見出し画像

【人】常に新鮮な気持ちで一つのことを続け極める

東京現代美術館で開催されたデイヴィッド・ホックニー展に行ってきました。
ホックニーはその豊かな色合いと、鮮やかな印象で、てっきりカリフォルニアあたりの出身の作家だと思っていたが、イングランド北部生まれらしい。
1937年生まれ。今年86歳。60年以上にわたり現役で、今でも新たな作品を精力的に生み出している。
本展覧会は、日本では27年ぶりの大型個展だそうで、60年の長きにわたる作家人生が余すところなく展示されている。
会場に入ってすぐに、鮮やかな黄色いラッパスイセン「春の到来(2020)」と、花瓶に生けられたスイセンのエッチング「花瓶と花(1969)」が飾ってある。同じモティーフだが、印象も手法もおおきく異なっている。
ホックニーの特徴の一つに、絵画、ドローイング、半が、写真、舞台芸術など多様な手法を駆使していることが挙げられるが、本展覧会ではそれが余すことなく見ることができ、彼のチャレンジングで柔軟な精神をビシビシ感じる。
とにかく飾っている数が多く、基本的には年代順に並んでいて、時々二人の人物を一つの画面に収める「ダブルポートレート」やエッチングでの人物像、日本の京都は龍澤寺の枯山水の写真コラージュシリーズなどテーマごとにまとまっている。また、伝統的な遠近法ではなく多様な視点からの見方を1枚の絵に収めた絵、かと思えば色鮮やかなホテルの中庭を切り取った絵など(まるでピカソのような、マティスのような、〇〇のような、××のような・・・)、ものすごい試行錯誤の跡が見て取れる。
衰えない制作意欲。最近ではiPadで絵の創作をしているそう。
1997年にはイギリスのヨークシャーで風景画の制作を始める。自然に向き合う中で、それまでの試行錯誤、たとえば多視点をめぐる実感が余すところなく使われている。「四季、ウォルドゲートの木々」という作品は、縦4.5㍍、横12㍍の巨大な作品だ。
圧巻は、コロナ禍で製作が始まったという90㍍にも及ぶ「ノルマンディーの12か月」。iPadで描かれた作品で、会場には鑑賞者がゆっくりと絵の周りを歩きながら、四季の移ろいを一緒に体感できる仕掛けになっていた。色彩の少ない冬から、徐々に緑が芽吹き始める春、花々が咲き乱れ、生き生きしたグリーンとのコントラストが美しい初夏、緑の色が濃くなり、ギラギラした太陽が体感できる夏、そして紅葉が美しい秋の実りの時期をへて、木の幹の黒々しさが目立つ冬に返る・・・。
iPadで描いているため、線だけでなく、スタンプなども効果的に使われている。使う人が変わればこんなに創造力豊かな使い方ができるんだな、と、もうため息しか出ない。
自然への優しいまなざしと、全世界への愛がどんどん体の中に流れ込んでくるような、そんな展覧会でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?