似顔絵_タラバミント_2_4

日報 2月10日 カレーには勝てない

記入者:タラバミント


日報という性質上、ここにはタイトルをつけていなかった。
けど今日は思いが強すぎて、つい、つけてしまった。
社員のみなさん、僕に習わなくっていいからね。



僕は喫茶店という場所が好きだ。

空いている席に座って、
どこでもない宙を仰いで、
先客の話し声や新聞のこすれる音を耳にしながら、
「ブレンドください」なんて言う。
注文を終えると、ようやく、
ぼそぼそと流れるラジオの音が聞こえてくる。

特別何かしたわけでもないのに、
僕はそれだけで、何かを得た気分になっている。

僕にとって喫茶店は、
「何もしないことで何かを得られる場所」だ。

そんなアジール的存在の行きつけが一つあるだけで、
人は結構幸せなんじゃないかと思う。



そんな喫茶店にて僕が唯一悩むのが、軽食の時間だ。

珈琲一杯なら注文は楽なものだ。
しかしここへ、軽食をつけようものなら話は変わる。

喫茶店の軽食は、どれもこれも魅力的なのだ。

ミートソース、ナポリタンなどのスパゲティー部門。
バター、チーズ、シナモン各種のトースト部門。
サンドイッチにホットドッグ。
ハンバーグ定食にポークジンジャー定食。

これは生き地獄だ。
こんなに贅沢な選択肢を前に、
たった一つを決めるなんて、僕にはできない……!!



自己との激闘を静かに繰り広げているそのうちに、
そろり、そろりと、“奴”がやってくる。

“奴”は、僕が気がつき防御する間も与えず、
僕の空腹時の急所めがけて、光の速度で猛進してくる。

“奴”の攻撃には実態がない。
防ぎたくとも、防ぎようがないのだ。



「うぅ……苦しい、耐え難い。
 いっそ、この苦しみに身を任せてしまおうか……」

「何を弱気なことを!貴様には意地というものがないのか!」

「さっきまで悩み待たされていた軽食たちはどうなる?」

「ここは無法地帯だぜ〜?好きにしなよ〜」

体中に住む小さなタラバミントたちが暴れだし、
僕の心拍は一気に上昇。冷や汗がたらり。

そして、たまらず、決断をくだす。



「すいません、カレーライスをください」

見事、鮮やかな完敗である。

カレーのにおいは天下無敵。
空腹時の胃袋への命中率は、120%ものだろう。



仮にナポリタンを注文できたとしよう。
無事に席まで運ばれてきて、
麺をちゅるちゅるすすえたとしよう。

しかし、隣の席の客の元へ、
カレーライスが運ばれてきたらどうだ。

ナポリタンからの平手打ちを覚悟の上、僕は堂々と、
「カレーもよかったなぁ」と小さく後悔するはずだ。



僕は一生、こんな風に喫茶店で悩み苦しみ、
それをこの上ない喜びだと思うだろう。

特別何かしたわけでもないのに、
僕はその時間を過ごしただけで、
何かを得た気分になれるんだからね。



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