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「まちのリサーチ」を通じてデザインシンキングを考える(イベントレポート)

オフィスの京都への引っ越しと参加したイベントの概要

唐突ですが、私の勤めているオフィスが5月から京都のど真ん中に引っ越しました。

ここから徒歩5分。いぇあ。

せっかく引っ越したので、京都の街で触れられる新しい考え方に触れたい、そう思って、全然専門外のイベント:5月9日にMTRL Kyotoで行われた「リサーチを考えるシンポジウム Vol.2 _どうやって新しいまちを「知る」か?」
に行ってきました。

すでに2ヶ月経っていて超時間差レポートですが、書きます。

イベント概要
- 主催の一人は友人の小嶌久美子さん、コワーキングスペースの研究家。もうお一人の主催者は榊原充大さん。
- ゲストスピーカーは川端 寛之さん(川端組 代表取締役)と 岸本 千佳さん(Add SPICE 代表取締役)

- パネルスピーカーの皆様が、「どうやって新しいまちを『知る』か?」をテーマにディスカッション。どうやって現地で情報収集するのか、事前にどんなリサーチをするのか、といったことを話してくれました。

右から小嶌さん、榊原さん、川端さん

左端が岸本さん
(遅刻していった上に最前列に座らせてもらったからロクな写真がないよ。)

気づき:まちを知るプロセスはデザイン思考のプロセスに似てるかも?

お話を聞きながら考えたのが、皆様が新しいまちを知って、課題の解決方法として街や建物を作る作業が非常に「デザイン思考の思考プロセス」に似てるな!!ということ。仕事の担当が微妙に変わり、デザインと正面から向き合わなければいけなくなったのですが、デザインに苦手意識がある私。そんな自分に、ちょうど同じ時期に、上司が勧めてくれたのが
佐宗邦威さんの『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』でした。

そこに書かれていたデザイン思考のプロセスと、まちを知るプロセスが非常によく似ているなと。せっかくなので結びつけて考えてみます。

『21世紀のビジネスに〜』に紹介されている、デザイン思考プロセスの中の4つのモード

本の中で、「デザイン思考の特徴は、何を作るかが決まっていないときに、
リサーチを行なって得た具体的なインサイトを、分析、統合という抽象的なプロセスでコンセプトとして凝縮した上で、プロセスで、コンセプトとして凝縮した上でプロトタイプを作り上げるやり方です。」
と書かれてます。
そのプロセスは4つに分かれると提起されています。
- 1つめは旅人のモード、その現場に浸るリサーチのフェーズ
- 2つめはジャーナリストのモード、リサーチを経て得たインプットを自分の中で消化する
- 3つめは編集者のモード、そこまでに得たインサイトを統合し、課題を再定義する
- 4つめはエンジニアやクラフトマンのモード、プロトタイピングを通じてそれを形にする。

イベントでお話しされた皆さんが話してくださった「どうやって新しいまちを『知る』か?」、そしてその後どうやって課題を設定するかのエピソードは、まさしく上記4つの中で1つ目の旅人モードからジャーナリストモード、そして編集者モードの実践だと感じたので、そのプロセスごとに当日のお話をまとめてみます。

まちを「旅人モード」で知る

不動産ポエムを詠む川端チャンネルの川端さんの旅人モードは、旅人らしくGoogle Mapをフル活用。まちのリアルな生活を知るために、古い建物や街並みが残っているところは重点的にチェックするらしいのですが、そんな地域を探す工夫は、以下の3点。
ポイント:川の近く➡古い建物や古い町並みが残っていることが多い
ポイント:市場、商店街➡戦後のどさくさでできてるケース多く、古い建物や古い町並みが残っている
ポイント:旧日本軍駐留地➡以下同文

他にも、Google Map上でみて「明らかにおかしい、気になる!」という地形を見つけてポイント見つけることもあるそう。例えば、台湾の高雄にあるこの地形。

果貿社區という建物だそうですが、ドーナツ状に建物が経っているという「明らかなおかしさ」に興味を持って現場へ。活気あるアパートのようなところで、まちのリアルをインプットできたそうです。今は簡単に画像検索できてしまうけど、「写真でみて行った気になるだけではまちを知るためには足りない」。だからこそ、インプットのためにまちを訪れる時はなるべく一人で、休まずに訪れ続けるんだそう。
(というか、同行者がついてこれないくらいハードスケジュールらしい。)

