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世界が離れていく夜に

それは、あるとき突然に、ゆるやかに。
予兆はあったかもしれない、けれどそんなものは知らないの。

自分を世界の中心だと思ってはいけないと、こどもの頃だれかが教えてくれた。
それでも世界は、わたしの目をとおしてしか見ることができなかったし
わたしの耳でしか聴くことができなかったでしょう。
わたしの隣でひとは笑ったし
わたしに聴こえてくるのが世界だったもの。

あるとき突然ふっと、胸のおくのほうにあったちいさな輝きが
ぎゅうっと膨らんで
おおきな風船になってふわふわと飛んでいく。

自分を世界の中心だと思ってはいけないと、だれかが教えてくれた。
しってるよとその声を背にして歩きつづけた。

胸のおくにぽっかり空いたちいさな穴にのこったのは、
ひざを抱えたちっぽけなわたし。

追いかけるの?そんなものはなかったことにするの?

涙をながしたって足はうごかない。
声をあげたって世界に耳はない。
わたしのからだを抱きしめたまま
わたしのからだは止まっているのに
世界はなんの不調もきたさないで
ぐんぐん進む、横顔がみえる。

あいしてる、愛してる。
わたしはこの世界を愛してる。
わたしをおいていくものを、
わたしから離れていくものを。

だれかに手をひかれなけれぼ癒えない痛みもあるし、
なにかを追いかけなければ手にはいらない幸せもあるんでしょう。
悲しみにふれることでしかわかりえない美しさを知っても、
泣き叫びたい夜だってあるでしょう。

しあわせであるとか、そうではないとか、
恵まれているとか、いないとか。
だれかより、とか、だれかのが、とか。
そんなことは置いておいて、じっと目をとじて灯りをさがすの。
たった一夜をこえるために。
それだけでいいの。


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