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番外_国芳たま

【シール解説】

前回の対談記事の最後で少し触れましたが、自作シールサークル(という紹介でいいのかしら)バブルガムカンパニー様のオリジナルシリーズ『絵師ドルぷろじぇくと!(以下、えどプロ)』の新作シール7種の裏書き(本文のみ)を書かせていただきました。
今回はその中から一枚選んで解説いたします。
※バブルガムカンパニー様公認


『絵師ドルぷろじぇくと!』とは?

地下アイドルとして活動していた「東京六区(トーキョーロック)」という女性6人組がコロナ禍に直面して困っていたが、江戸時代に数々の浮世絵を企画してヒットさせた名プロデューサー蔦屋重三郎の亡霊と出会い、彼の力によって集められた超有名な浮世絵師たちの魂と融合して絵師ドルと名乗るようになる。有望なメンバーを1人加えて7人組アイドルとなった彼女らは「オーエドセブン」と改名し更なる活躍を目指すのだった!それが『えどプロ』の物語です(ざっくり)

そんな「オーエドセブン」を48mmシールに落とし込んだシリーズの新作で、メンバー全員7名様分の裏書きをマンマン堂が書かせていただいたわけです。
書くにあたって送っていただいた「解説集」で世界観の設定などをじっくり読ませていただいたところ、細かい浮世絵ネタが丁寧に散りばめられており感心の連続でした。


「解説集」を読んでワクワクしたからか今回はとんでもない勢いで筆が進み、「解説集」が届いた翌日には3人分の裏書きを仕上げて提出していました。
メモ帳データの日付を見ると裏書きを書いたのは2022年の2月14~17日の4日間。しかもパソコンと向き合ったのは夜のみ。
『魁題百撰相』の時に12枚分の裏書きを土日の二日間で書いたという例外はありますが、4夜で7枚分の裏書きを書くというのは自分としては相当早いペースです。しかも『魁題百撰相』の時は後でちょくちょく手直ししていたのに対して、『えどプロ』は「これ以上はない!」というレベルまで書き上げてこの時間なので、相当ノッて書いたことがうかがえます。

とはいえ、7人中4人がすんなり書き上がったところで残り3人が思うように書けず苦戦しました。苦戦した一番の理由は、キャラクターに反映されたバブルガムカンパニー様の抱く浮世絵師のイメージが自分の持っている浮世絵師の印象とかけ離れていたからです。
その証拠に、苦戦した3人はバブルガムカンパニー様と初めてやり取りした時に、お互いの考える浮世絵師のイメージカラーの話が全く噛み合わなかった3人と被ります。
そしてどちらかというとマンマン堂の持つイメージの方が世間一般的なイメージから離れていると気づきました。
このことは、今後『浮世絵マン』を続ける上で自覚しておかないと致命的な勘違いに繋がる部分なので今回気づけて良かったと思っています。

苦戦した3人に対する対策として、裏書きを書く上での元ネタ反映度を、
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①『えどプロ』のキャラクター設定→6~7割
②バブルガムカンパニー様の持つ浮世絵師のイメージ→3~2割
③自分の持つ浮世絵師のイメージ→1割
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くらいの配分にするよう意識して書くことで突破口を開きました。
上の配分は既に書き終わっていたメンバーと比べると、キャラクター設定の割合を増やして自分の持つ浮世絵師のイメージを大幅に減らした形になります。


今回紹介する「国芳たま」さんも苦戦したうちの一人ですが、実は苦戦した3人の方がすんなり出来上がったものより気に入っていたりするので不思議なものですね。
それではマンマン堂恒例のクドすぎる前置きが終わったところで、本家バブルガムカンパニー様の書いた基本設定を挟んでようやく裏書き解説です。長いだろォ?


【本家キャラクター紹介】

国芳たま(15)
イメージカラー:黒
グループきってのパンクキャラ。奇想の天才・歌川国芳の魂と融合。
人に対して常に反抗的で塩対応だが、猫を偏愛している。
常に模造刀を持ち、ライブでは間奏等で華麗な殺陣パフォーマンスを見せる。
元引きこもりだったが、実の姉・国貞はなにより、むりやり「東京六区」に引き入れられた過去を持つ。
口上は、「うざいコロナにうっさい常識、まとめて成敗!国芳たま!」


【裏書き解説】

塩対応 ローテンション反抗娘 パンクス

「人に対して常に反抗的で塩対応」という設定をそのまま使いながらも、ルビでマンマン堂らしさを出しています。
この出だし部分は姉妹設定の「国貞はな」さんと言い回しが対になっているので両方を手に入れて見比べてほしいです。

不登校 アナーキーインダ自室ハウス

「グループきってのパンクキャラ」なので、ベタですがピストルズネタを入れたいという気持ちが最初からありました。
『Anarchy in the U.K.』『勝手にしやがれ!!』『ノー・フューチャー』のどれかをもじろうと考えていたところで「引きこもりだった」という設定が目に留まりました。いただいた「解説集」を見ると、さらにハッキリ「不登校となり」と書いてあったので、ネガティブな印象を与えがちな不登校のことをパンクスやアナーキーという自主的な反抗を表す言葉で前向きに感じられる表現に変換したら、それこそ「国芳たま」さんのアイデンティティが感じられて面白いのではないかと閃きました。意外なルビを振ることで言葉の意味をひっくり返す事ができるのは裏書き文学の楽しい部分です。
ちなみにここは猫の鳴き声に因んだ「アニャーキー」もルビの候補に挙がっていたのですが…やめといて良かった(笑)

