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『空をゆく巨人』(勝手に)プレゼントキャンペーンで届いた感想文を、ここに張り付ける。3人目。

開高健ノンフィクション作品を受賞したワイフ、川内有緒の著書『空をゆく巨人』の刊行記念として、サイン本を無料でプレゼントするから感想文を送ってほしいという個人的なキャンペーンを開催した。

応募があった4人のなかで、掲載の許可を得ている3人の感想文を僕のnoteに掲載します。3人目はFumieさん!

誰もが今日の事で精一杯、今のこの時の事しか考えられない。そんな時「桜を植えよう」と、希望と夢を持った人が居たなんて。

その日はいつもと変わらない日でした。金曜日の夕方近くの訓練は、多少の疲労感と明日からの休日への期待感と共に、いつも通り進んでいました。

平成23年3月11日 午後14時46分 

画面に映し出されたのは、多くの仲間達が勤務する松島基地周辺の光景でした。その4分後、午後14時50分、防衛省は災害対策本部を立ち上げ、災統合任務部隊を編成、陸海空自衛隊統合の災害派遣活動が始まりました。

当時私は、東北から遠く離れた福岡県の飛行隊で勤務していました。津波被害を未然に防ぐため、更に南の宮崎県の基地へ所有機全機の避難命令が下り、我が隊所属すべての航空機が次々と離陸していく様は、まさにフラッシュスクランブル、戦争の始まりのような光景でした。

組織としてやるべきこと、個人として出来ること、当然、通常の訓練、実任務は清々と粛々と行うこと。壊滅した松島基地の基地能力を各基地に分散し最速で被害復旧を行い、1日も早く正常な基地能力を取り戻させる事。大切な人を失った隊員及び家族に対し、心のケアを行う事。

本当の意味での組織力が試された時でした。自分自身当時の記憶は曖昧で、被災地のみならず日本全体が疲弊していました。延べ10万の隊員を動員した災害派遣活動は、その年の暮れまで続きました。

その頃志賀さんは、桜を植えようとしていました。被災者である志賀さんが、あの状況下でずっともっと先を見ていました。
今がすべてじゃない、今はずっと続かない。
ずっとずっと、うんと先の未来に向けて、桜を植えようと考えました。

桜でお腹は一杯にならないし、桜は避難所のトイレの掃除もしてくれません。誰もが今日の事で精一杯、今のこの時の事しか考えられない。そんな時「桜を植えよう」と、希望と夢を持った人が居たなんて。

人は故郷を想わずにいられないのだと思います。
小さな小さなマッチ箱から始まった、蔡さんの希望と夢。
その国の火薬、その国の気候、その国の人々。
その国のその日その時の、偶然とも思える無数のファクターから生まれる蔡さんの作品は、何1つ欠けてもそうはならなかった作品だと思います。

その日その時その人が関わらなければ、そうはならなかったかもしれない。
蔡さんの想いと人々の想いが合わさって造り出される作品。

人こそがアートなのだと思います。
希望は人だと思います。
人が希望であり、夢であるのだと思います。
人が希望や夢を想う、希望や夢が人を造る。

アートや文化が希望であり夢であるのなら、人がアート、人が文化。
人を愛する想いが、アートであり文化なのだと思います。万本桜も美術館も、今までもこれからも関わるすべての人達の想いで出来ていく。やはり、人々の想いそのものが、アートであり文化なのです。

蔡さんが原点に戻り描いた大輪の桜、志賀さんが造りだそうとしている万本桜。2人は信じているのだと思います。人間の力、人々の想いを。それこそが、希望であり夢であると、信じているのだと思います。蔡さんと志賀さん、人を愛するお二人こそが巨人、空をゆく巨人なのだと思います。

『空をゆく巨人』川内有緒


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