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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(35)

第三十五章
 ~二人のルキフェル?~

 週刊誌の特集には過去の学生が引き起こした事件との比較に加え、今回の特殊性も明記しながら、『誤って母を殺してしまった高校生に警察はもっと思いやりを持って接することができなかったのか?既に母親が父親を刺すという悲劇が家庭内で起こっていたのに、生きていく希望を失うような言動が問題』だと厳しく指弾した。

 裁判も終わっていないのに、勝手に犯人であるかのように報道を平気でするマスコミが良く言うよな、と思う人がいた半面、今回はメディアもようやくちゃんと意見を言うようになったと感じた人たちもいた。
 ただ、黒幕であるアメヌルタディドにしてみたら、どちらも茶番で互いを褒め殺しにするくだらない連中だと映った。

 肝心なのはユーリカウとマサミンの動きだった。ケラスースを事故で失い、ヴィオラが家庭内の問題で命を絶ったのは不幸だが、学園への影響はまだ出ていないと言えた。
 業績の良い、情熱的な先生と学園のリーダー的生徒とのスキャンダル、しかも、最も忌むべき性的関係とその結果の妊娠は学園に相当なインパクトを与え、社会的にも衝撃的な事実と映るだろう。
 それを使ってアメヌルタディドはこれまで見てきた西洋キリスト教社会での社会崩壊とは違う崩壊モデルを試したかったのだ。

「ユータリス、どうだ、あの東洋系の娘・ユーリカウは?」
「体の成熟ぶりは同級生のユリカイアに比べ少し劣ると感じる部分はありますが、不思議と性的にはユーリカウの方が成熟が進んでいます。
 元々性的な興味が強いことと、年若い頃から経験を積んでいることが要因のようです」
「経験を積んでいたのか、ユーリカウは?」
「はい、親友のマサミンは全く経験がないようですが、ユーリカウは初潮を迎えてすぐの時期から男性を迎え入れていました」
「随分違うな親友同士でも。
 尤も、この国の結婚制度では初潮を迎え、子を身籠ることが可能となっても結婚できないことに加え、実際に結婚する年齢が上がっているようだな」
「結婚して一緒に生活を営めるほどの収入を得られないのが要因の一つですし、子育て支援が不備だらけなど社会的欠陥が改善、解消されていないのが原因の様です」
「これほど社会が発展しても家族を育てられないのは大問題だな」

 そう話しているうちに学校の授業が終わり、マサミンとユーリカウが一緒に下校するのが見えた。

「見てみろ、仲良く下校しているな、マサミンとユーリカウ」
「いまだにメディアが下校する生徒へのインタビューを試みるという不躾な行動を続けているようです。
 学校側の指導で生徒は小集団で登下校し、なるべくインタビューに応じないよう言われているからでしょうね。
 多分、今夜、ユーリカウはマサミンのところで勉強をするものと思われます」
「そうか、定期試験とやらが近付いているし、ユーリカウにしてみたらマサミンに相談したいことがたくさんあるのだろう。
 しかし、中心メンバーのヴィオラとケラスースを欠き、他の女子生徒が降霊実施を躊躇している限り、大天使ルキフェルにアドバイスも救いも求めることができぬだろう」
「我々の計画を進めるには好機と存じます」
「おう、進めよ、ユータリス。
 儂はユーリカウの次の行動とマサミンに与える影響をみたいぞ」

***
 校門を出て、北に向かうマサミとユリはある疑念をぬぐえずにいた。
 それは自分たちが今まで話をしてきて、信頼してきた大天使ルキフェルが本人ではなく、別の天界の住人ではないかということ。その住人はこれまでずっと大天使ルキフェルのフリをしていて、アドバイスなどをしてくれたのだ。それも的確で、自分たちの役に立つ内容だったため、一度たりとも本人かどうかを疑ったことがなかったくらいに。
 ところが、今回のユリのケースは何かがおかしい。まるでインキュバスだと名乗ったユータリスと共謀してユリを危機に陥れようとしているような展開だ。タイミングよく、ユリが記憶をなくしたり、ものをなくしたりするように、ルキフェルがユーリタスをサポートしているように感じられるのだ。
 いや、サクラ、スミレのことも何かが普段と違っていた。こんな急に"死"が身近になるなど、考えられない。七十歳を過ぎていたらもう少し"死"は身近なことだろうけど、まだ十七歳で死は"遠い存在、遠い現象"のはずだ。

 マサミは先日の単独降霊の時の話をユリにした。自分が単独で降霊を行った時に話した天界の住人が本当の大天使ルキフェルである可能性が高いと感じたのだ。話していて、なんでもいいよとはいかない雰囲気があった。彼の中に厳然とした基準があって、それを越えようとする発言には耳を貸さなかったからだ。
 明確に言い切れるわけではないが、二人は違うと感じていた。

「仮に今までのルキフェル様をA、私が単独で会ったのをBとすると、Bの方が本物ぽかった」
「BはAみたいに激昂したりするのかな?」
「ルールは重視している感じは一緒だけど、Bは私が約束を破るとか、疑問を呈するとか、何も不思議に感じてはいなかったよ。だから普通に質問できたんけどね」
「でも、いままでAは私たちにきちんと接してくれたよね?」
「私たちが彼よりも劣る生物との認識だからじゃないかな。
 だからこそ、彼の判断や意見を疑うような言動は挑戦だと感じたんだと思う」
「それは学校の先生だって、親とか上の世代だって皆同じじゃない?」
「まあ、そうよね、私たちみたいな小娘に意見されるのが不快なんでしょうね、皆」

 そうなると、これまで話してきたルキフェルAはいったい誰なのか?どうして今まで良きアドバイスをしてくれて、良き道に導いてくれていたのか。時にはそのルキフェルには厳しいことを言われ、怖い思いもしたが、正しいと納得できる内容のことがほとんどだった。
 しかし、ユリを悩ませているユータリスがインキュバス=夢魔だとすると、悪魔のユータリスと大天使のルキフェルは共謀できるのか?もう何万年も戦争状態にあって、共謀も共闘もあり得ない気がするのだが。

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