Add SPICEの岸本さんの「旅人モード」で大切なのは「人の人生の引き出し」。この物件を借りる人はどういう人か、ということを考えるときにいろんな人生をリアルに想像できる必要があるため、たくさんの人の人生の引き出しを自分の中につくれるように意識しているそう。
そのための手段は、そのまちの喫茶店(「カフェ」ではなくて「喫茶店」にいくことがポイント。)で時間を過ごすこと。
そして訪れる人、そしてそこで交わされる会話に耳をすませることで、その街の人々の人生に触れることができるそうです。それ以外にも、「時間帯を変えて街を見てみる」「知らないところにいく時は、行き帰りで違う交通手段を使って、経験の幅を広げる(例:行きはUberで帰りはバスを使う)」「Airbnbを使うことで、リアルな生活の様子を見る」など、街のリアルな姿を「知る」ための方法を紹介されてました。

ジャーナリストモードで時間をかける、そして編集者モードで課題を再設定

インプットを自分なりに消化して、分析する「ジャーナリストモード」。
それに関して印象的だったのは、川端さんの「インプットしてそこからすぐ出てくるインサイトは、薄っぺらい」という話。川端さんの台湾視察の話を聞いて、私はてっきり台湾の仕事があるから調査で台湾に行ってきたんだと思っていたのですが、そういう訳ではないそう。良いインサイトを得るためにはインプットからアウトプットの間で熟成させる時間が必要で、そういう意味であえて今まだ台湾の仕事が本格化していないからこそ、台湾でインプットしてきたとのこと。すごく納得するところがありました。

編集者モードに関しては岸本さんの「地域の価値を上げていくための課題設定&解決法」のお話が印象的でした。課題設定の時に考える軸の一つとして、岸本さんは「既にある地域の特色に沿っていくか、それともあえて新しいものを入れるか。どちらが価値を生み出せるか。」ということを考えるのだそう。そして、その判断の基準となるのは、「旅人モード」の時のインプット。住んでいる人に聞いたことや、喫茶店で聞いた会話などももちろんベースになるとのことです。例えば、京都の西陣地域は、宿泊施設ができることに強く反対していたそう。西陣の場合は「地域に沿う」ほうが価値が高まると判断して、宿泊施設以外の解決法を考えたとのこと。逆ももちろんあるそうです。
このプロセスは「まち」の背景にあるコンテクストを見つけ出して、そのコンテクストのまま伸ばしていくのか、それともあえてそこに反するものを置いて新しい魅力を加えていくのか、という作業で、すごく編集的な作業だなと感じました。
また、「街の課題はどういうシチュエーションで見つかる?」という会場からの質問に答えて、「同業以外と話しているときに課題が見つかることが多い。あと、気が合わない人であっても話すことも大切」とおっしゃっていたのも印象的。『21世紀のビジネスに〜』の中でも、「いかにチームの中に無意識に存在するバイアスを壊せるか」というポイントが紹介されていたのですが、「バイアスを壊す」ための一つの方法として、「同業以外の人と話す」ということがうまく作用しているのかなと感じました。

まとめ

せっかく京都に引っ越したのから、京都でしか触れられない情報に触れてみよう、という軽い気持ちで訪れたイベントでしたが、思わずデザイン思考について考えるきっかけになりました。

「リサーチ」という分野についていうと、何かある分野をリサーチして、自分なりの仮説を持ったり意見をもったりする時、自分は「本当にこの仮説は本当に正しいのか?」ということで悩むことが多いです。それに対して、主催者のお一人である榊原さんの、「新しい町は知れたのか?という問いについては知っているという状態よりも知る(知ろう)という態度が重要」という言葉がヒントになりそうだと感じました。リサーチによって完璧にその分野を熟知すれば正しい答えを導けるのではなく、その分野を知ろうとして、本当の姿を知ろうといろんな方法をとる(デザインシンキングでいう旅人のモードジャーナリストのモード、そして編集者のモードで)ことで得た仮説を、自分なりに試してみるということが大切じゃないかと感じさせられました。

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