ方がいいかもよ。
ユリ:そうだよね、辛いことになるよね、アタシ。
たか子:非常時対策だからね、慎重に。
ユリ:ありがとう。気を付けるわ。本当に助かった。
たか子:過去形にするにはまだ早いよ。
ユリ:そうよね。じゃあ、戻るね、アタシ。
たか子:うん、おやすみ。

 たか子は勝手口の前にある自転車置き場に降りてきて、ユリに病院で薬を貰う場合の白い袋を渡してくれた。今は処方箋を薬剤師がいる薬局に持って行って処方してもらうことになっているが、一部の薬は病院内にストックがある。
 しかし、ユリが窓口が開いている時間までに病院に来れなかったから、たか子が自分用に確保していたアフターピルを先に渡してくれた。厳密に言うと違法行為だし、医者の処方箋がない状態で薬剤のやり取りをしてはいけない。

<アタシ、倒れるわ、記憶をなくすわ、気が付くと"振出し"に戻っているわ、ここ数日、おかしなことばかりが起こっている。体調が悪いだけでは説明できないことよね>

 ユリは自問自答しながら、タクシーに乗り込み、自宅に向かうよう指示した。今回は商店街の反対側を遠回りするようタクシーを走らせた。急がば回れ、混雑箇所も工事箇所も上手く避けられた。

<上手くいったわ。後は部屋で落ち着いて状況を把握し、必要ならマサミにも相談しよう>

 ユリは自分の部屋に着いたらすぐに袋を開け、ピルを一つ取り出し、ケトルの湯をカップに入れて覚ました。

<5分あればいいかな。その間にマサミに相談しよう>

ユリ🌸:マサミ、今話せる?
💖💖:大丈夫?私は大丈夫よ

 マサミはラインのユーザー登録に名前ではなく絵文字だけを登録していた。
 最近の流行なのか、自分の名前を知られたくない相手にはちょうど良い設定だった。
 パパ活をしていた同級生が猫の絵文字を設定していて、本名を知られずにラインでやり取りできるから便利と言ってマサミに教えたのだ。その子の本名はあずさだったが、"パパ"には麻美あさみと名乗っていた。ラインを交換しても表示が猫だったから何とでも言えたし、パパもいちいち追求しなかったようだ。

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