ボイストレーニングは個性を殺すか②そんなことはないが警戒もしよう

 前回の続きです。「個性」の定義は考察済みです。

 実は、以前先走って結論部分だけはツイしていたのでした。いわおさん(前垢)から許可もらったので引用すると【完璧なメソッドでの指導が(もし)できたら個性がなくなるのも事実】のQTからです。

 前回で宿題とした、私の過去の発言。

仮に今の歌手に個性がないとして、それは本人の元からの声と、最終的に本人が選択した歌い方の結果にすぎない。レッスンを受けたり練習すればわかることだが、自分の意に反して歌声が変わっていってしまうなんてことはない。プロやプロ志向がボイトレするのは発声技術の向上による歌唱力の底上げと、表現の幅を広げるためだろう。ボイトレは道具にすぎず、それをどう使うかは本人次第。仮に今の歌手の使い方がまずいとして、それを含めて本人のセンスや才能ということになる。

 重要なのは「自分の意に反して変わってしまう」ということが、たしかに一定数存在するということ。未経験者が「ボイトレ習ってみたいけど怖い」と思うのはこれが大きいのでは。
 これ、初心者の場合はわりとよく起こります。まず一時的に採点スコアが下がることは覚悟してください。

 セカンドオピニオン的発想はどんな段階でも大事とは思いますが、「変化=悪or個性がなくなる」としてしまうとトレーニングの意味がなくなります。ボイストレーナーがやる「悪い例」はわざとらしく、本当の素人の声ではありません。そこはたしかに変わっていきます。ある程度の経験者でも一時的に裏返りやすいとか、弱い声になることはあります。もし不安になったらトレーナーに質問しましょう。その回答力で力量がわかるというものです。これも繰り返し述べていますが、個人・スクール含めてボイストレーナーは本当にピンキリです。
 ボイトレに限らず、トレーニングというものは長所を伸ばすよりも短所を補うことに重きをおくもの。特に発声はバランスが重要なのでその傾向で、短所を補うことで結果的に長所が伸びる。また、音源だけ聴くと大して変わってなくても、安定性など見えないところで進化する部分もあります。音源という成果物を焦らないことも重要ですね。

 では、中級者以上の深刻なパターン。再びいわおさんのツイ【個性がなくなるほど実直にひとつのことに突き進み続ける人の方が一握りだと思う】に同意です。

 私もこの活動をしてからいろんな人の話を聞くことができましたが、特定メソッドにのめり込んで、副作用的に調子を崩してしまう人はたしかにいます。独学だけの人はやり方が悪かったで済ませられますが、トレーナーについていてもそうなる人がいます。メソッド自体に欠陥があるor合わないのに真面目に練習をやりすぎてしまった人、ですね。私のような怠惰な人間はまずこうならない自信がありますがw、これは性格によります。
 人には喉のタイプがそれぞれあり相性もありますので、半年1年がんばってよくなるどころか悪化している状態ならちょっと立ち止まって考えましょう。同じトレーナーについて同じようなことをやって、誰々は伸びたが私はダメだったみたいなことが起きます。…怖いですね。面倒くさいですね。こちらは現象としては個性を失うというよりは調子を崩しているだけなので、また別のトレーニングで元に戻れるはずです。この時こそ、セカンドオピニオンを。
 どのボイトレメソッドもトレーナー含め弟子の声はベクトルが同じというか、似ているところはあります。師の影響を受け「かぶれていく」部分はあるかと思いますが、習っている間は別にそれでもいいと思います。普通は卒業していくのですから。

 話を戻すと、ボイトレには他者に身を委ねるフェーズと自分で考えるフェーズがあるということです。両方をうまく使っていきましょう。

「ドラゴン桜」の教えはボイトレにおいても当てはまります。自分の声を、トレーニングやメンテナンス含め最適化していくことがボイトレ道です。決して一人の先生、一つのスクール・流派を妄信することではありません。あまり理解されませんが、哲学的に「すべてを疑う」姿勢が大事です。科学的を謳っていても「エビデンス?ねーよそんなもん」ほどひどくはなくても、まだまだ弱いのがボイトレの世界なのですから。
 そして「個性」という観点からは、大切なのはその先。自分の声という素材を強化し表現の幅を広げた上で、最終的に自分の歌い方を自分で決める(あるいはジャンルによって数パターン用意する)。特定メソッドの信者のようになっている人はその程度のメンタルでしかなく、最初からアーティストにはなれない人です。個性とボイトレは分離して考えないといけません。

 まとめ。「ボイトレは個性を殺す」――に対しては「はい論破!」ということでw ボイトレは習う側にスキルが要求されてたしかに面倒だが、どうか怖がらずに。と、一般社会には訴えていきたいです。