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譲らぬ玉座、アタッキングフットボールの真の完成【横浜F・マリノス】

 昨年の王者、横浜F・マリノスが今年も強い。

 レギュレーションが1ステージ制に戻った2017年以降、鎬を削り合っているライバル・川崎フロンターレが苦しむ一方、横浜FMは特に中位・下位のクラブに対しては横綱相撲を見せ、リーグ2位に付けている。

 昨今のJリーグでは、チームが充実すればするほど海外移籍を決断する主力選手が増え、それによりスタイルの維持に苦心してしまう流れがよく見られる。
 そんな中、一進一退の戦いが常のJ1リーグで複数シーズンに渡って力を見せつけているのは、横浜F・マリノスが日本のメガクラブに近付いている証だといえる。

最終ラインの不安

 現セルティック監督のアンジェ・ポステコグルーが掲げ、現任のケヴィン・マスカットが引き継いだ近年の横浜Fマリノスの哲学は「ハイラインのアタッキングフットボール」。

 前線からのハイプレスに連動し最終ラインが相手陣地までラインを押し上げ、後方のスペースはゴールキーパーがケアをする。そうする事で相手チームとボールを相手陣地に完全に押し込みハーフコートゲームで蹂躙する。それが横浜Fマリノスのスタイルで、好調のマリノスを相手取ると自陣から脱出する事すらも簡単では無い。

 前線のプレッシング強度もさる事ながら、こういった戦術の根幹を成すのはセンターバックとゴールキーパー。
 押し込み続けた結果、両サイドバックが深い位置まで侵入するシーンが多発するためセンターバックとゴールキーパーの3人で広大なエリアをケアしなければいけない場面が起こりやすいし、ミドルエリアに前向きで勇気を持ってアタックするアグレッシブさも必要。更に、相手を押し込めば押し込むほど最終ラインのボールタッチ数は増加する為、ここで拙いボールロストが起こると即大ピンチに繋がるリスクも孕んでいる。

 2019年のリーグ優勝時、最後方を務めたのは若手CB・畠中槙之輔とDFリーダーのチアゴ・マルチンス、正守護神のパク・イルギュ。ディフェンス力、ビルドアップの安定感に優れ、現在の横浜F・マリノスの下地を完成させた守備者達だった。

 しかし、2020年10月に外国人枠との兼ね合いでパク・イルギュがサガン鳥栖へ、2021年シーズン終了後にチアゴ・マルチンスがニューヨーク・シティFCへ移籍。入れ替わるような形でGK高丘陽平、DF岩田智輝が加入しリーグトップレベルの大活躍を見せリーグ優勝するも、2022年終了後に両選手とも海外移籍。

 アーセナル、リヴァプール、マンチェスター・Uでさえも最終ラインの不安定さが敗北に直接繋がってしまうのが現代サッカーだ。畠中槙之輔
エドゥアルドは健在とはいえ、今季の横浜Fマリノスも例に漏れず、前年通りにはいかない厳しいシーズンを戦うことが予想された。

 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。新加入のGK一森純、プロ3年目のCB角田涼太朗が不安を吹き飛ばすハイパフォーマンスを見せている。


静かに躍動する苦労人キーパー

 一森純は関西学院大学から当時JFLのレノファ山口でキャリアをスタートし、31歳になる昨季、ガンバ大阪でJ1初出場を果たした苦労人。昨年は絶対的守護神・東口順昭の怪我で出番を得て、流れに乗れないクラブ状況の中ビッグセーブを連発し気を吐いた。東口の復帰と谷晃生の加入でベンチに後戻りしてしまうのが濃厚な2023シーズンだったが、高丘陽平の後釜としてチャンピオンチームから白羽の矢が立った。

 開幕前のスーパーカップ、開幕戦はオビ・パウエル・オビンナにポジションを譲るも、第3節からスタメンに定着。182cmと高さは無いが、鋭い飛び出しや堅実なセービング、正確な長短のフィード能力がマリノスのスタイルに完全にマッチした。
 ゴールキーパーとして派手さは無いものの、プロ入りから9年間磨いてきた武器が遂に花開いた。

ギフトを与った現代的センターバック

 角田涼太朗は前橋育英高校で全国制覇した後、筑波大学に進学。大学3年時には特別強化指定されプロキャリアをスタート。翌年の2021年7月には半年間の前倒しでプロ契約を結んだ。
 2022年には12試合先発出場するが岩田智輝、エドゥアルドの牙城は崩せずターンオーバー要員のような形でシーズンを終えた。
 そして、迎えた2023年。見事、ケヴィン・マスカット監督の信頼を得て開幕スタメンを掴みとった。

 角田涼太朗の特徴は積極的なボールの持ち運びと、縦パスの差し込み。守備面においては鋭い出足で相手のチャンスを潰す前向きのディフェンスも高レベル。最終ラインから押し込むアタッキングフットボールを掲げる横浜Fマリノスのディフェンダーにはどちらも必要不可欠な能力だ。
 それに加え、裏のスペースへの対応や空中戦の強さもグングンと向上中で、守れてゲームも作れる現代型のセンターバックに成長し、3月シリーズの日本代表にも選出された。
 角田にはもう1つの武器がある。それは左利きである事。高水準の左利きセンターバックは世界的に見ても希少で、角田に与えられた最大のギフトはこの左足だ。


 この2人の活躍は、本人の能力はもちろんの事クラブの力による部分も大きい。他クラブの控えゴールキーパーからチームのスタイルに合う選手を的確に見出して獲得し、大学在学中の原石を早い段階から実戦に投じ成長させた。
 先述した通り攻撃的なフットボールの根幹は最終ラインであり、このポジションに移籍や負傷が起こると土台から崩れやすい。スタイル・哲学を貫き、そこにフィットする選手を正確に準備できる体制が今の横浜Fマリノスには存在する。

 ピッチ内のみならず、クラブの総力を挙げたアタッキングフットボールの真の完成は近付いている。

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