#40 厄日

そもそも予定に無理があったんだろうか?

今日は朝9:45から歯医者の予約が入っていた。講義も研究室のミーティングもオンラインで時間に融通が効いた学部四年生の時、「午前でも大丈夫ですよ〜」と一度言ってしまったせいで私は歯医者に「こいつは午前に予約入れてもいい奴だ」と思われてしまっている。ニートかフリーランスの類だと思われていそうだ。残念、答えは大学院生だ。


普段は10時までぼーっとしていられる火曜だが9時前に起き、朝食も食べずメチャメチャ歯を磨いて家を出る。歯医者は最寄り駅から一駅。電車を降りる時あることに気づいた。財布に現金が全然ない。

キャッシュレス化を推し進めすぎた弊害で今や私は滅多に銀行にお金を下ろしに行かなくなっていた。一応昨晩「そういえば歯医者とかってクレジット使えなさそうやんな〜、一応現金持って行くか」と考えはしたのだが、起きたら歯を磨くのに必死で忘れてしまっていた。

「俺金払えないな〜」と思いながら歯医者に向かう。予約すっぽかすよりは正直に金がないので次回払いますと言った方がマシだと思ったからだ。
受付を済ませて数分後、「◯◯さん〜」と呼ばれる。
「今日はまずレントゲン撮りますね〜」と言われ俺は「俺金払えないな〜」と思いながらレントゲン室へ入る。
治療台の上に寝かされ「クリーニングしていきますねー」と言われる。担当の人がいつもと違う人でなんかめちゃくちゃ痛かったが「俺金払えないから仕方ないな〜」と思い耐える。

治療が終わり、受付でダメ元で「クレジットカードって使えないですよね?」と聞いてみる。「すみませんお使いいただけないです。」と言われる。「じゃあ俺金払えないな〜」と思う。「すみません持ち合わせがないので次回合わせて払います」と伝え歯医者を出る。


今日の予定はこれで終わりではなく、ここから直接大学に向かい昼から研究室のミーティングに出なければならない。

金払えないやり取りをしていたせいで乗る予定だった電車に乗れなかった。自業自得なので仕方ない。「すみません、ミーティング遅刻します」と教授にSlackを送る。


乗っていた電車が降りる駅の一駅前で止まった。
人身事故のため運転見合わせだという。すぐに運転再開するかと思いきや再開まで時間がかなりかかるというので全員電車から降ろされた。「すみません、ミーティング間に合わないです」と教授にSlackを送る。

仕方なく駅出てすぐのスタバに入り、運転再開まで時間を潰すことにした。普段の昼食より高いアイスコーヒーを頼み、席に座る権利を得る。大学に入って学んだのだが都会では椅子に座るのにも金がかかる。
周りのノマドワーカーたちに合わせてPCを開きiPadで読みかけの論文を読んだりして時間を潰していたら運転再開予定の時間になったので駅に戻ったのだが、まだ電車は動かないままだった。

駅で論文の続きを立ちながら読んでいると20分ほどしてようやく新快速の運転が再開した。残念ながら私の降りたい駅は新快速は止まらない。快速・普通の再開はまだ先になるというアナウンスが流れる。もう今日は大学に行くのは諦めることにした。


逆向きの新快速に乗り帰ることにした。駅前のショッピングモールのベンチにでも座って涼みながら論文読み切って帰宅するか、と思ったのだがショッピングモールの中には無料で座れる場所がなかった。どの階も「座りたいのなら飲食店に金を払え」という面構えをしていた。大学に入って学んだのだが都会では椅子に座るのにも金がかかるのだった。すでにスタバに金を払っているので追加の出費はしたくなかった。

仕方なく店を出たところにある休憩スペース的な場所のベンチ(石製)に座る。涼しさのために設置してあるのであろうミストシャワーはiPadを濡らし、ただただ鬱陶しいだけだった。


そろそろ帰るかと思っていたところ、気づかないうちに隣に座っていた老人に「兄ちゃん、どこから来たんや?」と話しかけられた。突然のことで動揺し無視すればよかったのに「え、◯◯です…」と正直に答えてしまった。

「◯◯なんか!俺も実家◯◯やで!⬜︎⬜︎市らへん!せやねんけどこの前家賃払えんで追い出されてなぁ。ホームレスなって3ヶ月やねん。なあ兄ちゃん、同じ◯◯のよしみやと思って200円貸してくれへんか?二日まで金入らへんねん」と老人は言ってきた。

勢いに圧倒され、まあ200円くらいなら…と思い渡してしまった。
渡した後もそのジジイは財布を覗き込んできて「もうない?500円玉はないか?1000円にならんか?」と厚かましくせがんできた。
結局合計400円(内訳: 100円3枚、50円2枚)をそのクソジジイに貸してしまった。クソジジイも俺の財布にあまりに現金が入っていないことに驚いていた。うっせえ俺だって今朝驚いたわ。


「兄ちゃんよくここ来るんか?二日になったらお金入るねん。二日にここ来てくれたら返すし!」とクソジジイは言っていた。「ああそうですか、大変ですね、じゃあ暑いけど頑張ってくださいね、お疲れ様です」と言い一度も振り返らずその場を去った。


予定が一つできた。十月二日、俺はクソジジイから400円を取り戻しに行く。そうしなければ今日の俺が報われない気がするからだ。

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