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私は犬なのだそうです。

私は犬なのだそうです。

私は自分が犬なのだという事を、この家に来て、猫という種類の子たちやフェレットという種類の子に教えて貰いました。

それまで私は、私が何者なのか、全くわかりませんでしたし、考えもしませんでした。

物心ついた頃の私は、狭くて暗いお部屋に兄弟姉妹達と一緒に閉じ込められていました。

他の兄弟姉妹達はいつの間にか次々とどこかへ行ってしまいましたが、何故か私だけ、暗いお部屋にポツンと残されました。

すごく寂しかったし、怖かった。

だって、大きな怒鳴り声が聞こえて来たり、叩かれたり蹴られたりしている犬もいましたから。

普通、犬という動物は、楽しく遊ぶそうですね。

例えば先代のルナさんは、ボールだとかおもちゃを投げるととても喜んで追いかけていたそうです。

私にはその意味が全くわかりません。

ボールを投げられても追いかける、という反応はしませんし、興味もないのです。

これまで、7年間、誰かと遊んだ事がないから、遊ぶ、という概念が私にはないのです。

例えば犬は、あなたに敵意はないですよという時や、甘えたり、ごめんなさい、降参、という気持ちの時、お腹を見せるらしいのですが、それも私にはわかりません。

マウンティング?もしたことがないし、お散歩なんて恐怖以外の何ものでもないのです。
ジャンプもできず、階段の昇り降りもできません。経験がありませんから。

そう、私は7年間、ずっと暗いお部屋の中にいました。
その間、遊ぶ事も、甘える事も、誰かと深く関わる事も、散歩の経験もなく、自分が何者かもわからず、怖い人間に怒鳴られたり叩かれたりしていました。

ある日、私と姿の似た子が私のお部屋にやって来ました。

凄く嫌だったし警戒しましたが、どうやら人間の目的は、「繁殖」だという事がわかりました。

何故なら私は何度も何度も妊娠、出産しました。

無事出産して、可愛い赤ちゃん達にお乳を飲ませている時は、とてもとても幸せでした。

だけど人間はすぐ、私の可愛い赤ちゃん達を無理矢理奪って行きます。

私は何度も何度も妊娠、出産し、そして人間は私の可愛い赤ちゃん達を「商品」にする為奪って行くのです。
ホワイトシュナウザーという種類の犬は、商品価値が高いそうですね。

赤ちゃんを奪われる時には赤ちゃん達を守るために必死に抵抗し、吠えました。

すると人間は私を怒鳴り、殴ります。

私は沈黙して、人間に従う他ありませんでした。

次第に私の心は悲しみのあまり凍りつき、

無表情になり、

犬、という本能も忘れてしまったのだと思います。

気づけば7歳になり、何度も妊娠出産を繰り返した為、歯は抜けてボロボロに、乳首は赤ちゃんに吸われすぎて腫れ上がり、身体も疲れて怠くなり、もうこれ以上出産は難しくなると、私は暗い部屋から突然解放されました。

次はどこへ連れて行かれるのだろう?殺されるのかな、と、思いました。
とても怖かったけど、諦めてもいました。

そうしたら、これまで見たことのない子たちが、私を見て、とても嬉しそうに優しく迎えてくれました。

外猫時代が長く経験豊富な黒猫のナイトさん、気品に満ちた美しい白猫のビアンカ姫、やんちゃで自由な黒猫のゾロ君、そして小さく可愛いフェレットのミミちゃん。

「わあ!ルナさんが白くなって帰って来たみたい!」

と言って、皆喜んで近づいて来ました。

私は最初、怖くて後ずさりしました。

「新しい犬が来るなんて。お名前は?」

と、ナイトさんが最初にやって来ました。

「名前?名前はレナ。犬?犬って何?」と、ナイトさんに尋ねると

「レナ!よろしくね、って、あのね、あなたの種類は犬よ。わからないの? ほら、あなたをずっと抱っこしてきたあの女の人、あれは人間。マリアさんよ。これからあなたの事もあの人が色々お世話してくれるわ。私は猫。猫のナイト。ヨーロッパのベルギーって国のブリュッセルの森に住んでいた頃、マリアさんの家の裏庭で保護されたの。あなたもきっと、保護されてここに来たのよね。この家の子達は皆、今は天国のルナさんや黒猫ネロさんの時代から、色々事情があって保護された子達ばかりなのよ。(笑)」

