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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(39)

第三十九章
 ~汝、姦淫するなかれ~

 少し間があり、ルキフェルは重みのあるはっきりとした声でユリに体を見せるよう命じた。

「ユーリカウ、立って、お前の体を見せよ」

 ユリは不安そうな顔をしてマサミを見た。マサミは頷いたので、ユリは立ち上がり、ベールを取り、修道帽と修道服を脱いだ。

「ユーリカウ、お前はそのサイトウとやらの子を孕みたいのか?」
「今は困ります」
「今は、ということは、今でない時ならば困らないのか?」
「斉藤と婚姻関係になったならば問題はないです」
「お前はサイトウと婚姻関係になりたいのか?」
「正直、まだ分かりません」

 ルキフェルは目立つ眉の左のものを吊り上げ、難しそうな顔をした。

「婚姻関係になりたいかも分からぬ男と婚姻関係にある者のみに許される行為をしているのか?」
「はい、おっしゃる通りです」
「つまり、お前は肉欲に溺れていることを認めるのだな?」

 ユリはすぐに答えようとしたが、一瞬止まってマサミを見た。マサミは首を横に振り、ユリを止めた。
 ルキフェルは右手を挙げ、掌にある文様をユリに見せながら、重みのある声を発した。

「待った、その前に、言うておくが、お前がその問いに答えることにより、儂から何らかの罰を受けるかも知れぬが、良いか?」

 ユリはルキフェルが言っていることが分からなかった。ユリはマサミに救いを求め、彼女の方を向いた。
 マサミは手を左右に振って、「ダメ、やめた方がいい」の合図を起こった。
 ユリはどう答えてよいか迷った。

「マサミン、ユーリカウが姦淫を認めたら、どのような罰を受けるか、説明した方が良いのでは?」
「は、マサミンでございます。
 今回の件は、ユーリカウが自ら求めた関係ではなくて、ユータリスというインキュバスがユーリカウを言葉巧みに、或いはその美声を活して誘惑したもので、斉藤、実際にはユータリスが憑依している人間の男性と関係を持つように仕向けられたものです」

 ルキフェルが静かに聞いてくれていたので、マサミはそのまま続けた。

「初めの一回は降霊の中での行為で、これは間違いなく斉藤本人の霊でした。
 私マサミンが保証し、間違っていたらすぐにでもルキフェル様の罰を受けますが、間違いありません」

 この言葉にもルキフェルが反応しなかった。マサミを罰するつもりはないのか、全く疑っていないのか、眉を上げるとか拳を握るとか、怒りの証拠となる体の変化は一切なかった。

「しかし、どうやってユータリスがそのことを知ったのか、私どもには分からないのですが、言葉巧みにユーリカウが実体の斉藤と関係を持つよう誘惑し、何度も関係を持たせた上、その一部を記憶から消し、孕まないよう気を付けようとする度に記憶を消したりして、避妊をさせてくれません。
 それでは、やがてユーリカウは子を孕み、学園にも迷惑をかけ、自分の人生にも大きな影響が出てしまうだろうと懸念しているわけです」

 全く動かずに聞いていたルキフェルが動き出し、部屋の中を歩き回りながら、ユリの体を見ていた。ユリは高校生にしては成熟した体つきをしていたし、男性が『スタイルがいい女性』と考えるスタイルを誇っていた。
 大天使がそれを良いスタイルと考えるかはユリにもマサミにも分からなかったのは、天界には天界の基準があるのだろうと思うとルキフェルはユリがスタイルの良い体をしていることを愛でているわけではないことは分かった。

