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OKな彼女、NGな彼。

<はじめに>

これはTwitterの相互さんである、minamiさん(@minami_eva)原作でワタシの追加妄想激しいお話です。
お仕置きネタで…と書いたもの(手錠目隠しネタ)が公開しづらくなってしまったので、緩い内容にしてみました。

minamiさんが思っていたようなお話ではないと思うのですが、ありがたくも掲載許可を頂けました。minamiさん本当にありがとうございます❤︎

全年齢対象です。R18の方はまたどこかで発表出来たらいいなと思います。

ではではお付き合いいただける方はどうぞ





◇ ◇ ◇ ◇ ◇

あれは絶対許せないだろ。
俺との写真全部置いていったクセに、何でアイツとの写真は司令部限定とはいえ、堂々とインスタなんかに載せるんだ。

ちゃんと分からせてやらなきゃダメだな…

そういえば最近全然見なくなった。
強いて言えばリツコのラボに出入りしてるのを、ちょっち見たけれど、ここしばらく顔も合わせてない。

アタシなんかしたっけ…

彼女のことは、一応ブレーキをかけたさ…深みにハマれば抜けられないのが分かってたから。
けど、相手になどしてないとはいえ、日向はいい奴だし、このまま彼女を攫われるかもしれないって、少しだけ、焦った。

ちゃんと、釘をささないとな…



いつも彼は自分の執務室に、苦もなく勝手に入って来たし
いつも彼はランチタイムに、気がついたら隣に座っていたし
いつも彼は家の留守電に、メッセージを残してきた

残務処理に追われ、今日は徹夜で仕事の予定。しかしミサトは肘を付いて目の前に置かれている、毎回届く嫌がらせのような、大量の紙媒体の資料を指で小突いた。

ため息が出る。

もしかして避けられてる…の…かな…

あんなに頻繁に自分の仕事のこと手伝ってくれたり、ご飯誘ってくれたり、ことある毎に必要以上くっついてきたクセに。

彼がわたしの生活の中から消えて、そろそろ1週間になる。
しかし、時間的な距離はもっと長く感じた。
まるで、アイツが出向してくる前みたいな、そもそもここに存在していないが如くの、そんな日々。

あんまり冷たくし過ぎちゃったかな…

…ふっと、別れた時を思い出す。
しばらくは孤独と向き合った、あの頃。

そこまで思うとミサトは被りを振って、パソコンを開く。

日本政府や戦略自衛隊からの書類を整理し、担当の係に回さなければいけなかった。それだけではなく、この先の使徒襲来のことを考えて、何度か襲来があった使徒により、傷ついた第三東京市の要塞機能の復旧、それに伴う防衛対策についても対策しなければならない。

マンションいるシンジに電話を入れて、帰らないことを伝えた。
アスカは今日は同級生の家へ泊まりにいくことになっていた。なるべく二人きりにしないように留意して残業するのが、一時的とはいえ保護者としての務めだと思っていたが、今日はシンジだけなので、ミサトも安心して仕事ができる。

これから長期戦になるであろう事務仕事のために、多めにコーヒー豆をフィルターに入れ、コーヒーメーカーにスイッチを入れると、ミサトはパソコンに向き合った。

ミサトは事務処理は得意ではないが、仕事面では即断即決でスピード感がある。
嫌がらせとしか思えない、水増しされた苦情は現実味があるものを形だけファイルして、他の紙くず同然のものと一緒に、全てシュレッター行きのダストボックスに放り込み、公文書だけ抜き出した。自分自身で処理するもの以外は、担当箇所にメールで送信し一息つく。

淹れておいたコーヒーをカップに注ぎながら、ふと、執務室のドアを見る。

いつも何の苦もなく、部屋に入ってくる彼。
執務室の暗証番号変えようかな…と思うのに変えられない。加持だったら容易に分かる番号にしてるから、勝手に入ってくるのだとわかっていても。

そろそろちゃんと変えなきゃね。

迫り来る睡魔を退散させる為に、ミサトはコーヒーを体に流し込んだ。

いつも彼女の執務室に入り浸ってたし
いつも彼女のランチにはコーヒーの差し入れをしてたし
いつも彼女の家の電話に留守電を残した

だが、古典的な方法かなとは思ったが、彼女へのアプローチを一切やめた。
全く姿を見せないのもリっちゃんトコには頻繁に寄ってみたが、彼女の気配を感じるとすぐに退出した。