・・・そうか、そうなんだ、私は「犬」という種類なんだ。今まで考えもしなかった。
私が知っているのは辛そうな犬達と、怖い人間。
だけど、この家の人たちは、私に怒鳴ったり殴ったり蹴ったりしない。

「あなた、さっきからずっと下ばかり向いて暗いわよ。何だか辛い事情がおありのようね。でも安心して、あなたが怖がるような事はここでは何もされないわ。このわたくしを信じて✨」

と、大きな美しい瞳で私を心配そうに見つめながら白猫のビアンカ姫が言いました。

「・・・私・・・ ずっとここにいていいの?」

と、尋ねると

「勿論さ!俺たちはずっと、ここにいるのさ。よろしくな!」

と、黒猫のゾロ君。

「私、一番小さくて、フェレットって種類だから普段寝てばかりいるけど、先代のルナさんには楽しく遊んで貰ったわ。だから私、犬大好き♪ よろしくね♪」

と、小さくて可愛いミミちゃん。

「ごめんなさい、私、犬だという事、この家に来て初めて知ったの。これまでずっと一人でケージの中にいたから、犬の遊び方も全然知らないの。ルナさんみたいに遊んであげられないけど、仲良くしてね。」

と、言うと、ナイトさんがそんな私に

「何か、酷いね。自分が何者かもわからずに7年間も閉じ込められて沢山赤ちゃん産まされて、虐待されてたなんて、信じられない。私が生まれた国、ベルギーには日本のようなペットショップなんてなかったわ。犬や猫は、ちゃんと資格のあるブリーダーからか、保護されているシェルターでの譲渡が一般なんだけどね、まあ、ベルギー人は日本人と違って夏にバカンスを2ヶ月以上取るから、中にはバカンス捨て、なんて無責任な事する酷い人間もいるみたいで。私のような野良が増えちゃうわけよ😩。バカンスにね、世話できなくなって簡単に捨てちゃうの。酷いでしょ?だったら最初から家族にするなっつーの!」

と、話してくれました。

皆と話しているとマリアさんが

「レナ、こっちにおいで。」

と、私を優しく呼びました。

「ほら、行っておいでよ!」

と、ナイトさんに言われて恐る恐る行ってみると、私を優しく抱っこしてくれました。

温かくて安心する。抱っこって、こんなに気持ちがいいのね。

私はそれからすっかり、マリアさんに抱っこされるのが大好きになってしまって、抱っこをせがむようになりました。マリアさんは、私が沢山甘えて、抱っこをせがんでも、絶対怒らないで、どんなに忙しくても優しく抱き上げてくれます。

遊ぶ事も知らない、座れ、も、待て、もできない、散歩は怖い、自分が犬だという事すら知らなかったけど、甘える事はすぐに覚えました。

犬って主従関係が大事らしくて、先代のルナさんはマリアさんの旦那様の言う事を一番きいて、一番懐いていたらしいけど、私はマリアさんが一番好き。主従関係じゃなくて、この人なら大丈夫、って、生まれて初めて信頼関係ができたから。私は全然犬らしくないのです。
だけど、ナイトさん曰く、

「信頼関係ってとても大事な事よ、猫の世界でも当たり前の事。私も最初はマリアさんの事引っ掻いたり猫パンチしたりしたりして凄く警戒してたけど、マリアさん、手が傷だらけになっても一度も怒らなかった。そのうち、少しずつ心を許して甘えるようになったわ。そういうものよ。」

との事。

今も私はマリアさんの膝の上で甘えています💕

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