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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(31)

第三十一章
 ~役者が揃う~

 そう話す二人の後ろに静かに近づく者がいた。インキュバスのユータリスは鞘から短刀を抜き、アメヌルタディドは鋼鉄をも切り裂く爪を伸ばして格闘に備えた。

<我々の存在に気が付くのは、天界の住人だけだ。まさかルキフェル兄は我々の企みに気が付いてここに来たのか?>

 二人は準備万端の武器を突き出しながら、ゆっくり振り向いた。

「お久しぶりです。
 あら、物騒ですね。
 ご心配の兄天使ではなく、しがないサーキュバスのナアマでございます」
「おう、ナアマ、お前の話をしていたところだ」

 ユータリスは短刀を収め、アメヌルタディドは鋼鉄の爪を防具の中に引き込んで収納した。

 彼等の背後に迫ったのは、ユータリスに協力して、学園の子達の父親を誘惑していた、ナアマだった。精力旺盛な男性を誘惑し、性の虜にして堕落させるサーキュバスの一人だった。

「私が人間の男性と随分と楽しんでいた、とユータリスが報告されていたのですか?」
「そうだ。
 どうだった、東洋人の若い女性に乗り移った感じは」
「東洋人の若い女性は健康管理や自己研鑽はとにかく時間を掛け、徹底していますね。
 驚きました。
 また、社会全体が若さを重視する点に驚かされました。
 そして、家庭内での性生活の不足度合に呆れるばかりです。
 決まったパートナーがいるのだから、狩りに出かけなくてもいいの、なにゆえ男性は別のパートナー、しかも性交をするためのパートナーを求めるのか、分かりません。
 まぁ、決まったパートナーとは出来ない性技を楽しみたい気持ちがあるのは理解出来ましたが、どうして決まったパートナーがそういう要求には応じないのか、不思議です。
 それに性技及び体位のバリエーションが多い割には、サド・マゾをタブー視する社会性は古風というか、閉鎖的というか」
「お前もこの歪みが気になるか」
「はい、独特の社会性が育っているのは平和な社会を作るにはいいのですが、多様性がなくなりますし、変化を受け入れるのに多大な労力と時間が必要でしょう」
「まぁ、低迷する社会、経済、政治の原因の一部がそこにあるのだろう」
「今回はそこから風穴を開けてみようということだ」
「アメヌルタディド様、難しゅうございます、この社会を変えるのは」
「ほお、何故だ」
「為政者層が年老いている上に多様性がなく、資産の分配が上手くいってないですし、税の負担が不平等すぎます。
 これでは能力ある者が何かやろうという気が失せるでしょう。
 社会をひっくり返そうという若い層も元気がありません。
 クーデターを起こそうにも軍人たちも真面目で政治にも人民にもきちんと寄り添っています」
「総じて平和で良い社会ではないか」
「否定はしません」
「しかし、人民は疲弊しているし、幸福感が低い、とお前は言いたいのだろう?」
「はい。
 残念ながら、安定した社会だからこそ、出産数が減り、人民の数が減り、勢いがありません」
「儂がこれまで見てきた帝国にも王国にもないパターンだな」
「だからこそ崩壊にも時間がかかりそうな気がします」
「クーデターも革命もない社会とは為政者にとっての理想郷だが」
「まことに」
「次はユータリスと共にユーリカウにとどめを刺します」
「ほお、して、どのように?」
「既に子流しの薬が効かない期間に入りました。
 この国の制度では未成年ならば保護者の承諾を受ければ堕胎手術を行うことが可能ですが、果たして、ユーリカウが親と斉藤の了承を取り付けられるか」
「相手はあのボーイフレンドに変えて、偽って承諾書類を作成したらどうなる」

 そこでユータリスが会話に割って入って。

「紛失します、その書類を、何度も。
 結局は医療施設に辿り着くことはありません。
 ユーリカウは既に時間と記憶の喪失を経験しており、不安が心の中に広がっていて、無力感が彼女の精神を覆い始めています」
「お前、というかサイトウに救いを求めることはないのか?」
「もちろん、そういうことも考えられますが、その時サイトウは冷たく彼女を突き放します」
「そして、彼女がどこの誰に救いを求めることになるのだろう?」
「いるのでしょうか、彼女が救いを求められる人物が」
「して、その先に彼女を待っているのは?」
「破滅です」

 ここまではユータリスの計画は悪くない内容だった。ユリは日に日にお腹の中で大きくなるサイトウとの子に恐怖を感じ、不安を募らせていく。相手、つまりお腹の中の子の父親であるサイトウには冷たくあしらわれてしまうので、親友のマサミに救いを求めるだろう。

<ここで、マサミンは救いの手を差し伸べようとするが、時既に遅しとなっている中で何ができるのか、見ものだ>

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