見出し画像

夏休み〜不思議な富士登山編③〜

ふつうの登山だと、下山はわりと楽勝です。

たしかに膝にはくることはきますが、登りよりは圧倒的にラクです。

しかし富士山は違った。

過去二回来てるのに忘れていたのですが、富士山の下山は登りと同じかそれ以上にきついのでした。

そもそも、富士山とふつうの山の大きな違いは何かというと

「土がない」

というところです。

山は基本的に土の巨大な塊なのですが、富士山は冷えた溶岩と砂礫で構成されてるため、岩だけの山なのです。

たとえば、ナントカ戦隊◎◎ジャー!!のテレビを誰しも一度は見たことがあるかと思いますが、あのレンジャーたちが悪いやつらと戦うとき、だいたい採石場が舞台なんですけど、富士山とはあれです、あれがそのまま登山道なのです。

非常に、非常に歩きづらいです。

土の道なら踏みしめることができますが、ゴロゴロ岩の砂利道は、足をついたところがたちまち崩れ、すごく滑ります。

登りでも相当苦戦しましたが、足の置き場はまだ登りの方が確実に行けます。

ところが一転下りは、その見極めがとても難しいです。

ふつうの山みたいに適当に下りることができないのが富士山で、しかも溶岩の岩はとても鋭く、万が一転んだらすごい大ケガにつながるため、登り以上に体重移動に神経を使うのですが、頂上の時点で限界を超えた気力体力で、再び数時間の下山の間ずっと足元に神経を集中しなくてはいけないので、ほんとうに疲れます。

そしてどんなに疲れてるといっても気を抜くわけにはいきません。マジで危ないからです。

しかしこちとら昨晩の2:22から、いや正確には家を出る前日の夜10時から、起きっぱなしなわけです。

疲労に加えて眠気も襲いかかるなか、神経を集中させないといけない。

ついでに言うと、我々は荷物をほどよく分散させるため、息子のリュックにフリーズドライ系の食材を、わたしのリュックにそれらを解凍するお湯の入ったポットを、夫のリュックにメインの飲み物を、それぞれ搭載していたため、別行動を開始したわたしたちは一切の食べ物がない状態でここまできてしまったのでした。

幸いなことに行動食だけはもっていたのでそれでやり過ごしていましたが、つまり昨晩からほとんど何も食べてないわけです。

一説によると富士登山に必要なカロリーは4000キロカロリーだそうです。

我が肉体が、かつてない飢餓状態であることを感じました。 

とにかく早く降りなくては、何かもう決死の覚悟でした。

しぬほど歩きづらい砂礫の道で慎重になざるをえないとはいえノンビリしすぎてると自分の体力が本当の限界を迎えてしまいます。

降りるしかない、どんなに辛くても、しかしあまりに辛くてわたしは半泣きでした。

富士登山は出産に似てます。

あの永遠に終わらないんじゃないかという陣痛との戦い、どんなにやめたくても産むまで終わらないから耐えるしかない。

富士登山も同じで、永遠に終わらないんじゃないかという登山道をひたすら辛抱強く降りていくしかない、下りるまでは絶対終わらない、もういやだよ〜!!という全自分の心の絶叫を必死で抑えて、そして一歩降りるたびに衝撃がはしる膝の痛みに耐えてるうちに、なんかちょっとメンタルが崩壊します。

でも家族が待ってる、と思ったらがんばれました。

六合目で待ってるよ、とLINEがきていたからです。

ちなみに行きはだまされなかったセーブポイントですが下りはメンタル崩壊していたせいかまんまとだまされ、ヨシ!!七合目すぎた!!次が六合目だ!!と思って目指してきた山小屋が新七合目だったときはもう、もう、心からくやしすぎて泣きました。

それでも富士山はずっと晴れたままで、わたしが最も恐れていた雷雲もまったくなくて、なんだか「いまのうちにがんばりなさい」と富士山が言ってくれてる気がして、心を立て直すことができました。

やっとあの曲がり角をまがったら六合目の小屋だ、というところまで来た時、夫が途中まで迎えに来てくれていました。

「えっ、なんでいるの!!」

「もうそろそろかなあと思って、来てみたんだよ」

笑顔の彼の姿を見た瞬間、安堵感とうれしさで、わたしはまた泣きました。

ウワ〜〜ン!!つらかったよう〜〜〜!!!!

