処世不退一歩処　如何安楽　（世に処するに一歩退いておらざれば、如何にか安楽あらん）」という、禅の言葉があります。
意味としましては、どのような事も、一歩退くという事を知らなければ、世の中を安心して渡って行く事はできません、というものです。

易の卦にも、「坤為地」という、「一歩退く」という意味の控え目で美しい卦があります。坤為地には、「先迷、後得主。」という言葉があります。
先立つ時は迷い、後れる時は主を得て利あり、とは、「我れこそが！」「我先に！」と、先頭切って走り進めば迷ってしまい、一歩退き後に従うなら主を得るというものです。

私たちは皆、当然の如く、自分の考え、価値観、自我があり、其々が自分なりの生き方をしています。それは決して悪い事ではありません。
ですが、あまりその自分の価値観を出し過ぎると、他人と衝突してしまう事になります。

お互いの価値観を押し付け合い、自分が正しいのだと相手にぶつけてしまうと、そこに良い関係は生まれません。また、常に自分を押し通すという事は、無理が生じてしまい、結果、孤立してしまいます。

私は英語の　After you.　という言葉が大好きです。この言葉を発する方の殆どは、余裕の温かい笑みを見せてくれるものです。そのような態度に嫌な気分になる人はいませんよね。

他人との無意味な衝突を避けるには、其々の自我をそっと隠し、一歩退く心を持つ事が大切なのですね。
そうする事で、人間関係をよりスムーズに、人生を生きやすくしてくれる事となりますから。