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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(36)

第三章 マンションの完成を目指して


14.住戸引き渡し

 2023年9月30日に鍵(住戸)の引渡し会を開催し、鍵と一緒に新マンションでの生活マニュアルを手渡し、必要事項の説明を行った。翌、10月1日より入居が始まり、多くの懐かしい顔ぶれに出会う事ができた。その時、初めて建替マンションの竣工を実感できた。帰ってきた人達は皆、高齢にも拘らず、元気で微笑みに満ちていた。5年以上の年月が経ったのに皆あまり年を感じさせなかった。最近歳を取ったと自覚する事が多い自分と比較して羨ましく、嫉妬さえ感じるほどだった。

 高齢者にとっては新電力やガスの開通手続きの大変さやWi-Fiの接続、共用施設の予約のためのクラウド登録等々難しく感じることが多いのではと心配していたが、シティーコンサルタンツが作成してくれた生活マニュアルのおかげで問題にはならなかったようで胸を撫で下ろした。

15.未引渡し住戸の問題

1)未引渡し住戸と対応策

 増床負担金、延滞金利等の未払いにより、住戸引渡しを期日通りにできないと予想される権利者の住戸には先取特権を設定し、万が一の場合、競売等により住戸を処分できる準備を行なっていた。しかし、引渡しまでに多くの住戸の問題は解決でき、9月30日時点では、4戸の住戸のみが未引き渡しとなっていた。

 1件の所有者は私は認知症を疑っていたが、問題は極めて怠惰であると言う事だと判明した。これまで事務局側がなん度も連絡を試みたが返答がなく、ご子息に連絡を取ったが、親は健在だから親に直接連絡をとってくれと全く取り合ってくれなかった。ところが、引渡し実施日の当日、何の前触れもなく、会場に現れた。そして増床負担金等の支払いも済ませて来たと言う。しかし、当日は引渡し会も終了しており、時間切れで翌日の引き渡しとなった。

 本当の認知症の権利者は代理人と話し合った結果、増床負担金の負担能力があることが判明、全ての負債を清算した後、代理人に住戸を引渡す事ができた。

 経済的理由で増床負担金を払えなかった権利者も権利登記が完了し、昨年末に組合員に送付された権利書により銀行融資が受けられたので、引渡しが完了した。

 残る1件は香港在住の権利者住戸である。香港の弁護士に依頼し、調査を進めたが、全く、所在が掴めなかった。生死も不明である。

2)競売の決断

 香港在住の権利者については住戸引渡しのずいぶん前から所在確認の調査を続けていたが、これ以上は時間と費用の無駄と判断し、年が明けた2024年1月の理事会で競売手続きに入る事を決定。2月14日に競売の申請を行なった。通常の場合でも競売完了までに1年程度の時間が掛かる事が想定されている。海外居住者の場合は経験もなく、必要な時間も読めない。従い、建替組合の清算・解散の時期も正直、読めない状況であった。

16.補償費の還付

1)2023年11月の臨時総会と第一次補償費の支払い

 2023年11月に建替組合の臨時総会を開催し、予定通り補償費(剰余金=還付金、1.21億円)の還付を実施する事の承認を受け、即、実行した。

 総会終了後に今後(2024年)の建替組合の行事予定を説明した。従来通り、3月、5月に総会を開催、8月に建替組合解散総会を開き、12月に清算終了となる。建替ニュースで2024年12月まで建替組合の活動が継続することを告知していたため、大きな反応はなかったが、私自身はもっと早く役目を終えたいと言う思いはあった。しかし、現実は香港在住の権利者の所在不明問題で全く、解散時期が全く読めなかった。
 本来なら、2024年1月に予定されている消費税還付金の金額が確定すれば、事業収支は確定し、剰余金の最終分配の承認を受ければ実質的な組合の役割は終わり、あとは単なる手続きの問題が残るだけと言うはずだった。

2)第二次補償費の支払いと建替組合解散時期の予想

 2024年1月に消費税還付申請が完了した。これまで、予算化されていた消費税還付金は2.2億円であったが、大幅アップの2.9億円となった。これにて建替組合の事業収支の収入が最終確定した。支出は今後、香港の権利者住戸の競売に関わる費用は全て原因者負担になるとすれば、これもほぼ確定しており、2回目の予定していた補償費(還付金)の支払いは1.01億円から1.71億円+αに増える(補償金合計は2.22億円から2.92億円に)。

 2024年3月に臨時総会を開催し、2024年度の事業収支予算の承認を受けた。予算案を提示するにあたり、剰余金を補償費(還付金)として周知すべきとしたが、保守的な事務局は乗り気ではなかった。しかし、理事会の要望に応じて想定より若干低い1.66億円の補償費(還付金)を予算化し、臨時総会で告知した。第一回分配金と合わせ想定より5百万円少ない合計2.87億円の還付金(予算)となった。ただし、予算には10百万円の予備費、2.5百万円の祝賀会費用(全く予定なし)、競売手続きに必要な弁護士費用(原因者負担にならない可能性を考慮して)が含まれている。競売にかかる費用が原因者負担になれば、第二回補償費の支払いは1.8億円以上、一、二回合計で3億円もしくはそれ以上になり、還元率は104.65%以上になる。