全ての元凶はあのインスタの写真。
彼女に群がる男は全て排除しないとな。

加持はその独占欲に満ちた思惟に苦笑する。

帰国する直前、彼女はサードチルドレンと同居を始めたと聞いた。
あの君が、家事全般全く出来ず、俺に全面的に頼ってた君が、他の誰かと同居すると聞いた時、しかも自ら申し出たと聞いて少なからず動揺した。

そりゃ相手は子どもだ。
でも男には変わりない。

それにしても、君の部屋の暗証番号をアレにしてるとは思わなかったよ。
可能性があると思ってしまうじゃないか。

そして、1週間そろそろ潮時か…

何より俺が限界だ。

ネクタイを緩め、加持は不敵な笑みを浮かべて、ミサトの執務室の前に立った。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

午前2時を回った頃、ピッピッピッとセキュリティの暗証番号を押す音がした。

徹夜で残務処理をしているミサトは、うつらうつらとし、遠のきそうだった意識と戦っているところだったが、その音に緊張感が走り、閉じかけた瞼を開ける。

そして、そのまだしっかりと空いていない瞳をドアの方に向けると、彼女の予想通りの人物が入ってきた。

その予想通りの人物である…加持はいつものニヤニヤ顔ではなく、真剣な顔でミサトの前までズカズカと一直線に向かってきた。眠さで気だるい体と、加持のいつもとは違うその顔に、一瞬怯んだ彼女の隙をついて、解いておいた自分の首にかかったネクタイで彼女に目隠しをして、両腕を自分の手で拘束した。

「な…なにするのよっ」

ミサトは一気に目が覚める。そして抵抗を試みたが、加持の手は少しも動かなかった。
彼らしくない強い力に、彼女は少し怯える。

「わからない…よな」

慈悲のない、乾いた声で加持は言い放つ。
それはいつも調子がよく、穏やかで優しく響く彼の声とは全く違った。いつでも彼の前では、強気で意地を張り、素直になれない彼女も、視界が遮られた不安と、普段の彼とは全く違う様子、そう言えば1週間も避けられていたことを思い出し、悄悄と俯く。

「やっぱり…あたし何かした?」

加持は、ミサトの手首をしっかり掴んだまま彼女の耳元に己の唇を持っていき、囁いた。

「…困ったお姫様だな」

そう嗜虐的に呟くと、ミサトの耳朶を甘噛みする。
目隠しをされながらの、その淫靡な行為に彼女はぶるっと震えた。
加持は耳朶を十分に味わった後、額へ口付け、額からから頬へとミサトに口付けを落としていく。

こんな理不尽なことをされているのに、触れられて嬉しい。
彼が帰国してから、やたらつきまとわれて、隙あらばちょっかい出されていたのに、全く姿が見えなくなって、もう終わった恋の名残が心の奥底から沸き上がる気持ちを、持て余していた。

彼にそうされることを待ち望んでいたように、見えないその瞼に、唇で彼女を愛撫している彼の姿を想像し、体の芯が熱くなるのを感じる。
しかし、頰に唇が触れた後、彼は顎に手をかけながら、そのまま彼女から離れた。彼女が一番欲しい場所に、唇は降りることなく、そのまま彼の体温が離れていくのを感じ、ミサトはやるせない思いで一杯になった。

ミサトの頬から自分の唇を離すと、加持は彼女の顎を指先で上げ、しばらく見つめていた。目隠しされた彼女の顔は少し紅潮し、柔らかい唇は彼を誘うように薄く開かれていた。その唇に息がかかる程まで近づきながら、彼はいつもなら重ねるはずのその場所から離れ、そして自らの手で抑えていたミサトの手を解放した。

彼女は自由になった左手を、口元に持っていく。
それはまるで、口付けをしない彼に不満を漏らしているような仕草に見えた。
そして、そのまま目隠しを外すことなく、全く動かない。失声症になったあの頃から、暗闇が苦手なことも一因していた。真っ暗な世界は、ミサトの意識を思考迷路の世界へ導いていった。

ミサトの戦闘能力なら何とでもするであろうこの状況で、無機質なディスクチェアに縮こまり、静かにポツンと座っている姿を見ると、加持は自分の世界に彼女を引き入れたような気がして、充足した笑みを浮かべた。

