赤ん坊


小さい私は、もっと小さい赤ん坊を育てるのだと抱えて歩いていた。大きな私はかけてくる小さな私と一体になって、マンションの廊下を体をゆすりながら早足で歩く。体をゆすっているのは赤ん坊の機嫌が良くなるようにと思ったからだ。ゆすりすぎて、だんだんと赤ん坊の体が腕からこぼれ落ちる。
それに構わずゆすり続ける私。とうとう、玄関に入った瞬間赤ん坊は完全に腕からずり落ちた。頭蓋骨がコーンと鳴る。

大切なガラスを割ってしまったかのような嫌な動機を感じながらかがむと、赤ん坊はパチリと目を開けて、明瞭に叫んだ。「ここどこー!!!!???」
赤ん坊はパニック状態だ。しかし、私はパニックになっているなと俯瞰で見るだけで声をかけることはしない。

腕に赤ん坊を抱え直し、ふと気がついた。赤ん坊は赤ん坊ではない。その赤ん坊は、どこもかしこも真っ白で、大きさも20センチに見たない。アバラが浮き、腕も脚も人間のものではない。昆虫と宇宙人を足したような、全く違う生物だった。

そんなことにも気が付かないまま、歩いてきたのか。私は何も見ていなかった。何も見ようとしていなかった。


夢の話である。
空虚な心だけが残った。

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