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月と六文銭・第十七章(15)

15.祭少佐との情報共有
 Sharing Information with Major Zhai

 は本国の軍本部と暗号電話で連絡を取っていた。

呉:そうだ、シン大佐の今回の件、そちらで追っているスナイパーが犯人と睨んでいる。
チャイ:ならば軍機4号暗号で情報を送る。
呉:ありがとう、これで奴を仕留められるかも。
祭:既に明華ミンファを投入している。
 明華が追っているターゲットと同じ人物のようだ。
 最終的には鉄矢ツィーシーこと張敏正チャン・ミンジェンを投入しても良い。
呉:彼は今、中印戦線では?
祭:それはカバーだ。
 いつでも香港経由でアジアのどこにでも派遣できるようにしてある。
呉:報告した人物が九龍ガウロン深圳シェンチェンの犯人と同一人物なら25年来の決着が付けられるというわけか。
祭:ああ、そうだ。
 長かった。
 これで九龍の恨みを晴らすことができる。

 呉が連絡を取っていた相手は軍学校の同期の祭少佐だった。彼の父は香港・九龍城塞ガウルンスィンザイで殺されていた。英国政府が香港返還前に三合会さんごうかいと覚せい剤の取引を補助していた中国軍の隠密部隊のせん滅を実行した時に殺された一人だった。

 武田が日本国外で関与した案件の一つだ。

 当時香港は英国統治下だったが、中国への返還が決まり、浄化作戦中に手つかずだった九龍城塞の解体の先鞭として、麻薬取引の撲滅に動いた。
 中国人民解放軍は自国の部隊がそういった取引に関与していたことを否定して有耶無耶うやむやにしたほか、英国・香港両政府は反政府分子がテロを準備していたため、やむなく射殺したとして、事件を終結させていた。
 祭は英国とその作戦を実行した英米の工作員を恨んでいた。私怨もあるが、深圳駐留部隊が不名誉部隊となり、長らく祭は父の汚名のため、軍学校等でも苦労してきたことがあった。

呉:祭、明華が仕留めたら、鉄矢は投入されない、ということだよな?
祭:そうだが、そう簡単ではない。
 明華は監視を続けているが、完璧に疑われずに仕留めるには相手が上手く動き回っていて、チャンスが掴めないようだ。
呉:明華が任務に失敗したなどと聞いたことはないが…。
祭:珍しく手間取っているが、もちろんこれは失敗にはならないだろう。
 何せ20年以上も我々から上手く身を隠してきたのだから、一筋縄ではいかない相手だ。
 今更、簡単に尻尾を掴ませるとも隙を見せるとも思えない。
呉:確かにそうだな。
祭:それに一応監視強化というか包囲網を狭めておくために、四川イチュワン峨眉エメイ班が派遣されている。
呉:おいおい、それは明華の次に白虎バイフーがいて、最後に鉄矢という段取りか!?

 四川省出身の精鋭で組織されているが峨眉班は四川省しせんしょう峨眉山がびさんから班名を取っていたが、軍内では精鋭の玄武ショワンウー班と並んで白虎班と呼ばれていた。中国軍の各軍にはそれぞれ情報部隊が組織されていて、海軍の青龍チンロン班と空軍の朱雀チューチュエ班、中央の本部直下に麒麟チーリン班、黄龍ファンロン班がある。

呉:相当力が入っているな
祭:何せ、九龍城の事件のせいで、香港統治が初めからおかしくなってしまったからな。
 今も変な民主運動で苦労しているだろう?
 中国は百年単位でものを考え実現していくのに、香港の一国二制度を50年とその半分にして早期に本土取込みを実現したかったのに、このままではやはり百年かかりそうだ。
呉:それは政治の問題だ。
 こちらの問題はなるべく早く片そう。
祭:同感だ。

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