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右サイドの萬屋(よろずや)【セレッソ大阪】

 6月10日(土)ヨドコウ桜スタジアムにて首位ヴィッセル神戸が6試合振りの敗戦を喫し首位から陥落した。

 勝者はセレッソ大阪。強度の高い空中戦とトランジションの速さが際立った緊迫感で張り詰めたゲームは、最後の最後にほんの少しだけ綻び、ヴィッセル神戸GK前川のミスを見逃さなかったセレッソの宝・18歳北野颯太のJ1初ゴールという形で幕を閉じた。

Jリーグ最高強度の戦い

 この試合は終始トランジションが速く、球際の強度が高く、テレビ画面を通してもピッチ上の張り詰めた空気を感じられるゲームだった。
 
 神戸は最終ラインから対角へのサイドチェンジ、または大迫・武藤の空中戦を信頼したロングボールを多用。C大阪の最終ラインが粘り強く対応するも、井出・山口・斉藤の3センターが鋭いミドルプレスでカウンターの芽を摘みながら攻撃に転じていく。
 一方のC大阪は、香川・喜田のダブルボランチから両ワイドにボールを配給しクルークス、カピシャーバで優位性を創り、時には香川や奥埜がライン間でボールを受けて相手陣内に侵入する。

 展開の早いゲームの中で両軍チャンスを作り出すも、最終ライン・ゴールキーパーの集中力も究極まで高まっており、決定的な場面を迎えることは出来ないでいた。事実、この試合で生まれた3得点は、そんな中でほんの僅か空気が緩んだ瞬間に生まれたものだった。

 C大阪の先制点はスローインからシンプルにクロスを入れた場面。神戸の同点弾はその1分後キッフオフ直後に相手最終ラインの乱れを突いた場面。そして、93分の劇的な逆転ゴールはゴールキーパーのフィードがワンバウンドし、危うい位置でGK前川がプレーに関わったのが原因だった。

 そんなシリアスなピッチ状況の中、僕の目からは飄々と簡単そうに多様なタスクをこなす選手がいた。
 セレッソ大阪の右サイドバック・毎熊晟矢だ。

右サイドのよろず屋

 毎熊晟矢は現在25歳。東福岡高校から桃山学院大学に進学し、2020年にJ2のV・ファーレン長崎でデビュー。初年度の2020年から32試合スタメン出場、2021年には38試合スタメン出場3ゴール10アシストの数字を残し、J2ナンバー1右サイドバックとして2022年にセレッソ大阪に加入した。
 長年右サイドバックに君臨していた松田陸とのポジション争いが予想されたが、小菊昭雄監督は毎熊を右ウイングで起用。1列前での起用によりその攻撃性能が発揮され2022年5月にはJ1月間MVPに選出された。

 今季は松田陸、クルークスらと併用されながら右サイドバック、右ウイングどちらでも起用され、高いパフォーマンスを披露。毎熊の最大の特徴は内外両方のレーンや、ファイナルサードでも高レベルなプレーを見せられる所だ。

 この試合でコンビを組んだクルークスはカットインからの左足を特徴とする選手。クルークスの左足を最大限活かせるポジションを的確に見つけプレーし、惜しみなくサポートを繰り返した。
 そして時には、エリア内まで走り抜け自らもゴールゲッターとして得点を狙う。後半、舩木の浮き球に飛び出したシーンは毎熊のラインブレイク能力が表れていた。
 ポゼッション時には内に絞りライン間でボールを受け、ダイレクトでのレイオフ、ターンしてボールを前進させるなど、オンザボールでの技術も相当なものだ。
 決して大きくはない体でその全てをしなやかに、サラリと実行する余裕すら感じる。

 強度の高いディフェンスと、強烈な個性を持つ外国籍選手・元日本代表選手を誇るセレッソ大阪。それらをバランス良く繋いでいるのはJ1リーグ2年目のサイドバックだ。

 確かな技術と戦術観はよろずに通ずる。毎熊晟矢は現代型サイドバックとしてのアップデートを止めることはない。

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