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のがれますか

相手の言っていることが、すぐに理解できないことってあるよね、
あるある。

「吉野屋の牛丼が380円… あれ好評だったよ…」

3週間ぶりに会った知り合いが、嬉しそうに切り出した。

「えっ???」

こっちは、なんのこっちゃわからない。

「ほら、牛丼の380円と、ライブのチケットの…」

まだ、わからないので、「なんのトピック? いつの話?」

相手は、最初の笑顔から少し真顔になって、ゆっくり話し始めた。
だが、問題は、話すスピードではない。

まず、何の話題なのか、テーマを言ってもらえると助かる。

知り合いは新聞記者なのだが、私が話した、とあるネタを記事に盛り込んだところ好評だったので、それを伝えたかったらしい。

こういった伝わらないケースの原因、ほとんどは「主語が欠けている」ことにある。

よく知っていることがだから、当たり前と思って話していても、相手は思い出すのに、時間が要る。自分の回りにいる人、仕事でも、プライベートでも「主語無し」で話し始める人が散見する。


これは、自分自身にも当てはまることだろうから自戒を込めて思う。

人は、一度知ってしまうと、知らなかった時には戻れない。

相手も知っているだろうという気持ちで話し始めても伝わらない。


先日、ある勉強会でスピーカーを務めた時、こんな実験をやってみた。

参加者の中から、被験者を二人選ぶ。「叩き手」と「聴き手」。叩き役は、ピアノ経験のある人にした。

叩き手に、「Happy birthday to you」や「アンパンマン」など、誰もが知っている歌が20曲書いてあるリストから一曲任意で選んで、指でテーブルをコツコツと叩いてリズムを刻んでもらう。聴き手は、そのリズムから曲名を当てる。実は、簡単そうで、案外難しい。


かつてスタンフォード大学で行われた実験では、叩き手が刻んだ120曲のリズムのうち、当てられたのは、わずか3曲。正解率2.5%だった。

その際、聴き手が曲名を答える前に、叩き手に「正答率」を予想させたところ、叩き手が予想した正答率は50%だった。

つまり、実際、叩き手は、2回に1回は正しく伝わると思っていたにも関わらず、正しく伝えられたのは40回に1回だった。


自分がスピーカーを務めた勉強会での実験では、最初の叩き手のリズムが良かったのか、もしくは聴き手が賢かったのか、一発で当ててしまい、この実験そのものの意味が伝わりにくくなってしまった…

それはともかく、そのあと別の聴き手で同様にやってみたら、全く当たらなかった。

叩き手は、リズムを刻む時、頭の中でその曲をきいている。しかし、聴き手にはメロディは聞こえていない。聞こえるのは、モールス信号のような不明なリズムだけだ。

叩き手は、「どうしてわからないの?あれだよアレ!知っているでしょ!」と、少々イラっと、きていたかもしれない。

ここでポイントは、叩き手には「知識(曲名)」が与えられているため、その知識がない状態を想像できなことだ。

メロディがわからず、コツコツというリズムだけ聞かされている「聴き手」の気持ちが理解できない。知ってしまうと、知らなかった状態に戻れないということだ。

これを「知の呪縛」という。


普段の会話でも、こっちはよく知っていることだから、そのつもりで話しても相手はちんぷんかんぷんだ。こんな状況は、日常茶飯事。

言っていることがよく理解できないとき、話を遮るのは失礼だと思っていたが最近は、わからないまま聞く方が失礼だと思い、話の途中でも、理解できていないことを伝えるようにしている。相手はイラっとするかもしれないのは承知だが、適当に答えてあとで“言った”“言わない”になるよりマシだろう。


「知の呪縛」問題は、あらゆるところに転がっている。音楽のライブでの「アレンジ問題」もそうだと思う。

去年、ずっと好きだった外国人グループのコンサートに行ったとき、人気の曲が、アレンジされて演奏された。

ちょっと、ちょっと!オリジナルでいいんだよ!アレンジ不要だよ!

演奏している方は、きっとよかれと思ってやっているのだろう。「日本のみなさんに、ライブでしか聴けないアレンジバージョンをお届けします」なのかもしれない。

しかしだ。会場の一部には、がっかり感が漂っていたと思う。

「オリジナルを生で聴きたいんだよ!」

ある日本人アーティストが言っていたのだが、このアレンジ問題は、頭でわかっていても「いつもと違うことをやってみたい」という衝動から、「客の気持ちを考えず自分たちの都合でやってしまう深刻なものだ」と。

よくあるのが、アコースティックバージョンだ。個人的には、がっかり感MAXだ。オリジナルは、あとでアンコールのときにやるのかと思って期待していたら、やならいじゃん。モヤモヤだけが残った。

あと、かつてのアイドルが、往年のヒットソングを歌う時に、やりがちなのが「ボサノババージョン」だ。 ♪ポコポコ とパーカッションが鳴り出したらやばい合図だ。

どうやら、ボサノバはアレンジしやすいらしい。ボサノバは、ボサノバの歌があるから、そっちに任せておけばいい。ポルトガル語の歌詞だからハマるんだと思う。

往年の人気歌手のみなさん。ヒットソングは、オリジナルでお願いします。歌の途中で、妙なタメを入れたり、フレーズにアクセントをつけたり、語尾を無駄に伸ばしたりとか、アレンジはご遠慮ください。知の呪縛からの解放をお祈りいたします。

沖縄出身のお笑い芸人さんが命名してくれたペンネーム/テレビ番組の企画構成5000本以上/日本脚本家連盟所属/あなたの経験・知見がパワーの源です