別れて8年が経ち、いい大人になった自分と彼女。
その間も、同じ組織に所属していることもあり、何度か仕事で顔をあわせる時があったが、まるで一緒にいたことなどなかったような、そのよそ行きの顔に胸がちりちりと焼かれるように痛んだ。

今回のNERV本部への出向について、加持は危険な任務を遂行することが求められたが、それと共に、同じ人生を歩むことは叶わなくとも、もう一度だけ、彼が愛した女を自分の手の中に取り戻そうとする、そんなミッションも自分に課していたのだ。

以前はあれだけ自分を拒絶していたミサトだったが、本部で一緒に仕事をするようになり、同僚として信頼出来るスキルを持つ、加持の仕事ぶりを認めるようになった。それからは、それまで彼に向けられていた彼女の棘が影を潜め、思ったよりも早く距離が近くなった、と加持は感じていた。

が、しかし、今現在も、彼とミサトとの関係は曖昧で不確かなものだ。
そもそも自分自身、彼女と大学生時代の…昔の関係に戻ってしまっていいのか、迷いもあった。何より再び自分の手で、彼女を穢していいのか。
だからこそ、のらりくらりと側にいながら、全て自分のものにしてしまいたい欲を抑えつつ、一緒にいる時間を大切にしていた。

執務室の隅にあった、丸椅子をミサトの前に置いて座り、ミサトと向き合う。中途半端に触れられ、目隠ししたまま放り出された彼女は、なんとも妖しい雰囲気を纏っていた。加えて、あのインスタグラムの写真を見せられて、どうしてもミサトを独占したい気持ちが、いつもの余裕を無くし、支配欲を掻き立てた。

結局は自分のどうしようもない利己主義だと、分かっていながら、言葉ではミサトを貶める。

「いつもはあんなに抵抗する癖に、キスしたいんだ」

彼女の耳元でいつもより低い声を響かせる。

「ホントに俺でいいの?」
「葛城は、俺よりキスしたい男がいるんじゃないか?」
「シンジくんとか…日向とか…」

意を決した加持は、彼女の周りに存在する二人の男の名前を、吐きだすように言った。が、加持の言葉はミサトにとってあまりにも予想外であり、彼女は自分でもびっくりする位に素っ頓狂な声をあげた。

「な…シ、シンちゃん?」
「日向くんって…何言ってるの?」

少ない時間の中で考えていた、加持の行動の意味。その想像とはかけ離れていた人物の名前が二人も出てきて、ミサトは余計に混乱する。

…ずっと、ずっと、加持に心乱されてきた

彼が帰国して、いつも付き纏われて、強引に、でも蕩けるようなキスをされて、その顔を見る度に、心中穏やかではない状態が続いていた。

おまけに、彼女の親友はもっとストレートだ。

『あら、まだ好きなんでしょ』
『もっと素直になればいいのに』

などと、ミサトと加持の過去をよく知っているリツコは、やたら突っ込みを入れてくる。彼女は、ミサトが加持とのことで、その心が波立っていることをよくわかっていた。ミサトが浮かない顔をしたり、加持の愚痴を漏らす度に、ミサトは同じようなことを言われていた。

リツコに言われなくても、そもそも嫌いになって別れた訳ではないのだから、余計に厄介な気持ちを抱えたまま…

こんな毎日に加え、仕事は激しさを増すというのに、いつも加持のことが脳裏にあって、落ち着かない。その元凶である、この目の前の男は何を言っているのだろう。

なにより今、この状況で加持と唇を合わせることを心待ちにしていたのは、ミサト自身だった。

絶対何か誤解してる…
じゃなきゃこんなこと加持くんはしない

しかし、ミサトにはさっぱり心当たりがなかった。
シンジとはぶつかり合うことも多いが、アスカも加わり、最近は築いてきた信頼関係からか、最初に思っていた以上に、同居生活は順調だと感じている。
しかも、加持自身、シンジのことは気にかけていた。
彼の友人も誘い、社会見学に連れていったり、ジオフロント内で、一緒に農作業をしたり、お茶する時さえあると、シンジ本人から聞いたことあった。

日向については思い当たるフシがない。
大体、加持がNERV男子会なるものを作って、他にも青葉などオペレーター達や、戦術作戦部や技術開発部の男子職員と、ミサト達よりも交流を深めているではないか。