 還元率100%の実現は建替委員会、建替組合の最終目標になっていたと思われるが、私はそれは最低目標だと言う考えを一度も変えた事がなかった。104.5~105%の還元率で初めてなんとか本来の目標に近づけたという思いだ。

 臨時総会で予算の承認を受けた後、説明会を開催し、昨年11月の臨時総会で報告した2024年中に建替組合の解散は実現困難である事を報告した。既に競売の手続きを進めているが、海外居住者の所有物件の競売に関しては顧問弁護士も経験がなく、売却までの期間が全く読めず、補償金還付の時期の見通しは全く立っていない事を正直に説明した。

競売手続き

3)今後の建替組合の活動

 今後の建替組合でやらねばならない事は多くない。ただ、競売の手続きが順調に行くようにサポートする事、不要な支出を抑え、費用の原因者負担を最大限追及し、剰余金を最大にして、還付額を少しでも多くする事だ。

17.管理組合の正式発足

1)管理組合臨時総会

 建替組合の臨時総会と同日、管理組合の臨時総会を開催した。その主な議案は①来客用駐車場の使用規則の変更、②立候補役員と輪番制役員の承認であった。いずれも問題なく、可決された。そして②により正式に管理組合理事会が発足した。

 ②に関しては、3人の組合員(分譲住戸購入者、マンション内居住)が立候補してくれたが、その立候補者のコメントはそれぞれ素晴らしく今後の理事会の運営を任せるに何の不安も感じなかった。

 しかし、当初6人が立候補したにも関わらず、3人が最終的に辞退した。その理由はよく分からなかったが、そのまま行けば2名が落選せざるを得なかった。もし、自分が立候補した場合、自分の事を何も知らない人たちの投票により落選する可能性があり、その場合、決して気分の良いものではないだろうと想像できた。もしかしたら、それが立候補辞退の理由だったかもしれない。

2)管理組合理事会の新役員

 それまで約半年の間の暫定管理組合の理事会の議論で感じた事は「建替組合では攻めの姿勢が重要であったが、管理組合では守りの姿勢が必要」と言う事。

 これまでの建替組合の理事会同様、色んな提案をしたが、自分の提案に対し、規約上問題ありとの反対意見が目立った。特に、1人の副理事長は常に規約書を手に理事会の議論に参加しており、管理規約に精通しているいる。確かに、自分の提案には規約遵守の考えが欠如しているのを自覚せざるを得ず、管理組合理事会の運営を指導するには、これまでの異なる姿勢が必要な事を認識した。

 また、マンションに行き、知っている人と話をすると住んでみないとわからない事が多いと感じた。やはり、管理組合理事長はマンションに居住し、マンションの良さも悪さもわかり、住民の不満を肌で感じる事ができる人でなければならないとの考えを強くした。2014年に理事長に推挙されたときも同様の意見はあった。しかし、当時の管理組合理事会の最重要課題はマンション再生、建替であり、それであれば、館外居住の自分でも十分役割を果たすことができると理事長を受けた事を思い出した。

 臨時総会の後、新役員と共に正副理事長の選任のための第一回理事会が開催された。上記考えより私は理事長には理事長経験者である立候補者(館内居住者)を推挙し、他の理事よりも賛同を受け新理事長が決定した。
 新理事長は港区にある大規模マンションの理事長を長期間務められ、地域で一番のマンションを目指し、資産価値向上のため様々な改革に取り組まれて来た実績がある。私より遥かに適任者だ。

 副理事長には他の20代の若い立候補者が推挙された。若いが、マンション管理に必要な資格を取得されている。もう1人の副理事長には暫定理事会の役員より選べばとの提案があり、管理規約に精通している暫定組合の副理事長を推挙し受け入れられた。彼は、自分の居住しているマンションでも大規模修繕委員等、管理組合活動の経験が豊富であり、適任であると確信している。このメンバーなら、新旧役員、立候補役員、輪番制役員を融合させ、新しい管理組合の伝統を作ってくれるだろうと確信が持てた。このマンションは本当に運に恵まれている。

 唯一、残念なのは監事の選任だった。立候補者がなく、どうすれば良いか悩み、理事立候補の辞退者に声をかける事を提案しようかと思ったが、その前に管理会社の担当者が輪番制により候補者を選び、承諾を取った後だった。監事候補者は臨時総会に参加せず、対面で話する事ができず、評価ができなかった。監事重視の方針を維持する事ができるかどうか不安が残る。我々が厚い信頼を寄せる、もう1人の監事(暫定管理組合=建替組合)より他の役員がその役割を学んでくれ、今年末に予定されている総会で的確な監事を選考してくれる事を期待しよう。

