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与論島で泣いた日‐私は私の人生を生きると決めた‐

それにしてもさ、と彼女は切り出した。
「出会ったときの自分たちに、来年一緒に旅に出るよって言っても信じないだろうね」。

約束していた宮古島の打ち合わせを、と仕事終わりに銀座でビールをひっかけながら言った。

去年の夏、友人と与論島で出会った。
期間限定で沖縄で仕事をしていた私と有給をつぎ込んで1ヶ月間島で働いていた彼女と。そこで交わした「また東京でね」から、一緒に旅に出ようとしている。 何とも不思議な縁だ。

「そうだね」と頷いて私は笑う。
出会った日、私の人生が変わった気がんだよ、なんて言ったら驚くかな。ようやく笑顔で過ごせるようになったけれど、それまでは息をするのも精いっぱいだった。

*

昔からずっと背伸びをしていた。大人であらねば、と。 
子どもの頃から劣等感とコンプレックスのかたまりだった私は、何かのドラマで見たような言葉をおまじないのように信じていた。

「大人は泣かないし、何が起きたって平然と淡々と毎日を過ごしていける」

きっとそうなれるはずだと、とにかく「大人」に憧れていた私は、見た目から入ろうとした。背が低い私は、少しでも背伸びしたくて、文字通り背伸びをした。大学生になってからは毎日高さ5センチ以上のヒールを履いていた。

こうあるべきだ、こういうルートを歩まなければいけない……。
中身は伴っていないのに、自分が勝手に決めたルールに縛られてどんどん身動きがとれなくなっていた。

やりたいことをやろうと決めて同級生よりも2年遅れて社会に出た。社会人1年目は、同期よりも2歳年上。無意識に大人であろうとしていたのかもしれない。当時は気にしないようにしていたし、同じ場所で同じ時間を過ごして笑っていたけれど、やっぱり少し距離を感じていたのが本音だ。

当然、そんな考えではうまくいくはずもなく、失敗を繰り返して壁を乗り越えられずにいた。
自分で選んだはずなのに同級生からは置いていかれたという勝手な焦りと、同期からはばかにされないようにと虚勢を張っていた。

周りはどんどん先に進んでいく。
仕事で昇進したり成功したりする人がいれば、プライベートで結婚、出産と幸せな生活を手に入れる人がいる。アウトプットを、自身の価値を、誰かに認めてもらえるなんて羨ましかった。

「おめでとう」を言うたびに、嬉しいはずなのに何だかすり減る気持ちでいた。少しずつ削られて削られてそのままなくなっちゃうんじゃないかと思うぐらい。

思い描いていた大人からは程遠くて、働く意味も目標も、生きる意味までも分からなくなっていた頃。焦って、ベクトルがどんどん外に向いていく。周りはこんなにうまくいっているのに、どうして私は……。

沖縄で働くことになったのは、ちょうどそんな時だった。

*

7月初旬、まだ梅雨も明けきらない時期。じっとりと灰色で覆われた空の東京から2時間30分、一足先に夏を迎えていた日差しが降りそそぐ沖縄に到着した。

沖縄にはよく来ていたから、知っている場所のつもりでいた。それでも、いざ「住む」となると違った顔をのぞかせた。街はちょっとだけ田舎で昭和の香りがした。時の流れも人の歩くはやさもゆっくりで、空気のにおいも聞こえてくる音楽も言葉も、何もかもが東京とは違って心地よかった。

3か月という期間は長いようであっという間に過ぎていく。真っ青な世界を見てみたいと休みの日には離島に出かけた。

その中で訪れたのが、与論島だった。
那覇空港から飛行機で40分。いつでも行けるわけではない百合が浜、映画「めがね」のロケ地にもなった場所。「ヨロンブルー」と呼ばれる世界はどんな色なんだろうとずっと気になっていた場所。

「こんなところまで何しに来たの?」「綺麗な海が見たかったんです」なんてやりとりをしたときに、「島のほとんどがプライベートビーチだからな……」って言われながら教えてもらった海岸についたときに言葉を失った。

さえぎるもののない景色の中では空は高く、そして広い。水面は太陽をきらきらと反射して輝いている。海は一面エメラルドブルー、どこまでも見えてしまいそうなぐらい透明だった。聞こえてくるのは波の音と鳥の声だけ、見渡す限り青と白のグラデーションの中にいた。

こんなに広くて、透き通って青に包まれる世界があるんだ。


気づいたときには、なぜか涙が流れていた。
それまでこの世の終わりなんじゃないかと悩み続けてきたことが、すっとどこかに消えていくのが分かった。消えた、というよりはどうでもよくなってしまったんだと思う。何て小さなことでくよくよしていたんだろう、って。

こんな雄大な自然の前で、1人の人間なんてちっぽけだ。そんな小さな私が抱えている悩みに時間を割くなんて、立ち止まっているなんて、もったいないんじゃないか。

今、この世界が目の前に広がっている。また、ここに来たい。それまで私は私の人生を歩んでいく。
生きている理由なんてそれだけで十分だ。

ふわっと軽くなった気持ちのままにサンダルを脱ぎ捨てた。そして、はだしになって海に足を入れた。真夏の海辺で、一歩差し入れた足はひんやりと冷たくて心地よくて、スカートが濡れるのも気にせずにどんどん進んだ。

海と、風と、日差しを全身で感じたくて飽きるまで海の中にいた。何もしない時間を、贅沢にも味わっていた。

砂浜に戻る間に足には細かな砂がまとわりつく。普段だとうっとうしいと感じる砂さえ楽しくなって、サンダルも履かずに砂浜を歩いた。冷えた足で、コンクリートの上をぺたぺたとしばらく歩いていた。足の裏に直接温度も地面の感触も伝わってくる。

暑い日だったのに、すがすがしくてさわやかさでいっぱいだった。心地よさと満ち足りた思いで歩きながら風を感じる。これからは自分の感覚にもっと寄り添っていこうと決めた。

その日の夜、偶然入ったお店で彼女と出会ったのだった。とてもパワフルで笑顔輝く女性に。きっと、それまでの自分だったら、引け目を感じて仲良くなることなんてできなかったと思う。
でも、力が抜けて自分の人生を楽しもうと思えたからこそつながった縁だったのかもしれない。

今、また東京で働いている。以前よりは呼吸をしやすくなった。きっとあの日、旅のおかげで自分の人生を生きると決意できたのだ。

行きづまってもきっと大丈夫、いつでもフラットに戻してくれる場所を見つけたから。気の向くままに足を運べる、そんな気がしている。

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maria

少しずつ好きなことをする人生にシフトしたい。書くことを大事にしたい。できるだけ心の動きを丁寧に書きたいと思っています。●練習のために色んな記事を書いています。野球・旅・日常の雑記

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