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天使と悪魔・聖アナスタシア学園(08)

第八章
 ~それぞれの過去~

梨花りんか、クールでしょ?」

 ゆり子は降霊会メンバーの梨花の名を出した。ユリはウンと頷いた。

「あの子、私、中学の時、塾で一緒だったの」
「へぇ~、知らなかった」
「多分、今では彼女にとっては黒歴史くろれきしみたいなものだと思うけど、三つ編み、黒縁メガネ、ダサいブタ鞄、半端な長さのスカート」

 黒歴史とは、隠したい過去、恥ずかしい過去の意味だ。今では一般化している言葉だが、元々の出典がアニメの『ガンダム』で、ネットスラング化した後、一般に広がったもの。

「うそ?!」
「ホントよ、しかも中学受験を失敗して、結構グダグダしていたのが、ウチに来てからコンタクト入れて、サラサラヘアー、短めのスカート、腕も脚も脱毛済み、ラクロス部でブイブイ言わせて、後輩にも近隣の男子校にも大人気」
「確かに登下校中の男子の目、彼女を追っていること、多いね」
「私に言わせれば、御三家とか行かないで、うちに来たのは正解で、伸び伸びやっているし、上位校狙える成績になったのはあの斉藤先生のお陰なんだよね」
「そうなんだ」

 ユリはクラス代表としてしか梨花を知らず、降霊会のメンバーではきちんとしている方で、ルールを守っている子というイメージだった。

「じゃあ、帆波ほなみは?」
「あの子はよく分からない。中学受験もしていないし、高校はたくさん受けたって言ってたし、でも、成績はさりげなく学年トップだし、文系だけど。都立とか行けば生徒会長レベルの子になったんじゃないかな」
「でも、あの俳優と…」
「あの子、まだ処女なの」
「うぇ、うっそ~!だって、あの時、西の部屋で、ヤってたよね?」
「アタシもびっくりしたけど、処女なのは多分本当だと思う。なんか『結婚するまではしない』とか言ってたことあったよ」
「じゃあ」
「降霊会で好きな俳優としても、別に本当にしているわけじゃないから、本人にとってはとても都合がいいんじゃないかな」
「すごい…」

 ユリは聞いたことがない話をされて、頭の中で友人たちの顔を思い浮かべながら、今聞いた情報を整理していた。

「ねぇ、ゆり子は」
「え、アタシはもちろん経験済みよ。中学の時からストレス発散が下手だったから、いつもその時のボーイフレンドとヤって、何とかバランスを保ってきたわ。ストレス解消になるし、ボーイフレンドは喜ぶし、人より先に大人になった気分が味わえたし」
「そうなんだ。勉強できる、できないとは関係ないってことね」
「そう思うけど、勉強のストレスは大きいよ。アタシら女子高生がストレスを発散する手段なんて、買い食い、買い物かダベるくらいしかないし、男引っ張り込んだら学校からも親からもいろいろ言われて逆に制約ついちゃうし。ま、成績が良ければある程度は許されるから、私はユリの家に勉強会で行っていることを大目に見てくれてるよ。時には皆に隠れて彼とエッチしていることもあるけどね」
「あの子と?」
「うん、でも、降霊で伊藤君としてからは、生身では感じなくなったよ、全然。やっぱり、エッチって気持ち、心でするもんだと実感した」

 それは恐い、いつまでも降霊が続けられるわけじゃないのに、ゆり子は生身のボーイフレンドでは満足しなくなっている。
 マサミたちと相談した結果、優子と未希以外は、まぁ、言ってみれば普通の欲求だから応じてもいいということにした。要注意は、やはり未希だった。


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