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東日本大震災の長周期地震動による都内制振・免震タワマン被害の実例


1.制振タワマンの事例

東日本大震災で被害を受けたことで、施工不良などの結構ネガティブな記事が書かれたタワマンなので知ってる人がいるかもしれませんが、東日本大震災くらいの地震で首都圏の耐震・制振・免震タワマンでどれくらいの被害が発生するのか、イメージを掴むために取り上げます。

まず最初に断っておきますが、件の制振タワマンは首都圏の耐震・制振タワマンの平均的な耐震性能を上回る性能を持っており、個人的には耐震性能に関しては問題なく、震災の被害は施工不良とは思ってないことは断っておきます。

このタワマンはよく見られる鋼材系制振ダンパー(壁型と間柱型)が設置された制振タワマンです。
制振ダンパーの特性については、以下の記事で取り上げました。

このタワマンの東日本大震災の被害としてはコンクリートやタイルのひび割れや剥離などが多く見られ、主に中間層で被害が多かったようです。
一般的にタワマンは中間層で建物被害が多くなることは以下の記事で取り上げました。

詳細な被害状況は、マンションリフォーム技術協会の会報martaの記事で確認できますが、個人的にフォーカスしたい内容は以下の該当タワマンの構造設計者の見解です。

図:該当タワマンの構造設計者の見解(出典:マンションリフォーム技術協会の会報 marta22号

制振タワマン構造設計者の、かつ東日本大震災レベルの長周期地震動被害に対する実際の見解なので、貴重な情報だと思います。(情報を会報に乗せて公開して頂いた方々に感謝します。)
見解の内容としては以下の結論なっております。

・今回の地震はレベル1(震度5弱)を上回る地震動
・そのため、設計で想定していた程度の変形が発生し、構造体に軽微なひび割れや欠けが発生。
構造体の耐震性低下はなし
今回の地震程度では鋼材系制振ダンパーはまったく動いていないのでダンパーにも損傷はなし。

当時地震の応答スペクトルも見解に添付されており、地震動の強さはレベル1(震度5弱)地震動は確実に上回り、レベル2(震度6強)の半分くらい。
つまり、震度5強くらいの地震動となります。
地震動のレベルについては以下の記事で取り上げました。

上の記事にも乗せたJSCA性能メニューから、このタワマンの耐震性能グレードに震度5強を入力すると、以下の赤枠が設計想定被害となります。

図:例のタワマンの東日本大震災の設計想定被害(出典:JSCA性能設計【耐震性能編】

結果は軽微な被害(層間変形角は1/200~1/150の間)なので、構造設計者の見解とも一致し、耐震設計時の想定通りの結果となりました。

補修に必要な金額は1億8000万で、仕上がりの施工不手際もあったということで4800万円を売主が負担し、最終的には1億3000万くらいが管理組合負担となったようです。
1億3000万の中ではコンドラなどの架設工事が4500万らしいですが、タワマンは架設工事費用が高いことが分かります。

因みに外壁のタイルに関してはPC打込みタイルのため、震災後も浮きは見られなかったようですが、タワマンの外壁にタイルを使うと維持補修の扱いが難しくなるので、個人的には使わないでほしいとは思います。
martaの記事内容からもPC打込みタイル維持補修の難しいさが伝わります。

さて、このタワマンのような、鋼材系ダンパーの制振タワマンは震度5弱~5強くらいではダンパーが動かないので、当時の耐震と制振タワマンは同じくらいに被害が発生しました。
500戸以上の耐震と制振タワマンなら、1億円くらいでしょうか。
戸当たり負担にすると20万円なので、東日本大震災クラスに地震が発生して、補修費用として一時金が発生するとしたらこれくらいを見込んでおけばいいでしょう。
優秀な理事会がいる管理組合では、災害手当金として数千万~1億くらいを別途用意してるタワマンもあるので、確認してみてください。

2.免震タワマンの事例

500戸以上の免震タワマンで、2つの都内物件の東日本大震災時の被害を確認しましたが、1件は詳細な金額が分かりませんでしたが、もう1件の方は200万円くらいでした。
免震は免震上級も免震特級も、震度5強以下は無被害であることを性能目標としますが、例の免震タワマンの被害状況としては、建物内装表面の意匠的被害と免震クリアランスの外構部被害でした。

免震クリアランスの被害は東日本大震災でも話題になって、改修ガイドラインも発表されたので、免震の課題となるでしょう。

例えばある地震が来て、
・構造体に微かなひび割れが発生した耐震・制振タワマン
・構造体は無被害だけど、免震クリアランスが壊れてる免震タワマン
のタワマンがいれば、補修に苦労するのは前者ですが、
外からぱっと見た感じでは後者が地震に弱いと誤解を生む可能性があります。

因みに建物の低層が商業施設で、その上からは住宅の場合は中間免震がよく使用されますが、エレベーターの乗り換えなどのデメリットがあり、
基礎免震と比べてメリットがないと思ってましたが、
中間免震は免震クリアランスの被害が発生しないことと、免震層が浸水する可能性もないので、立地次第では中間免震の方がいいこともあるかも知れません。

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