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月と六文銭・第十四章(77)

 工作員・田口たぐち静香しずかは厚生労働省での新薬承認にまつわる自殺や怪死事件を追い、時には生保営業社員の高島たかしまみやこに扮し、米大手製薬会社の営業社員・ネイサン・ウェインスタインに迫っていた。

 保険会社の営業ウーマン・高島都は逢瀬の相手であるネイサン・ウェインスタインに捕らわれ、車に乗せられた。そこで彼女はウェインスタインの「超能力」で脳を乗っ取られる恐怖を味わわされていた。

~ファラデーの揺り籠~(77)

305
「You can see, but what about Vincent? He couldn't?」
(ネイサンには分かるのに、ヴィンセントは分からなかったのかしら?)
「Vincent trusted you. That's why he didn't access your brain.」
(ヴィンセントは君を信じていたから、君の頭の中を覗かなかったんだと思う)
「If you can get into someone's brain, does that mean you can control reactions and not just the body? Like sexual arousals?」
(他人の頭の中に入れるのなら、体だけじゃなくて、体の反応もコントロールできるってこと?快感を呼び起こすとか?)
「Yes, I can control a female's orgasm even without having sex itself.」
(ああ、しかも、セックス自体しなくても女性の快感、絶頂=オーガズムもコントロールできるよ)

 ウェインスタインは高島の乳首をいじるのをやめ、乳房全体を包むように手を当てた。
 高島はウェインスタインの掌の温かさが、高級なエトワールのカシミアドレスを通じて彼女の乳房を温めているのを感じた。

「うぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁー、はぁー、あぁー、あぁー、あっ、あっ、あぁあぁあぁ、あん!」

 高島はブルッと体を震わせて達した。軽くだったが、ほんの数秒でゼロからオーガズムまで押し上げられたのだ。

「How about this?」
(これはどうだ?)

 ウェインスタインは今度、両手で高島の両乳房を包んだ。高島の体はブルッブルッブルッと震え続けた。

306
「OK, OK, I've had enough! I understand you have total control of me. I can't do anything about it, right?」
(や、や、やめて、分かったわ。もう十分、分かったわ。もうアタシの体がアナタのコントロール下にあることを認めるわ。アタシにはどうにもならないのね、もう」
「Yes, and unfortunately this will be the last orgasm you'll have.」
(そうだ。残念なことに、君が得られる快感はこれが最後だ)

 高島の脳の中で火花が2回程弾け、全身をブルッと震わせてシートから体が飛び出るほど体が揺れた。
 高島都は大きなオーガズムに達し、気を失い、頭を垂れたままだった。

 ウェインスタインのベントレーは首都高を疾走していた。
 高島は心地よいエンジンの振動でなかなか目が覚めなかった。
 この車のエンジンは独特な振動を発することをウェインスタインはよく分かっていた。
 そして、高島には心地よい振動が眠り続けるようにさせていた。
 しかし、轍や継ぎ目の多い首都高で車がバンプを避けることは難しい。車がトンと大きめの継ぎ目に反応した時に高島は目を覚ました。

<は、眠ってしまったの、アタシ?うう、イかされて、そのまま眠ってしまったの?いや、イかされて、気を失っていたんだわ…>

「Nathan, you used that power of yours to make me come?」
(ネイサン、アナタ、アタシをその力でイかせたの?)
「Yes. Was good, wasn't it?」
(ああ、すごく良かっただろう?)
「Why don't you use your penis to make me come, not that power of yours?」
(そんな力を使わないで、アナタのペニスでアタシをイかせたら?)
「Were you going to catch me in your tight grip vagina?」
(君の万力ヴァギナで僕のペニスを咥え込み、動けなくするつもりだったのか?)
「Sure, you liked my grip so much, you quit going to other girls and f-cked me so many times.」
(そうよ。アンタ、アタシのヴァギナ、すごい良かったから、日替わりの女に行かず、何度も抱いたんでしょ?)
「That, I admit. Other girls can't do that.」
(確かに、すごかったのは認める。ほかの日本人女性は、ああはならないだろうね)

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 高島は正面に見える景色を確認して、ウェインスタインに話しかけた。

「By the way, were you good at playing 'tag' when you were a kid?」
(ところで、ネイサン、アナタは子供の頃、「鬼ごっこ」は得意だった?)
「Why?」
(どうしてだ?)