18. マンション竣工までの期間

 ブリリアタワー浜離宮の建替えに取組んだ経験から感じる深刻な問題の一つは建替マンション竣工までにかかる時間である。最初の動きは2006年に設立されたマンション再生委員会の活動である。事業協力者のN不動産より建替が提案されたが、その費用負担が大きすぎるとして総会にかかる事無く、プロジェクトは凍結された。しかし、2011年の東日本大震災を経験した居住者より耐震補強の要請が強まり、再度、マンション再生の動きが起こった。2014年にはT社(コンサル)より建替提案を受け、説明会を開催し、その後、総会に建替推進決議が上程された。しかし、残念ながら否決される。同時に私は管理組合理事長に任命され、建替成就のため再出発することになった。最初の動きから勘定すれば、実に18年の時間がかかった事になる。私が建替を主導してから10年かかることになる。その間に、人生を左右する出来事があった人も多かっただろう。

 2022年5月に長年イトーピア浜離宮管理組合の副理事長を務められ、建替組合の発足後は監事として事業に貢献して頂いたS氏が逝去された。前年より入院されていたが、検査入院で健康には問題ないと家族より連絡を受けていたが、入院が長期化し、心配していたところであった。膵臓がんであった事が家族より知らされた。

 その後、私と同時期に管理組合理事に就任され、建替推進委員会、建替組合と共に尽力いただいていたY理事も肺疾患の為、理事を辞任された。

 振り返れば、管理組合のH理事も建替組合には参加されず、連絡が取れなかったが、風の便りでお亡くなりになったと知った。

 A氏は2015年のマンション再生勉強会に参加いただき、以来、熱心に建替推進を応援して頂いた方であるが、残念ながら竣工を見てもらえなかった。建替決議の総会でお会いした時は元気そうな様子ではあったが、年を取られたと言う感じは否めなかった。建替決議が成立した事を喜んでもらえた事、また、権利を御子息に引き継いで頂け、何よりだった。

 F氏は2012年より最初の建替推進運動であるマンション再生委員会のリーダーであり、建替推進委員会にも役員として参加された。しかし直ぐに辞任された。その頃より体調に不安を持たれていたのだろう。その後、賃借人と立退問題で揉め、御子息がその対応をされていたが、問題が解決し、いよいよ建物の解体工事が始まると言う時期にお亡くなりになった。問題が解決した事で安心して頂けただろうか。

 居住者で建替に反対されていたが、最後は住戸選考で希望の住戸があたり、新居での生活を楽しみされていたUご夫妻。ご主人が入居前に病気になられリハビリに励んでおられると聞いて心配していたが、奥様が1人で引越しを1月に終えられた後、病状が急変し、お亡くなりになったと聞いた。3月の臨時総会で奥様にお悔やみを述べたが、未だ引越しの荷物も片付けれれていないと聞いた。私はこのご夫妻の余生を変えてしまったのかもしれない。心からご主人のご冥福を祈りたい。イトーピア浜離宮時代からの婦人会メンバーに婦人が支えられている様子が救いだった。建替は全ての人たちを幸せにはできなかったのかもしれない。

19. 最後に

 建替組合の解散にはまだまだ時間がかかりそうだが、組合としてやるべき事はほぼやり尽くしたとの思いより、筆を置くことにします。大変、長いブログになりましたが最後までお読みいただきありがとうございました。

 私は還元率100%以上を実現するために様々な努力をし、それを皆様にお伝えしてきました。なぜなら、経済的条件がこのマンションの建替においては重要課題だったからです。しかし、私が伝えたいことは高い還元率がなければ建替は実現しないと言うことではありません。私が本当に伝えたいメッセージは建替は事業協力者任せにせず、権利者自らが精力的に取り組み、自ら考え、工夫を凝らすことで、より良い条件での建替が実現できると言うことです。還元率はその結果です。

 例えば、老朽化して価値が下がり、10百万円の価値しか無くなったマンションに20百万円の建替費用を負担しても、完成後のマンションの資産価値が40百万円になるとすれば、還元率は非常に低くなりますが、経済的に建替の意義は十分以上にあります。

 また、私が建替の事例の勉強のために訪問したマンションの理事長の話では、建替の目的として経済条件ではなく、住民から愛される華麗なマンションにすることを重視されていました。完成したマンションは小規模にも関わらず、ロビーは豪華で、住民は出入りするたびに満足感を持つことが信じられました。また、屋上に庭園を造られ、そこからから見渡せる風景も素晴らしいものでした。

 このように建替には色々な目的があると思いますが、建替事業の成功のためには、権利者自らが主導権を持って事業を推進することの大切さを理解して頂ければこのブログを書き上げた甲斐があります。


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