あと・・・

お前の持ってるその!!

飲み物を!!

いますぐ、くれ!!!!!!!!!!!!

というわけで六合目の山小屋で、ようやく水分にありつけました、やばかった、本気でしぬかと思いました。

思えば九合目で解散した我々ですが、夫は腰痛のため、息子と夫も途中からバラバラに降りたらしく、つまり息子もあそこからここまで一人で無事に降りてきたかと思ったら・・・

また感動して、うるうるしてしまいました。(精神不安定)

さて無事に再会したところで、旅館の予約時間が気になるところでした。

静岡側から登りましたが、今晩の宿はわたしが「どうしても行きたい」と決めた甲府の旅館で、けっこう距離があるのです。

帰りはバスの予定でしたが、もはやその時間には間に合いそうもなかったので、とにかくタクシーでもいいから駐車場まで戻らないと。

というわけであらためて3人で出発です。

慎重に、慎重におりて・・・

ついに!!!!

五合目まで戻ってきました!!!!!!!!

ヤッター!!!!!!!!

五合目が見えたときは、頂上が見えたときよりうれしかったです。

ああよかった、降りてこれた、全身の力が抜けながら登山道からおりてくると、最後の最後にテントが張られてて「富士登山道環境保全のための募金」を受け付けていました。

富士山に登って降りてこれたことがあまりにもうれしかったため、わたしはワンツーフィニッシュをきめながらそのテントにすべりこみ、感謝の気持ちをこめてポケットに残っていた千円札をそのまま募金箱に投入しました。

募金箱はカラだったのですが、そこに千円札が投入されて係りの人も心なしかうれしそうでした。

ヨシ。

こうしてお礼もできたことだし、何か、ほんとにやり遂げた感がありました。

あとはタクシーを呼んで・・・と夫と話しながら歩いていたら、テントの係りの人が追いかけてきて、

「時刻表にはないけど、臨時バスが出るんだよ、もしかしたらまだ席があるかもしれないから、とにかく行ってみて!!満席になると出ちゃうから、いそいで!!」

と教えてくれるではないですか!!

バスに乗れるならそれにこしたことはない。

募金してヨカッタと思いました。

あとは席があるかどうかですが、ここまできたら絶対あると思いました。

もうほんっとに足が疲れてて、バス乗り場まで下りる階段が過去最高に辛かったのですが、バスにはちゃんと席がありました。

みんなでバスに乗り込んで席に座り、涼しいエアコンにあたったとき、やっと下山できたと思って、めちゃくちゃうれしかったです。

車をとめていた駐車場に着いたのは、夕方5時前でした。

結局、登りに8時間、下りに5時間、トータルで15時間くらい富士山にいました。

その間、お天気がずっと良かったことは本当にありがたかったです。

そのあと夫は運転をめちゃくちゃがんばって、旅館にもちゃんと着きました。

ほぼ不眠不休ついでに不食状態の我々は旅館で祝杯(といっても水。ビールとかそういう気分にはまったくなれませんでした)をあげ、

「すごくいい思い出になった!!」

と健闘をたたえ合いました。

そしてわたしはその夜、富士山のあの岩だらけの山道の悪夢にうなされました。

富士山おそらくもう2度と行くことはないけど、でも本当に行ってよかったです。

というわけで富士登山編終わりです。

せっかくなので次回は、富士登山に挑戦する方のために自分たちの体験をふまえてアドバイス的なことを書こうと思います。

#日記 #エッセイ #富士山 #富士登山 #夏休み


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?