 その瞬間、車がぐらッと揺れ、二人の後ろ、つまり背中から車が回転し始めたのだ。首都高の壁に何度も前の部分と後ろの部分を当てながら車は回転を続け、後ろ向きに火花を散らしながら滑っていき、道の真ん中で停止した。
 ラジエーターに亀裂が入ったのか、前から水蒸気が上がっていて、フロントガラスの前が霧に包まれたようになった。

<すごい、アタシ、怪我一つない!ちょうど目が覚めてよかった!これでは、この車はもう動かないだろう。ウェインスタインは気を失っているみたいだから、体が動かせる!>

 高島はエアバッグを押し退け、ベルトを外し、ドアを開けようとした。若干スタックしているようだ。高島は脚も使ってドアを開けた。
 振り向くとウェインスタインは気が付いたようだった。高島を掴まえようと手を伸ばし始めていた。

<掴まれたらアウトだ!>

 高島は振り返らず、ドアも閉めず、車を背に走り出した。高速道路の非常口なら、階段があって、下に降りられるはずだ。

<あそこから降りられたら、ウェインスタインから逃げ切れるかもしれない>

「Miyakoooooo」
(ミヤコ~)

 高島は想像していたよりも近くでウェインスタインの声がしてびっくりした。
 ウェインスタインは10メートルと離れていなかった。向こう側のドアはすぐに開いたようだ。しかも、すごい形相で、すごい勢いで追いかけてきていた。

<もう少しで、あの階段まで行けたら>

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「You won't get away!」
(逃がさん!)

 高島はその声に振り向き、恐怖に顔が歪んだ。ウェインスタインはハンターナイフを持って追ってきていたのだ。

<もう少しで非常階段だ>

 高島は下腹部の痛みも忘れ、必死に走った。賭けではあったが、ある程度の距離を保てたら、ウェインスタインの力が及ばず、逃げ切れると考えたのだ。

<AE8非常口!>

 走りながら扉の上の表示を見た高島は、非常口の扉を蹴飛ばして開け、突入した。扉の向こうにあったのは、想像と違って、手すりのある階段だけだったので、反対側に落ちそうになりながらも階段を全速力で駆け下りた。

<つっ、なんてことをする男なの!靴ベラを突っ込まれた膣口が擦れる!この痛み!絶対、血が出ているはずだ。くそっ、絶対許さないから!>

 痛みに顔を歪めた高島が地上に降りたところで、産業道路を渡り、倉庫街に駆け込んだ。
 ウェインスタインは衝突の衝撃で最初はふらついたものの、それは初めだけで、今は全力で高島を追っていた。
 高島は倉庫街に逃げ込んだはいいが、闘うための武器はその辺に落ちている棒くらいしかないし、この時間では誰も倉庫街にはいないし、助けを呼ぼうにも携帯電話などは全てウェインスタインに取り上げられていた。

<向こうまで行けば、通る車がいるかも!>

 高島は金網に道を塞がれた。ガチャガチャしても扉になっている部分は開かない。仕方なく、金網に沿って走った。
 ウェインスタインも金網まで来たのか、わざと金網に拾った棒を当てて音を立てながら追ってきていた。

<もしかしたら、こっちに行ったら曲がれるかも!>

 高島は必死に金網が切れることを願って走り続けた。左に曲がるとトタン板の壁があり、通れそうな扉があった。それを蹴破り、突入した。そこは裸電球が幾つかある倉庫だった。高島は反対側へと、とにかく走った。

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