【人】脳の敵はマンネリ化

【東大教授 池谷裕二氏講演】

三島青年会議所主催公開講師講演会
2023年9月25日(月)19時―21時 三島市民文化会館小ホール
講師 東京大学薬学部教授 池谷裕二氏

池谷先生は、20年以上前に「ほぼ日刊イトイ新聞」のコンテンツで知った。当時から脳の研究者で、特に「海馬」の研究をされていた。その時の糸井重里さんとの対談で、「やり始めないとやる気は出ない」という話があって、衝撃を受けたことを覚えている。

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●「高齢」っていつから?誰が決めるの?
冒頭、面白い話があった。
幼稚園の子に「高齢者」って何歳?と聞くと「小学生」と答える。小学生に聞くと「高校生」。高校生に聞くと「30代」。聞く人によって「高齢者」の定義は変わる。

●頭の良さは加齢とは関係ない
人の頭の良さというのはチェスの強さで測ることができる。(ちなみに、人はAIにはもうかなわない。100年分のデータが入っているから。)
実際に測ってみると、35歳をピークに横ばいになる。ということは、頭の良さは年をとっても衰えないということ。
若い人の方が頭が良く、運動神経がいい、というのは、世代のせい。今までの蓄積をベースにできるので、高い次元から始められるから。(例えば、体操でいうと、ムーンサルトという技は以前は金メダルが取れるほど高度なものだったが、現在は小学生の基礎技術となっている)

●ネガティブな自己暗示
ある実験をした。たくさんの単語を並べた紙を見せ、次に別の、やはりたくさんの単語が並んだ紙を見せる。同じ単語がどの程度あるか、をいろいろな世代に答えてもらう。
結果は、「これは心理テストです」と伝えて行うと、若者と高齢者に差は出ない。それが、「これは記憶力テストです」と伝えたとたんに、高齢者の成績が落ちる。

●興味を持つと出る「シータ波」
脳波はいろんな種類がある。その中で「シータ波」というものがある。これは、何かに興味を持っている時に出る脳波で、記憶をつかさどる海馬から出る。
2005年にマイアミ大学で行った実験。ブザー音が鳴ると、目に空気を吹きかける、という事をウサギに繰り返し行う。すると、ブザー音が鳴っただけで、ウサギは目を閉じるようになる。
さて、そうなるまでにウサギに何回空気を吹きかけたか?
答えは、200回。動物は、200回やらないと覚えることができない。
では、今度は子ウサギと大人のウサギに同様の実験をやってみる。
すると、大人のウサギの方が目をつぶるまでに4倍以上かかる。これは、大人のウサギの脳からはシータ波が出ていないから。つまり、興味を持っていないから。

●脳の敵はマンネリ化
実験。白い丸とグレーの丸を円状に並べた紙を回すと、あら不思議、グレーの丸がだんだん消えて見えなくなってくる。
これは、長く単調なものを見ていることに対して脳がマンネリ化するから。
脳の敵はマンネリ化。マンネリ化すると存在そのものを見えなくしてしまう。

●知能の3つの要件
知能指数(IQ)を考えたのは「アルフレッド・ビネー」という学者。彼は、知能を支える3つの要件を発表した。
3つの要件とは、①論理 ②言語 ③熱意
論理とは「算数」、言語とは「国語」。つまり、算数と国語ができない人は「バカ」と言っている(笑)。
さて、③の熱意。これは「見えない学力」と言われている。知ることを楽しむ能力で、積極的に感知すること。だから、算数と国語ができても、熱意、つまり積極的に知ることを楽しむ姿勢がないと、知能は生まれない。
ちなみに、やる気が生まれる脳部位を「側坐核」という。

●心拍はなぜ制御できないか
心拍が制御できないのは、意識ができないから。意識できるようになると、心拍も血圧もコントロールできるようになる。
Biofeedback(バイオフィードバック)という言葉がある。これは、血圧や心拍などの神経活動を意図的に操作する事。池谷先生はそれができる。
アルファ派を出したり、ひっこめたりできるようになる。
Biofeedbackができるようになると、側坐核をコントロールできるようになる。つまり、やる気が出せるようになる。
やる気を使ってやる気を出す。⇒楽しいことを想像する。
楽しんで生きることは大切。楽しいエピソードを思い出すと、ストレスが減って前向きになれる。

●表情と感情の因果律
実験。箸をくわえてマンガを読む。箸を真下に向けてくわえるのと、横に一文字にくわえるのと、くわえ方で面白さが変化するのか。
どちらが面白く感じるか?答えは、一文字にくわえる方。なぜなら、口角が上がって笑顔に似た形になるから。
楽しいから笑うのか、笑うから楽しいのか。楽しい⇒笑う、笑う⇒楽しい、どちらのベクトルが大きいか。この答えは、笑う⇒楽しい。
なぜなら表情や姿勢が感情をつくるから。つまり、身体が感情の主導権を握っている。これは進化の過程を考えればわかる。人間以外に笑う動物はいない。
「身体が感情の主導権を握る」。ということは、「やり始めない限りやる気は出ない」ということ。これを「作業興奮」という。

●システムに従う
やり始めない限りやる気は出ない。やる気が出るのを待っていてもらちが明かない。
できる人はやる気が出るのを待つのではなく、システムに従う(時間になったら机に向かうなど)。
ある意味やる気は邪魔なもの、という言い方もできる。なぜなら、やる気は一過性だから。

●将来に対してどんな動機をもつべきか
動機には2つある。「手段動機(変わりがきく)」と「内発的動機(好きに理由はない)」がある。将来成功するには「内発的動機」をさがすこと。

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実験の説明をしたり、結果を3択で予測させたり、飽きない工夫と巧みな話術で、とても楽しい内容でした。やる気を待つのでなく、システムにしてしまう、というのはいい方法だと思います。

#池谷裕二

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