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月と六文銭・第十四章(57)

 工作員・田口たぐち静香しずかは厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、時には看護師、時には生保営業社員の高島たかしまみやこに扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。

 田口はウェインスタインの上司であるオイダンが同僚・デイヴィッドを殺した犯人との目星をつけ、毎晩の習慣であるクラブ通いから足がかりを得ようと彼等の馴染みのクラブの前で待機した。
 予定通りホステスと出てきたオイダンは五つ星ホテルへと移動し、彼女と情事を楽しんだ後、一緒にクラブに戻ってきた。彼女とクラブを後にし、オイダンが泊まっているホテルに移動した二人だったが、田口はオイダンが彼女を送っていくだろうと予想し、ホテルの地下駐車場を見張った。

~ファラデーの揺り籠~(57)

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***再び回想へ***
 田口はホテルの前で待っていた。案の定、すぐに黄色のフェラーリが出てきた。オイダンは部屋には上がらず、そのまま地下駐車場に向かい、ホステスを車に乗せたのだ。
 今回は少しズルをして、フェラーリの中にGPSトラッカーを仕掛けておいた。オートバイのハンドルに設置した携帯電話でその位置が表示され、見落とすことがないようにした。
 しかし、オイダンが走ったコースは、今回はGPSが必要なかったと言えるものだった。把握済みの首都高周回パターンだったが、最後だけ少し違った。今夜の目的地は湾岸地域だったようで、環状線を2周した後、箱崎で分岐して9号線を走り、木場で高速を降りた。ホステスは門前仲町、通称"門仲もんなか"に住んでいたようだった。
 ホステスは門仲の駅まで送ってもらい、改札に向かって階段を降りていった。
 GPSの画面にはオイダンの車の位置が映っていたので、取敢えず田口はホステスのあとをつけることにした。

<"美人ホステスさん"は定番の一駅分を乗るのかしら?>

 美人ホステスさんは階段を下りて改札を通り、地下鉄に乗って一駅移動すると思いきや、反対側の改札を出て、コインロッカーから荷物を取り出し、別の階段を上り始めた。

 あとをつけられて、自宅などを特定されないよう、本当の最寄駅の手前の駅で降ろしてもらい、電車に一区間=一駅分乗るとか、一度改札を入ってから反対側の改札を出てバスに乗るとか、ストーカー対策で神経を使っている女性は一定数いる。
 しかし、美人ホステスさん、かなり慎重なタイプで、プロのホステスとしてはきちんとしていたが、次の行動がさすがの田口をもびっくりさせた。

 美人ホステスさん、コインロッカーから取り出した荷物を持って、駅から2ブロック歩いたコンビニに入った。帰る前に買い物をするのかと思いきや、トイレに直行した。

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 外からそれとなく見ていたら、美人ホステスさんは着替えて出てきたのだ。

<"事実は小説よりも奇なり"とはこのことか!>

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2,017字
田口静香の寝物語がいよいよ佳境を迎えたかと思いきや、意外な人物の関与が状況を複雑にしていく。 CIA工作員・田口静香が担当した危険なアサインメントの第四部に突入!

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