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月と六文銭・第十九章(02)

鄭衛桑間(02)

 鄭衛桑間ていえいそうかん:鄭と衛は春秋時代の王朝の名。両国の音楽は淫らなものであったため、国が滅んだとされている。桑間は衛の濮水ぼくすいのほとりの地名のこと。いん紂王ちゅうおうの作った淫靡な音楽のことも指す。

 元アナウンサーの播本優香はりもと・ゆうかとは、彼女がまだ学生だった頃、彼女の大学の部活動を通じて武田と知り合った。武田は就職活動の相談を受けたりしていたが、彼女の第一志望は金融ではなく、アナウンサーになることだった。地方で就職したと聞いていたが、突然、連絡が来るようになって、やり取りをするようになった。


 播本が実家に身を寄せてからさらに1年ほどの協議で離婚が成立したということだった。
 播本は自分の名前の由来が当時のグラビアアイドル、現司会者、女優だと話していたが、播本はその女優同様ナイスバディな女性で、旦那はそこが良かったと初めから公言して付き合っていた。
 播本は、女子アナにありがちな「胸の大きさ」とか「スタイルの良さ」が人気のバロメーターとなって先行し、取材力や伝える力(活舌?)は二の次にされてしまうことに戸惑いを感じていた時期もあった。
 しかし、写真週刊誌の『地方の美人アナ』特集に何度か取り上げられ、これをてこに東京キー局への移動を狙っていた時期に妊娠・出産による休職は彼女にとって痛かったようだ。
 神奈川に戻ってからは、まず子供との生活を確立することを優先してきた。それも少しずつ安定してきたので、あちこちに連絡を取ってメディア会社への再就職などに取り組んでいたが、上手くいかず、実家に戻ってから始めたアパレルの仕事をメインにしていた。
 そんな時、以前金融セミナーを担当し、就職試験を受けた際には面接で会った武田が、AGI投資顧問のニュース解説コーナーに出ているのを見て、連絡を取ってみようと考えついた、と話した。

 この時は生牡蠣とパスタがメインの軽めのランチを食べ、会話を楽しんだ二人だった。

「優香、次はちょっとお出かけしたいな」
「ああ、そうしましょう」
「朝早いですが、みなとみらいなんてどうですか?」
「いいですね、行きましょう!」


***
『再会第二弾』は横浜で会った。

 播本が横浜に用事があるということで、早朝に横浜まで足を伸ばして、仕事前に朝の山下公園を散歩した。
 初めから播本は積極的で、武田の手を握り、止まって景色を眺める度にキスをした。

「ねぇ、ハグしよ?」
「いいですよ」

 播本は腕を武田の胴の周りに巻き付け、体を密着させた。157cmの優香はあまり高くないパンプスを履くと武田とちょうど釣り合うくらいで甘えてキスをする角度がちょうど良かった。

「ねぇ、何か当たったよ」
「なんだろう?
 確かめてみたら?」
「え、優香、そういうことしない」

 20代も後半にもなっているのに"自意識過剰な要注意女性"は自分のことを自分の名前で呼ぶ傾向がある。
 その昔、巨乳タレントの加藤紅緒かとう・べにおがブリッ子のようなキャラクターで人気を博したり、アンチが大量に発生したことがあったが、男性からすると"可愛い!"と思う瞬間と"アホか!?"と思う瞬間が交互に来るタイプの女性だった。
 播本も人妻だから、少なくとも男性経験があり、性的には成熟していると思われるので、播本が武田の男根を握って撫でようが、しごこうが誰も批判をしないし、驚かないだろう。公衆の面前でするのは別の問題だが。

「そうか、じゃあ、お預けでもいいんですね?」
「え、お預けって?」
「お預けって、今は無しということです。
 僕はそろそろ行かなくちゃいけないし、播本さんもそろそろ用事に向かわないといけない時間じゃないかな?」

 二人がいたのは横浜のみなとみらい地区だったが、播本が用事があるのはこの先のランドマークタワーで、武田は東京に戻らないといけなかったが、それでも品川の案件だったからすごく遠いわけではなかった。

「優香、意地悪しないで欲しい」
「そうですか、意地悪をしているのはどっちかな?」

 播本はそっと手を伸ばして武田の男根に触れた。

「元気なの?」
「握ってごらん」

 播本は今度は余計なことを言わず、コクンと頷いて左手でズボンの上から形を確かめるように握った。

「硬い、すごく。
 武田さん、すごく硬いわ」

 播本は目の周りが赤く熱っぽくなり、顔を上気させていた。

「どうしたのですか?」

 武田は意地悪く聞いた。

「優香、用事に行かなくちゃいけないのに…」
「そうですよね」
「意地悪!
 何、その言い方?!」
「播本さんはこれが欲しいの?」


 武田は自分の手を播本の手の上に置いた。結果的に播本の手は武田の元気な男根に触れ続けることとなった。

 播本は離婚協議中に何人かの同級生に相談していたが、大学時代のサークルで仲の良かった男性とは相談後、一度だけだったが、そのまま肉体関係を持った。男女の"あるある"と言えばそれまでだが、そうなることが予想できたのに、本当にそうなるのは脇が甘いというかガードが甘い女性なのだろう。
 本当に甘える相手が欲しかったのか、その時は自分でも分からなかったが、今にして思えばその男性は自分のナイスバディを抱きたかっただけだったことは分かっている。

