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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(21)

第二十一章
 ~消えた2時間~

 ユリは服を整え、保健室を出て、ゆり子と一緒に午後の数学の授業に向かった。二人とも国立文系受験組だったので、一応数学の勉強が必要だった。

「ねぇ、ゆり子、夢とかであのアイドル出てくる?」
「え、夢の中で降霊の時の続きをしちゃっているのかってこと?」
「うん、まぁ、そんな感じ」
「それはないなぁ。またしたいなぁって思うけどね。だから自分の番が待ち遠しいよ(笑)」
「じゃあ、ゆり子ってその間、どうしているの?」
「え、言わせちゃうの?」
「ローター?」
「うん、小さいヤツ。あれ持ち運びできるから。ユリは?」
「アタシは夢の中で先生としちゃっているよ」
「へぇ~、それで、イけるの?」
「夢の中じゃ最後までどうなったか分からない。多分、途中で夢から覚めちゃっているような感じ」
「あぁ、もったいない(笑)」

 そうは言ったものの、先ほど保健室のベッドの中で、夢の中ではあったが、しっかりと斉藤と最後までしていたことは、ゆり子には言わなかった。
 数学教室に着いて、ユリもゆり子も後ろの方の席に座った。担当の斉藤が出席簿から顔を上げて、最後に滑り込んだ二人を確認した。

真田さなださん、もう大丈夫なの?貧血で保健室で休んでいるって内藤ないとうさんから連絡があったけど」

 ユリはゆり子が斉藤先生に連絡をしてくれてあったのを知って、いつもきちんとしていて、さすがゆり子だね、と思った。

「はい、先ほどまで横になっていました。ご心配をおかけしてすみません」
「寝不足とか、栄養不足は、この時期だけでなく、いつでも問題だけど、十分に取るようにしてください」
「はい、でも、受験生の場合、難しいと思います」
「うーん、よく食べたら、栄養不足は避けられると思います。寝不足は勉強を効率的に進めて解消していくしかないですね」
「それはそうですが…」
「じゃあ、ちょうどいいので、2次関数の解き方の3タイプを思い出して、問題を解いていきましょう。3タイプの解き方、覚えていますか?」

 斉藤は黒板に2次関数のグラフを幾つか書いた。原点Oを通って左右対称のもの、X軸と2点で交わっているもの、X軸から浮いていて、Y軸と一か所だけ交わっているもの、逆様つまりXの二次項の係数が負になっているものの4つが書かれた。

「はい、島田しまださん、2次関数を解く際の3つのタイプを言ってください」
「えぇ、アタシィ?」

 島田は頑張って受験しようと頑張っているクラスメイトだった。しかし、私立文系志望でもう既に高等部1年の段階で"数学を捨てて"いた学生だった。放課後の補習授業の参加者ならばすぐに出てくるところだったが、昼間の普通クラスでは難しかったし、斉藤も無理をして生徒の気を悪くするほどは詰めたりしなかった。

「じゃあ、内藤さん?」

 ゆり子は自分が指名されたのを意外に感じた。国立志望のゆり子は授業を聞かず、いつも内職(授業と関係ない他の勉強)をしていたが、斉藤もそれを黙認していた。しかし、今日は何故か指された。

「因数分解、解の公式、平方完成の3つがあります」
「はい、そうですね。で、頂点がすぐに分かるのは?」
「平方完成です。軸も同時に分かります」
「はい、正解ですね」

 斉藤はゆり子が言った3つの解法を順に黒板に書いた。
 ゆり子と違い、ユリは補習授業に出て、なんとか、受験レベルまで数学を引き上げようと頑張っているところだったため、ぱっと答えが出てくるレベルではまだなかった。そして、今日は貧血で倒れて保健室で寝ていたので、少しぼぉっとしていた。