「ここまで言っても…やっぱり自覚ナシか…」
「やっぱり君にはお仕置きが必要だな」

加持はミサトを引き寄せ、再び耳朶を口に含みながら呟くと、首筋に唇を移動させて強く吸い付いた。
ミサトは思わず声を漏らす。

「あ…やっ…」

「ヤらしい声…もっと聞きたいな」

加持は満足そうに囁きながら、ミサトの首筋に一つひとつ丁寧に、花びらのようなキスマークを散らしていく。彼の姿が見えない中、その首筋をキツく吸われる感触に、しばらく忘れていた加持に体を開かれる前の、焦ったい愛撫を思い出し、ゾクゾクと体の奥から熱い疼きを感じる。その体の火照りに戸惑いながら、ミサトは切なげな声を抑え、その身を次第に加持に委ねていった。

「ん…もう、そんなトコばっかり…見られちゃう」

「髪下ろせば大丈夫だろ」
「君のポニーテール姿が見られないのは残念だけれど」

加持は、笑いながらミサトの右手を口元に持っていき、愛おしそうに唇で触れる。同時に、チクチクと彼の髭が彼女の手をなぞり、その甲にもうひとつ花びらを散らした。

「やだ、こんなとこにまで」

ミサトは加持に口を尖らせた。目隠しされた状態で、私達は何をやっているのか。
遠い昔、二人が情事に溺れていた頃、服を着れば見えない場所至るところに、花びらを散らされたことはあった。
しかし、今の状況はまるで違う。まるで何か罰を受けているようだった。加持にとっては事実そうであったのだが、彼女は罪を償う代償として体に印をつけられているような気がした。
そして、手の甲にまで付けられてしまったと思われる花びらは、他の職員はともかく、きっとすぐリツコに見つかってしまう。きっとその瞬間自分を一瞥し、呆れてものも言わないのではないかと思うと、ゾッとする。

そもそも加持がこんなことする理由がさっぱり分からなかった。

「ねぇ…加持くん、もういい加減、教えて」
「なんでこんなことするのよ…」

加持はその疑問に答えることなく、ミサトの手を膝に戻した。
彼女には見えていないことが分かっているからか、彼にしては珍しく、気まずそうな表情をストレートに顔に浮かべ、しばらく鼻を掻きながら沈黙していた。

「最近、司令部ではインスタ始めたんだな」

唐突な言葉に、ミサトは張り詰めていた体の力が抜けるような気がした。
最初の勢いから、扇情的に自分に触れてくる加持が自分を求めてくるのではないかと、警戒していたのだ。
彼が考えてることとは、全く違う話題を出してきて、自分が何を考えていたかを思うと、ミサトは恥ずかしくなり、加持が執務室に入ってきてから何度目か心の乱れを、気づかれないように、言葉を矢継ぎ早に繋いだ。

「そ…そうよ、外部には出していないけれど…リクリエーションの一貫として始めたの」
「みんな大変な仕事しているのよ、加持くんだって知ってるでしょ」
「も、もちろん、上の許可は取ってあるわ」

ミサトが早口で喋り続けると、加持は静かだが、不機嫌を隠せない声を出す。

「じゃあ、あの司令部の葛城が映ってる写真、誰が撮ったんだよ」

「わたしよ」

悪びれずに答える彼女に、加持の苛立ちの糸がまた一つ切れる。

「それはダメだろ…しかもツーショットだぞ」

「ツーショットって日向くんとじゃない」

殆ど怒っている声がミサトを包む。
加持にはここまで言ってなんで分からないのかという悲憤の気持ちもあった。

「それがダメなんだ」

そんな、彼の気持ちなど御構い無しにミサトはまくし立てた。

「どうしてよ…加持くん何か勘違いしてるよ」
「…まさかアタシが日向くんと付き合うとでも思ってるの?」
「それに…シンちゃんのことも!一応シンジくんの保護者よワタシ!」

ミサトに負けじと加持も語気が強くなり、かつ不貞腐れたような顔をしていることに、彼自身が気づいていない。

「男と女なんて何があるか分からないだろ」

「男と女?…何のはな…し」
「…って加持くん…まさか…」

『ヤキモチを焼いてる?』と言いかけて、ミサトは口を噤んだ。
もしそうだったら、今までの加持の行動が全て繋がる。
しばらく避けられていたこと、こんな目隠しされて意地悪されていること、シンジくんや日向くんのことで、やたら突っかかってくること…