 しかし、今は違う。今、自分は完全に独身。武田は生活の安定度が抜群、お金の使い方も分かっている。女性の扱いも上手で居心地が良い。育児を手伝ってくれるとは思えないが、それは実家の親の協力が得られる今は問題ではない。メディアにコネがあることも多少プラスだろう。
 自分が求めているのは女性として扱われること、女性として大切にされること。武田ならそれができる気がする。

「優香、手に書くね」

 そう言って播本は武田の手を取り、掌に「ホ」「シ」「イ」と一字ずつカタカナで書いた。

「でも、明日辺りから女の子の日が来ちゃうから来週まで我慢しなくちゃいけないの」

 あと2、3日で生理が来る。体的にはセックスしたくて仕方がないのだ。胸が張っているから触られたら痛いと感じるのはマイナスだったが、それ以外は自分の女性の部分がいつでも受け入れ可能と言えるくらい充血していて、少しでも武田が触れたらすぐに潤いが腿の内側を伝って流れる状態になるだろう。

<自分は欲しいの、武田の、元気なコレ。まったくぅ、分かってて私に触らせたのよね、この元気なモノに!別れたら駅のトイレで携帯用バイブを突っ込まないと収まらないわ。彼と部屋に行く時間はもうないんだもの。持ってきていてよかったわ>

 別れて、品川に到着する頃に武田の携帯電話に播本からラインのメッセージが入った。

ゆーとたー:今日は時間を作ってくれてありがとうございました💛
 もう我慢できなくて、別れた後、トイレでおもちゃ入れちゃいました💦
 次回は絶対絶対逞しいアレを入れてください💖


***
『再会第三弾』は再び品川で。

 品川の駅から少し離れた洒落た鮨屋で二人でゆっくりと話をした後、夜景のきれいな部屋でメイクラブすることとなった。
 日にちは少し開いてしまうが、播本の生理が完全に終わってからということになった。少しでも出血があって雰囲気を壊すようなことをしたくないとの理由だった。

ゆーとたー:武田さんが気に入ってくれると思う
 ワンピースの下に私のお気に入りの
 ランジェリーを着て行きますね💖
tt:どんなものだろう?
ゆーとたー:パルフェージって聞いたことありますか?
tt:知っています
ゆーとたー:さすが、というか、武田さんって知らないことってあるの?
tt:優香さんのスリーサイズと初体験の相手と経験人数
ゆーとたー:教えないよ、べぇー👅
tt:終わるのいつでしたっけ?
ゆーとたー:次のお約束の日の2日前くらいかな🤔
 完全に終わっている状態にしたいので、
 2、3日空けさせてください
tt:もちろん

 播本は武田には言ってなかったが、夫との行為で、彼が避妊をしなくていいからと生理が終わるか終わらないかの時期に、コンドームを着けずに入れてくるのが嫌で、一種のトラウマになっていた。
 時には完全に終わっていなくて、血が出てくることもあり、その度に夫は嫌な顔をして播本を罵った。自分としてはちゃんとまだ完全に終わっていないと告げたのに、入れたがったのが夫の方で、血が出てきたからと文句を言われても…。
 また、その結果、3回に1回は膀胱炎になって病院に通わないといけなくなり、いくら言ってもやめない夫との夜の生活が疎かになっていったのは当然の成り行きだった。それをまた彼は「俺に興味がなくなったのか」とか、「俺を避けているのか」との批判を繰り返した。典型的な夫婦のすれ違いのパターンだろう。

tt:食べ物、貝類はだめでしたっけ?
ゆーとたー:ホタテだけ大丈夫です
 イクラとかウニとかもダメです
 ワサビもたくさんはちょっと…
 おこちゃまな味覚で恥ずかしい
tt:個性ですよ
ゆーとたー:ありがとうございます
 そういう感覚は日本では育たないですよね?
tt:確かに、外資やニューヨーク勤務中に
 身に付いた感覚かもしれません💦

 細かいことを言えば寿司のホタテはホタテの貝柱であって、ホタテ本体ではないのだ。ヒモと呼ばれる部分が本体で、何とも皮肉な巡り合わせだなと武田は思っていた。

 ヒモとは女性に寄生して生活しているだらしない男性のことだが、ホタテの場合貝柱が立派で、その周りにまとわりついている本来の生物としてのホタテが、寄生している方に見えてしまっている。

 ホタテだけが大丈夫とは、つまり播本は貝類がすべてダメなのだろう。
 魚卵系もダメとなると、鮨屋も上手に選ばないといけなくなる。いっそのこと"マグロ尽くし"を初めに頼んで、後はアラカルト=お好みにするのがいいのかもしれないと武田は思った。

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