見出し画像

ココナツオイルの切ない香り

ただいま東京の自宅に
一次帰国中です

前回帰国したのが
10月だったから
4か月ぶり

マンションのことは
車でここから30分くらい離れた所に
住んでいる妹夫婦が面倒を見てくれるので

成田からマンションに到着した後
そのまま宿泊できるのがありがたい

翌日は銀行に用があったので
少し早起きしてコーヒーを淹れてみる

3月の東京は思ったより寒くなくて
暖房も不要で
マンションを出たら
ポカポカ日和〜

運動がてら
まだ枝状態の桜を
眺めながら歩いた

寒くないのは嬉しいけど
桜もその分早く満開になるから
来月9日に来日する旦那は
桜満開に間に合わないかも

などと
まだ枝の桜並木を
眺めながら歩いていたら
銀行に到着

当然ながら
銀行内にいた人達は
スタッフもお客も
みんなマスク着用

コロナ対策というより
花粉症でマスクが手放せない人が
多いんだと思うが

わたしはヘーキだし
銀行員に注意されたら
すんませ〜んと
マスクつけりゃいいやと
思ってたが注意されない

そのまま待合室の
椅子に座って
読みかけの本を
トートバックから
取り出したら

ふと視線を感じた

無意識に顔を上げると
わたしの真向かいに
足を組んで座った
眼光鋭い男性が
わたしをじっと見ている

短い茶髪に
野球帽みたいなのをかぶっていて
座っていても分かる
鍛えてるっぽい上半身

ぱっと見若そうだが
目尻の皺からすると
多分わたしと同世代の
中年男子

一瞬わたしがマスクしていないから
”マスクしろや!”と
睨んでるのかと思ったら

彼もマスクをしていない

自分と同じく
マスクしていないから
親近感が湧いて
見ているだけなのか

にしては
親近感など微塵も感じられない
様子でわたしを見ている

というか
じっとこちらを凝視している

なんなのこの人?わたしの頭に
はてなマークが
一瞬灯った後

突然
思い出した

せ、先輩?

あの眼光の鋭い三白眼

わたしがその昔
空手を習っていた時の
先輩にすごく似ている

その先輩との間に
美しい思い出があれば
この後の話も
盛り上がるのだが

悲しいことに
その逆

簡単に言うと
わたしは先輩に
嫌われたのである

空手とはなんぞや
状態のわたしに稽古をつけてくれ

技や型を丁寧に
教えてくれた先輩

武道であるゆえ道場内で
香水は禁止だったが

彼からはいつも
甘いココナツオイルの香りがした

”先輩、なんの香りですか?”
と聞いたことがある

彼は
もう一つの趣味の
サーフィンで日焼けしすぎて

火傷状態になった皮膚につけている
医者からもらった軟膏だと
笑って教えてくれた

わたしはその先輩のことが好きで
ある日好きですと
告白したら

それ以来
彼はわたしを避けるように
なってしまった

稽古もつけて
くれなくなってしまった

彼との間の
とっても気まずい雰囲気と
黒帯審査に落ちたのもあり
すっかりやる気がなくなって
わたしは空手を止めてしまった

それ以来
ココナツの香りも
嫌いな香りの一つになった

ココナツの香りを嗅ぐと
彼がわたしに向けた
迷惑そうな目、拒否された事を
思い出してしまうから

そういえば
わたしのマンションは
当時の稽古場のすぐ近くだから
→購入時はそんなこと
すっかり忘れてました

当時の稽古生たちが
この辺りに住んでいても
なんの不思議もない

とにかくその三白眼の
男性の視線は

当時の悲しい過去を
走馬灯のように
蘇らせてしまった

あなたはあの先輩なんですか?
なんなんですか?
突然わたしの前に現れて!

悲しい過去を
思い出しちゃったじゃないですか〜〜

先輩かどうかもわからん
単なる八つ当たりであるが

急に腹が立ってわたしも負けずに
見つめ返す(睨み返す?)と

彼は
睨んでいるのではなく
何かを言いたげな感じ

そのままもう少し
見つめあってる(睨み合ってる?)
時間があったら

多分
彼はわたしに
何か
言葉を発したかもしれない

そして
沈黙が破られる

わたしは銀行員に
自分の番号を呼ばれ
部屋に通された

手続きが済み部屋から出ると

彼はそこに居ない

ただ
ココナツオイルの香りだけが
ほのかに漂っていた

。。。気がしただけ

わたしの大昔の
失恋話でした笑








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?