バカだなぁ…

ミサトのは苦い笑みをその心に押し隠し、深く息づく。
そして、ため息のように、心の声が漏れた。

「加持くん以外と付き合うわけないじゃない…」 

自ら漏らした声が耳から入ってきて、ミサトは慌てて言い訳をする。

「あ…」
「い…いっ今の冗談だから…え…と気にしない…」

もっと気の利いたことが言えなかったのか、とミサトは後悔するがもう後の祭りであった。反面加持にとっては、今までのモヤモヤが一気に晴れるような言葉が降ってきて、あんなに不機嫌だった声が、いつもの調子に戻る。

「ホントに冗談?」

一本取ったと思ったのも束の間、あっと今に形勢逆転してしまったミサトは、しどろもどろに答えるしかなかった。

「…そう…じゃないかも…けど」
「勝手にヤキモチ焼いたクセに」

「ホント…バカなんだから」

ミサトは呆れたフリをしながらも、憂色が晴れるようなため息をつく。

「君の前ではいつだって本気さ」

加持の声はいつになく真剣だった。

その声色に、ミサトは思う。結局加持も自分と同じように、過去の恋を清算してはいなかったのか。
ミサトは彼を棄てた。その恋心は封印され、彼女を構築する一部分になった。再会した後は、付かず離れずの関係だったはずの彼との距離が縮まり、やるせない想いが深まり、ただもがくだけ。

もし、加持も同じ気持ちであるなら…

「…加持くんの欲しいものをあげるわ」
「だから、この目隠しを解いて」

最初に拘束された両手は、随分前に解放されていたが、ミサトはその暗闇の世界から、加持の手で解放されることを願い、彼もその彼女の思いに応えた。

ミサトは立ち上がり、目の前に立つ愛する男の顔をしばらく見つめると、その唇に、そっと口付けた。

「これで…許してくれる?」

お互いの唇が一瞬触れ合う、そんな軽い口付け。
恥ずかしさもあるのか、付き合っていた頃から、滅多になかったミサトからの口付けに、加持は心が満たされる感覚に酔う。
が、その気持ちとは裏腹に、彼は自儘にな言葉を投げかける。

「足りない」

そこには不満そうな声とは裏腹な、加持の柔らかな笑顔があった。
その表情にミサトはホッとする。

「今はダメよ」
「し…仕事中だし」

彼女の両腕の震えが、緊張していることを直に伝えてくる。その反応を楽しむために、加持はその顔を覗き込む。

「じゃあ、いつならいい?」

またミサトの耳元で言葉が放たれ、その心地よい音に、彼女は全身を震わせた。その甘美な感覚に圧倒されながらも、ミサトは躊躇いがちに、加持のワイシャツの袖を握り直すと、おずおずとその胸の中に自分から顔を埋め、呟いた。

「もう少しだけ…このままでいたい」

加持は、その時ミサトも自分と同じ思いを持っていたことを確信した。
彼女も自分との距離を計りかねていたのだ。加持がミサトとの関係を進めることを躊躇っていたように、彼女もまた…。

他の男と一緒にいることを形取られ、冷静さを失っていたと思う。

気がつけば、腕の中にすっぽり収まっている彼女。
その顔を見ることは出来なかったが、恐らくそのあどけなさが残る美しい顔を、朱に染めていることが想像出来た。
何より、『いまはこのままで』と懇願しながらも甘えたような彼女の声に、加持は降参した。

「分かったよ」

「葛城…ごめん怖かったろ」
「暗い所苦手だったのに」

加持はミサトの顔を指先で自分の方へ向け、瞼に口づけを落とした。

「大丈夫」

…加持くんは酷いことしないって分かってるから

ミサトは心の中で呟いた。

その思いを感じたのか、加持は再びミサトの右手を口元に引き寄せて、再び口付けた。

自分のものだとつけた、『しるし』を確認するように。

Fin.

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

<おまけ>

(NERV男子会LINEにて)

『俺もインスタ始めたからよろしく』

加持がメンバーにインスタグラムのURLを送信した。

そこには、それとなくミサトが写り込んでるのだった。


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