「ユーリカウ、前屈みになれ」

 ユリは戸惑った。
 ルキフェルに自分の体を求められる可能性があることはマサミから聞いていたが、いきなり後ろから入れられるのかと思うとちょっと怖かったし、悲しかった。できれば好きな男性としかエッチをしないでいたいと思ってきたのに、いきなり命令されて関係を持たないといけないのは、心理的に辛かった。
 しかし、相手は神の次に力のある天界の大天使、逆らったらどのような罰が下るのか、いやでも想像できた。旧教会堂の資料室にある降霊の本などによると首や腕、脚が引き千切られたり、一族郎党全員が教会堂に閉じ込められて、地獄の業火で焼かれたり、降霊に参加した者が全員疫病に罹って死ぬなど、悲惨な最期を遂げたとの記事は幾らでもあった。
 こうした対応をしてくれたマサミを巻き込むわけにはいかないから、ユリは覚悟を決めて五芒星の真ん中に座布団を置き、膝をついてから、前に倒れて床に手をつき、後ろから男性を受け入れられる体勢になった。微かな抵抗として、自分から求めているかのように尻を突き出すことはせず、自然体で体を前に倒しただけだった。

「ユーリカウ、お前は儂を受け入れようと思っているのか?」

 目を閉じていたユリは目を開けてマサミを見た。マサミは頷いた。事前の話でルキフェルに求められることがあることは説明してあったので、この場合、受け入れようと二人は決めていた。

「大天使様がお望みとあらば、ユーリカウは大天使様に身も心も捧げる覚悟をもってこの降霊に出席しています。大天使様を受け入れる覚悟はできております」
「覚悟とは?お前は儂がお前に苦しみを与えると思っているのか?」
「私は今までたくさんの男性と交わってきたことをここに告白します。
 しかし、すべて、自分が好きで求めた関係です。
 今回は大天使様に求められて関係を持つことになりますので、快楽も苦しみも同時に訪れるものと考え、覚悟と申しました」
「ほお、ならば儂とのことはお前が望まない関係で、インキュバスとは自ら求めた関係だったわけだな?」
「いいえ!」

 マサミが「あっ!」と思った時にはもう遅いと思われた。マサミから大天使に逆らうなと注意を受けていたのに、ユリはつい反射的に反応してしまったのだ。

「いいえ、私はこれまで、婚姻関係に発展する可能性のある男性だけを選んできました。
 インキュバスとの関係は望まない関係です。
 なぜなら彼はサイトウに化けて私と関係を持ったからです。
 そして、大天使様との関係は、私を求めて頂いたもの、私は大天使様に求められたんだなと考えております」
「ほお、お前は賢い子だな。
 儂の子を産んで、その子が人類を率いるリーダーとして育てるというのはどうだ?」
「大天使様がお望みならば、大変な名誉なので」
「しかし、儂とは婚姻関係にはなれないぞ」
「は、はい、それは承知しております」

 ユリは目を閉じた。この後、大天使ルキフェルが自分に侵入して、多分一度の関係で妊娠するだろうと思った。神の子かそうでないかに関わらず、シングルマザーとして育てないといけない苦労は、裕福な家庭に生まれ育ったユリには全く分からない世界だった。実家の財力をもってすれば、子供は経済的に苦労せずに育つ可能性はあるものの、本来の家庭のあるべき姿ではないことくらいユリでも分かっていた。

「ユーリカウ、歯を食いしばれ」
「は!」

 ユリは自分の後ろに何かが近付いた気配がしたと思ったら、何かが膣に侵入してきた。正直に言えば、少し濡れてからならば耐えられると思ったが、自分の分泌物が出ていない、濡れていない状態での侵入は痛いだけで、自分の膣内なかすべてが「痛い!」とシグナルを脳に送っていた。

「うう、う、うーん、うう」
「もう少し耐えよ」
「は、はい」

<え、指?ルキフェルの指なの、これ?>

 ルキフェルはユリの膣の奥の上側にある子宮口を確認するように触った。それから膣の上下左右の壁を確認するようにやや太く長い指で、あちこちを押しながら出口までを触った。

「今は大丈夫だ。気をしっかり持って、ユータリスの誘惑を跳ねのけよ」
「は、はい」

<すごい圧迫感だった。入り口は痛かったし、奥というか通路を広げられた痛みはあった>

 ユリは膣内を確認されただけだったのに、どっと疲労感が出た。目からは涙が出た。天使に侵入されたわけではなく、指を入れられただけだったのに。

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