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小さな思い出のかけら

日比谷のミッドタウンで両親と映画を観に行く約束をした。私は山手線で新宿駅から有楽町駅に向かっている途中、電車が止まり、あと二駅というところで立ち往生。向かいの電車は、東京駅行きだった。もう映画のチケットは購入済み、焦る。ここから歩くより、東京駅から歩いた方が早く着くのでは?「ええい」と私が向かいの電車に乗り込むと同時に、電車は発車した。迷ってるなら行っちまえ、が信条だ。東京駅に着き、南口からミッドタウンに向かって歩く。信号待ちの時に、「ちょっと遅れるかも」と、両親にメールする。

母から「ゆっくり気をつけて来て下さい。」と返事が来た。そうだな、ちょっとくらい遅れてもいいか、最初は予告しか流れないし。母の一言でホッとする。

思えば母はいつも私が焦って身動きが取れない時に、「別にいいじゃん」とか、「関係ないよ」とか、そういう一言をくれる。「そっか、そうだよね」と心に安心が広がって、誰のものでもない、いつもの自分を取り戻す。

映画館に向かってる途中、遠くから山手線が運転再開するのを確認した。ああ、乗ってた方が速かったかな、と思ったけれど、遠くから見たあの電車が山手線だったのか、ハッキリとは分からなかった。

あの時、こうしてれば良かった、と思うことがこれまで沢山あった。けれど私は結局、映画にも間に合って両親と笑いながら一緒に観て、感想も言い合えて、別にその電車が遅れたこととか、どっちを選べば早く着いたとか、どうでもよくなって、その辺りのことは小さな思い出のかけらになっていく。

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