「じゃあ、問題演習、25ページと26ページをやってみましょう」
「はーい」

 全員が問題演習に取り組み始めたところで、斉藤がクラス内巡回を始めた。島田のところで少し時間を掛けて、平方完成の使い方を説明してから、後ろの方に来た。

「内藤さんは大丈夫だね。いつも通りでいいよ」
「はい」

 斉藤はゆり子に内職を黙認すると伝えたのだ。ゆり子はもう十分このクラスのレベルを超えていたので、ある意味自由に好きなところを勉強した方が受験には有利になる。
 もちろん、斉藤の評価基準である合格者を一人でも多く出すには、ゆり子のような生徒に自由に勉強させるのも一つの方法だった。分からないところだけフォローすればよく、斉藤にとっても効率の良い指導方法だった。

 斉藤は次にユリの方を向いて、ちゃんと解いているのか手元を覗いた。

「真田さんは無理しないでね」
「はい、ありがとうございます」

 ユリは返事をしながら、斉藤を見上げた。

「今週は補習の時に確認すればいいので、今日はそんなに無理をしないでいいですよ」

 ユリは斉藤の声が好きで、彼の声を聴いているとうっとりしてしまうのだった。
 その間に斉藤はユリのノートのページに何かを書いた。

 ユリがノートに斉藤が書いたものを見た瞬間、強い刺激を受け、体がぶるっと震えた。降霊の時に床にマサミが書いている五芒星だった。

<う、アソコがジンジンする。なんで?>

 斉藤がユリの耳元で囁いた。

「ユリ君、今夜、欲しいでしょ?」
「え、いまなんて?」
「さっき、良かったでしょ?
 今夜もしたいんじゃないの?」

 ユリは自分でも分かるほど濡れていた。斉藤の声に反応していたのは確かだが、ノートに書かれた五芒星と神聖文字が目に飛び込んでから体が火照り始め、指先が痺れてきた気がしたのだ。

「どういうことですか?」
「今夜、説明するよ。
 良ければ西の部屋か泊り部屋に行くよ」

<え、どういうこと?さっきって何?保健室でのこと?>

 ユリはコクンと頷き、斉藤の手をさりげなく撫でて、同意を表した。しかし、西の部屋も泊り部屋も両方とも、マサミの家の敷地内だから勝手に入れない。

<自分の部屋で?バレるかなぁ。でも、他に場所は思いつかないし>

 ユリは斉藤に見えるようにノートに、私の部屋で、と書いた。

「今夜、自宅に戻ったら、よく復習するように」

 斉藤が頷きながら、指導しているような発言を残して、次の子へと向かった。

<やばい、漏れている>

 ユリは下着が気持ち悪いほど濡れていたので、手を挙げて、斉藤に手洗いに行きたい旨を告げた。

「先生、授業の途中ですが、少し…」
「はい、いいですよ、席を外しても」
「はい、ありがとうございます」

 ユリはなるべく音を立てずに席を立ち、クラスの後ろの扉を出て、女子化粧室に向かった。高校生が化粧をしないのに、化粧室となっているのをいつも不思議に思っていたが、今はとにかく、別の目的があって、さっさと個室に入った。

<どうしよう、普通の授業でこれじゃあ、補習に出たら、体がおかしくなっちゃかな?>

 ユリは自分の下着の中が大変なことになっているのを見て、どうしても斉藤の声が原因で自分の体がおかしくなるのは確かだと確信した。
 問題は、先ほどの話しぶりでは、さっき保健室で何かされたみたいだった。いや、何をされたかは分かっている。ゆり子が入り口にいたのに、どうやって入ってきたのかが分からない。
 ユリはスマートフォンのアプリを立ち上げ、自分の生理周期を確認した。昨日から約4日間、排卵の時期と表示されていた。それでこんなに体が欲するの?今までだってそういう時期があったのに、こういう感じにはならなかったはずだ。斉藤が本当に好きなのかな?
 ユリはスカートのポケットからウェットティッシュを出して、丁寧に自分を拭き、ショーツのクロッチ部分を拭き、軽い日用のナプキンを当てて、再びショーツを履いた。休み時間になったら、部室で予備の下着に変えよう。そう思って立ち上がり、個室を出ようとした。

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