「イン・ザ・UK」と続く部分にヒップホップネタの「インダハウス」を足すことで、使い古されたピストルズネタにひとひねり加えています。
原稿を提出した後にバブルガムカンパニー様から、英語表記で「不登校アナーキー InDa自室 ハウス」とするのはどうかと提案されましたが、英語表記は視認性が悪くなりがちで使い方に神経を使うので悩みました。裏書きは視認性が悪いと読む際のリズムがぶつ切りになってテンションがダダ下がりするので「英語表記にするのであれば…」とこちらからいくつか条件を出した結果、最初に提出したカタカナ表記のままで行くことになりました。この辺のやり取りのメールを読み返すと自分がかなり面倒くさい奴だと伝わってきて、自己満足と言ってしまえばそれまでなのにバブルガムカンパニー様はよくガマンして付き合ってくださったな~と感謝の気持ちが湧いてきます(苦笑)

独自カスタム 厨二 チューニング?!

いただいた「解説集」にあった「中二病もこじらせ」をカッコ良く表現しました。
テキストを提出する際に「※厨二の二はカタカナではなく漢数字です。」という注意書きを添えましたが、間違ってカタカナの「二」になっていたとしても気付けなかった自信があります(笑)

階級タテ 社会しゃかい 偏見バイアス

「常に模造刀を持ち、ライブでは間奏等で華麗な殺陣パフォーマンスを見せる。」との設定から「殺陣タテ 」という言葉は使いたいと思っていて、「階級」のルビをタテとしたのはそれに対して音を重ねるためです。
「階級社会」という言葉の登場に唐突な印象を受けるかも知れませんが、これは口上の「うざいコロナにうっさい常識、まとめて成敗!」と、いただいた「解説集」にあった「反抗心が強く、相手が目上だろうとたてつくことが多い」という説明を拡大解釈した結果です。

武者 ムシャクシャたまらず殺陣タテ つく

「武者クシャ」は「武者絵の国芳」という歌川国芳が活躍していた当時の評判から。

今回裏書きを書いた7枚はすべて文章の中にそれぞれの名前が入っていて、ここでは「たまらず」のところに「たま」が隠れています。

ここまで「偏見バイアス 」「武者 ムシャ」「殺陣タテ 」とカタカナ表記のルビが続くのは、最後に控える「いさましねこのついもよう」という長たらしい平仮名ルビがあっても全体の印象がダレないようにするための工夫で、これが全て平仮名ルビになると一気に弛んだ印象になるのではないでしょうか。また、ラストに向けてホップ・ステップ・ジャンプとテンポを刻むような視覚効果も狙っています。
何となく自分の中で平仮名ルビは横ノリ、カタカナルビは縦ノリというイメージがあって…まあ自己満足ですね(笑)

いさまし ねこの 対模様ついもよう !!

弟子連中も含めた国芳一門のファンだという人にはお馴染みの浮世絵『勇国芳桐対模様(いさましくによしきりのついもよう)』から持って来ました。
この作品には当時の名だたる国芳一門の売れっ子絵師たちや国芳の二人の娘が似顔絵で描きこまれていてそれだけでも価値があるのですが、まだ絵師として活躍していない若手や少年姿の弟子たちまでもが描かれているというとんでもなく垂涎ものの作品です。

歌川国芳『勇国芳桐対模様』嘉永元年(1848)頃

この作品のネタはいつか『浮世絵マン』で使おうと思って大事に温めておいたのですが先に使ってしまいました。
正直に書くと今回の企画でこのネタを使ってしまうのは勿体ないのでは??と悩んだのですが(笑)、デビュー時の「国芳たま」さんのイラストで猫のしっぽが左右に飛び出て正しく猫の対模様になっていたこともあり、使わない手はないと〆の言葉に選びました。

執筆中は途中まで「殺陣」と関連した表現として「太刀たち まち」という言葉を用意していたので、〆の部分は「武者 ムシャクシャたまらず太刀たち まち殺陣タテ つく いさましく」としていましたが、「勇」だけだとそこから元ネタの『勇国芳桐対模様』を連想できるのはよっぽどの国芳マニャー(国芳マニアのこと…いま思いついただけ 笑)しかいなくなってしまう、ということで「太刀まち」を削って「勇猫対模様」になりました。
この題名ネタは『浮世絵マン』でもそのうち使います。

・・・・・

以上、マンマン堂が裏書き本文を担当させていただいたバブルガムカンパニー様の新作シールの中から「国芳たま」さんの裏書き解説でした。最後までお読みくださった方、ありがとうございました。
こちらのシールはシール横丁で販売されるそうなので是非ともチェックされたし!!

マンマン堂の『浮世絵マン』もまだやめないんだからね!!!
※新作は9月発売予定

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