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切られた薔薇

向かいの家につまらない建物が建った。古くて、今にも崩れそうな良い家が前はあった。薔薇が一つだけ咲いていた。それもなくなった。

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青春がずっと終わらない気がして怖くなった。新しい体験も、強い刺激も、誰とも理解しあえないもどかしい気持ちも、ただ心が疲れるだけだし。疲れているのに興奮しているから、ゆっくり眠ることもなかなか出来ない。青春なんてさっさと終えてしまいたい。

いつまでも知らないことがあって、いつまでも見ることの出来ない景色があって、いつまでも体験出来ないことがあって、いつまでも初めてのような感覚が私から離れない。大人になっているのにどうして?彼や彼女たちより長く生きているのに、どうして分からないことばかり?私はいつも誰よりも劣っているようで、誰よりも遅くて、嫌になりそう。

誰も私を責めないし、むしろいつもそばにいて励ましてくれるし、必要なときは助けてくれるし、私は毎日楽しく生きていて、本当はこれ以上何もいらないのに、私はいつも何かを欲しがっては泣いている。泣いているのは、その何かが分からないことでもあるし、何かが分かってるからでもある。

向かいの家の赤い薔薇が切られた。なんの変哲もないつまらない、ただの箱みたいな建物が建った。学校みたい。教室の窓から見えた青空に浮かぶ素早い雲の動きにいつも目が離せなかった。それに見惚れているだけで怒られていた学生時代が恋しく思った。

放っとかれながら構われていて、とても恋しくなった。思い出したら目と顔が赤くなった。涙が自然と溢れて、シワが多くなった肌を潤わせた。あのとき、薔薇には水滴があった。

私の意思ではない何かによって早く終わらせてしまいたい。

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