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脱毛サロンの女「100%の客」

これは、脱毛サロンに勤める女・毛利悠里(26)の日常を切り取った妄想エッセイです。事実とは大きく異なる点があるかもしれません。妄想ですのでご了承下さい。
1話完結シリーズものです。「アザのある客」

今日もどこからともなく身体の毛を無くしたいと言う女性が集まってきている。今日の勤務は14時からラスト22時まで。平日なのでそこまで多くはないが、それでもほぼ予約は埋まっている。仕事帰りの女性達が今か今かと脱毛ライトを当てられるのを全裸で待っている。

ウチのサロンは指名予約ができない。時間だけ指定して、その時間に担当するスタッフが施術に当たる。まれに同じお客様を担当することがあるが、宝くじの当選確率くらいの低さである。今日の勤務予定表を見る。14時からは新規顧客の対応。そして16時から連続で3件、施術が入っていた。

新規顧客には、まずニーズのヒアリングから入り、脱毛処理に関する基本的な説明、料金説明、サロンの利用方法やメリット、そして、手に脱毛ライトを当てる体験も行う。ヒアリングの時点でお客様の感度は大抵分かる。冷やかしの人もいれば、真剣にムダ毛に悩んでいる人もいる。正直、契約が取れるかどうかは当たりはずれなところがあるが、私は今のところ、契約率80%と高いほうだ。だが今回のお客様は冷やかしではなさそうだったが「考えます」と言って帰って行った。他にも検討しているサロンがあるのだろう、そこまで引きずることもない。

16時、20分前。私は社内システムで担当する顧客情報を確認した。確認して、アッと思った。その方は私が新規で担当して契約し、通うことになったお客様A様だったからだ。今日で2回目の来店である。しかも、1回目も偶然、私が担当した。

A様の待つ個室へ行き、挨拶をする。

「いつも毛利さんが担当してくれるので安心です」

A様は初回に対応したから私が担当していると思っているようだ。

「実はそういうわけじゃないんです。施術の担当は決まってないんですよ」
「あらそうなんですか」
「でも不思議ですね。今のところ100%ですもんね」
「引きが強いんですね」

通常、あまりお客様とは会話しない。しないというか、うつぶせだったり、仰向けでもライトから目を守るため目隠しをしてたりするため、面と向かって話すことがない。だから、名前と顔が一致するお客様は実は少なかったりする。A様は稀有な存在なのだ。

うつぶせになった姿を見る。やせ型ではあるが、出るところは出ていてスタイルが良い。しかも、毛なんてほとんど生えておらず、脱毛に通わなくてもいいと思えるほどだ。それでもウチは全身脱毛のサロンだから、全身にライトを当てなければならない。

「効果はいかがですか」

生えてない毛が抜けている実感など感じられるのだろうか、と聞きながら思ったが、2度目の施術では必ず聞かないといけない質問だ。

「まだまだですね」

耳を疑った。穏やかな口調のA様がピシャリと言ったからだ。が、確かにそうかもしれない。毛深い人の方が効果を早く感じられ、そうでない人は感じるのが遅い。ほぼないものを、完全にないものにするには時間がかかる。

「100%、無くしたいので」

完全に体毛がなくなるには早くても3年かかると言われている。A様の100%とは一体どこまでを意味するのだろうか。脱毛ライトの機械音が肌に当てる度規則正しく「ピッ、ピッ」と空しく響く。その音を聞きながら私はふと考えた。

『頭髪にライトを当てる日が来るかもしれない』

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