ゴーストエンジニアリングのすゝめ  ~工学の力で心を変えるお話~

この記事は,U-Tokyo mech (東京大学機械系) Advent Calendar 2018 の記事です.

はじめに

はじめまして,S軍曹です.
今回初めてnoteに投稿をしますので軽く自己紹介から.私は現在,東京大学工学部の廣瀬・谷川・鳴海研究室というところでVRに関連した研究を行っております.
今回は,そんな研究室の中で鳴海拓志先生が提唱されている「ゴーストエンジニアリング」という技術分野を,皆さんに紹介をしたいと思います.これは簡単に言えば,工学の力で心を変化させる技術です.今回はその中でも特に,以下のことについてお話していきたいと思います.

1. ゴーストエンジニアリングとは
2. どうやって心を変化させるか
3. ゴーストエンジニアリングの対象

取り扱う技術はxRになりますので,VRに興味がある方や今まさにVTuberをやっているよという方,専門家の方,研究の内容を決めかねている学生の方────これから到来する時代に目を向けるすべての方に,この記事を読んでいただければ幸いです.

ゴーストエンジニアリングとは

一言でいえば,ゴーストの変化を適切に助ける工学的技術のことです.
では,この何やら仰々しい「ゴースト」とは何か?皆さん,『攻殻機動隊』は見たことがあるでしょうか?この作品の中では「ゴースト」という単語が何度も登場します.わかりやすさを優先して厳密でない言い方をすれば,ゴーストとは「魂」とも呼べる概念のことです.歴史をたどること1949年,このゴーストという概念は,哲学者Gilbert Ryleの "The Concept of Mind" という作品の中で議論された "Ghost in the Machine" まで遡ります.氏曰く,ゴーストとは自己のアイデンティティを司る心的機能であるとのこと.

わかりにくいので自分なりの解釈をすれば,
「自分」という存在を形作るような考え方や感情の在り方

もっとかみ砕いてしまえば
「自分」を構成するものの集合から,「身体」を引いたもの
であるように思います.

さらに厳密性を欠けば,自己の内面のようなものでしょうか.こんなに咀嚼してしまうと各所から怒られそうであります.まとめるところ,ゴーストエンジニアリングとは,自己の内面を適切に(良い方向)に変化させるための工学的技術というわけです.

どうやってゴーストを変化させるか

人はそう簡単には変わらない────
世間では悲しいことにこんなことが言われています.事実,自分の内面を変えるというのは難しいことではないでしょうか?引っ込み思案を直そうと頑張ってみたり,締め切り直前まで課題を先延ばしにしてしまう性格を直そうとしたり...それでもうまくいかなかったりするのが人生だったりします(私はこの記事を締め切り直前に書いています).

そんな逆境の中,過去の偉大な巨人たちの手によってある種の希望がもたらされました.それは,外見が変わると内面も変わるという研究結果です.一見普通のようで一見また違和感を感じるような内容ですが,昨今このような研究結果が多数報告されています.え,いやいや外見なんてそう簡単に変わらないでしょ?と思った方もいらっしゃるかもしれません.しかしいまや2018年末,それを可能にする技術が存在するのです.そうです,VRです.

VRの世界-バーチャルワールドの中で,人はアバターを使って自己を表現します.自身を表現するアバターは十人十色,自由自在です.そんなアバターを使った有名な実験として,RS.Rosenberg らによるスーパーヒーローの実験があります.この実験では,参加者がヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)を装着し,スーパーヒーローのアバターになって人を助けるという体験をします.その体験が終わってHMDを外した後,実験の監督者がわざとペンを落とします.すると,スーパーヒーローになった経験をした参加者はそうでない人に比べてそれを拾うという行動をしやすくなった,つまり利他的になったというのです.これは一例ですが,ほかにもこのような研究が多く出始めています.

すなわち,アバターを適切に変えてあげれば,人はその内面を変えることができるということが示唆されてきたということです.

これを扱っているのがゴーストエンジニアリングです.

ゴーストエンジニアリングの対象

ゴーストエンジニアリングは,バーチャルな自分を変えてあげることで自身の内面の変化を助ける技術であることを説明しました.そしてこれは,我々のごく身近で起こっていることを対象としています.
YouTubeやTwitterを開けば,VTuberの方たちがたくさんおられます.バーチャルに受肉した彼女・彼らは,内的にどんな変化を感じているのでしょうか?
VRChatでは,世界中のありとあらゆる方がありとあらゆるアバターで交流をしています.そのときユーザーは自身のアバターからどんな影響を受けているのでしょうか?
仕事や作業をするときに,バーチャル空間の方が便利な世の中になるかもしれません.仕事がはかどるアバターや,人と会うときに自信を持てるアバターはあるのでしょうか?

このようにゴーストエンジニアリングは,これからの時代にごくありふれるであろう現象を対象とした技術分野です.

さて語ることは尽きることなくたくさんあるのですが,今回は"さわり"としてこのあたりでまとめさせていただこうと思います.今後も弊研究室の有志がこの分野についての投稿をしていくように思いますので,ぜひ興味をもっていただければ嬉しいです.


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