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ドライアイ

家に一人でこもっていると、情報がたくさん入ってきて、私はそれを一つ一つ精査して考え、出るはずのない答えを出そうとしていた。考えているうちに思い出して涙が出て、その10秒後には笑い出して、壊れたオモチャのようで我ながら不気味だった。もう何も考えたくない、いや、考えられなくなってきた。脳細胞が一つずつ潰れていくような、もしくは繋がって一つの大きな粒子になっていくような、そんな感じがしてきて、私は部屋から飛び出して、雲ひとつない空の下をただ歩いていた。街はとても賑わっていた。アジア料理屋、お香の店などがある。シーシャのお店はロッテブルーベリーガムの香いがする。子供の頃、車で遠出する前にコンビニで必ず買っていたっけ。スロットのお店が閉店するみたい。いまどきの若者が3人、店の前でたむろしていた。お店の中は寂しそうなスロットがロボット製造工場のように沢山整列していた。しばらく歩いて、よく行く洋品店でピアスを買う。袋はいらないです、と言って買って店の鏡の前ですぐつけた。私にすごく似合っていた。外に出たら暗くなっていて、大きい月が出ていた、驚くほど大きな月。メンズの洋品店は感じが良さそうだと思って入ろうとしたが、かなり顔が好みの店員さんが洋服を整とんしていて、緊張して入れなかった。ナンパでもすれば良かった。そうは言うけれど絶対に出来ない。と、言いつつ実は大学の頃、本屋さんで見かけた人に声をかけたことがある。すぐ撃沈して終わった。だからやらない、と言うのが私の本音。通りがかりのスモーキングエリアで目が染みてポロポロ泣いた。いつもは泣かないのに。寒くなって新しいシャツを買った。また袋はいらないと言った。本屋さんで堀江敏幸さんの「雪沼とその周辺」を買った。欲しかったので嬉しい。カバンには向田邦子と森茉莉が入ってる。疲れて、テキトーなカフェに入って突っ伏した。なんだか涙を出したいのに出ない。疲れてるのにマグロマートには行きたいし、可愛いあの子にも会いたい。でも本当に疲れた。誰かの意見も私の意見も全部合ってるし全部間違ってるんだから、なんでもいいような気がしてきた。疲れた。疲れた、はNGワードなのここまでで三回も使ってしまった。文章の反復には強調の意味がある。

少し突っ伏して顔を上げ、窓の外を見たら視界がクリアになった。ドライアイだっただけみたい。マグロマートで最期の最後まで飲んだ。美味い酒。日曜の夜はやっぱりすき。

#iphone8 #ドライアイ #エッセイ #東京

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