見出し画像

それでも私はチケットを売る。

私は舞台に立つ人間です。
お客様にお金を頂いて、劇場でお芝居をしています。

 所属する芸能事務所での私のカテゴリーは「タレント」であり、テレビやラジオの出演やイベントでのMCなどが主な仕事です。

 そんな私が芝居で舞台に立つようになったのは5年前。基本的に何でもやりたい、やらねばならないと考えている私は、芝居のレッスンを受けたことがキッカケで、舞台に興味を持ちました。そこから「脚本を書く」ということにも挑戦するようになりました。それくらい、『舞台を生み出す』という作業は、没頭するのに十二分に魅力的な世界でした。

 舞台に立つことで、先にも書いた「お客様にお金を頂いてお芝居を見てもらう」ということを強く意識するようになりました。舞台が始まる前はいつも怖いです。きちんと芝居が出来るかはもちろんですが、それ以上に楽しんで満足してもらえるか、その恐怖と常に戦っています。
 その恐怖を超えた先に、達成感と常習性が待っています。またやりたい/やりたくない、このせめぎ合いも始まります。お客さんの反応が、私をそのステージに連れて行ってくれるのです。

 また役者たるもの、芝居だけをやっていればいいというわけではありません。芝居の知識や技術さえあれば良しではなく、この世界には様々なルールがあるのです。

 一番重要なルールは【チケット】についてだと感じています。チケットについては、劇団やユニットによって取り決めが大きく違います。今回はその説明を私の知る範囲で説明してみます。そして「チケットを“何(誰)から”買うか」ということが役者にとってとても大切だということを知って頂きたく、また、その点が分かれば、なぜ役者が必死でチケットを売っているかもご理解頂けるのではないかと思っています。

 私はチケットに関する重要なポイントは、4つの「ある/ない」によって分けられると考えました。役者は出演のオファーがあった際、その「ある/ない」によって決断していると言えると思います。

①ギャラ
 ギャラがない舞台なんてあるの?と思われる方もいるかもしれませんがザラにあります。例えば事務所のプロデュース公演であれば、ギャラがないことはよくあります。その分、公演チラシなどは事務所が作ってくれたり、稽古場を自由に使えたり、関係者が見に来てくれたりとメリットもあります。
 ギャラの金額はピンキリで、役者のキャリアや出しろ(役柄)によって異なってきます。私の場合、「ギャラがあるとは有り難い」です。テレビ局や大きなスポンサーなどが付いておらず、劇団のみで打っている公演(特に小劇場系)はギャラがないこともよくあります。
※ここでお伝えしている内容は、この小劇場系の舞台についてだと考えて頂きたく思います。

②チケットノルマ
 これがかなり大事なポイントです。ノルマとは「絶対に売らないといけないチケット」。10枚もあれば、20、30、それ以上もあります。決められたチケット枚数を売ることができなければ、残りを買い取らないといけないということです。これはかなりリスクが高いです。年間の出演本数が多い役者ほど、チケットを売るのが難しくなります。1年に1回なら見に行ってあげてもいいけど、2ヶ月に1回となるとなぁ…と考えるのは当然ですし、それが無名の役者の舞台なら尚更です。付き合いだけで見に行けないことは大いにあります。
 そして、チケット代も重要です。小劇場と言われる座席数100席以下の小屋(と役者の世界では言う)であれば、2000~4000円くらいが相場で(※関西)、例えばノルマ20枚でチケット3000円だった場合、もしも1枚も売ることが出来なければ、60000円自腹で払わないといけない計算になります。もちろん1枚も売れない役者がいたとしたら、それはそれでどうなの?って話ですが、舞台は本番だけではなく稽古も含めてということになるので、1~2ヶ月(劇団によってはもっと長く、交通費も自己負担で)拘束されるにも関わらず、チケットノルマまでも払わないといけないという悲惨な事態に陥るわけです。なので、「チケットノルマあり」というオファーの場合、『要検討』になるのが普通だと思います。

③チケットバック
 これは役者の、チケットを売ると言うモチベーションに大きく影響するもので、要は「チケットを○○枚売ったら、○○円バックします」ということです。
 私がよく聞くのは、「チケット20枚以上売ったら、21枚目から500円バック」です。例えば、チケットを50枚売ったとしたら、15,000円(30枚×500円)もらえると言うことです。この枚数と金額は劇団によって異なります。30枚以上で1000円バックとか、1枚目からバックありとか、様々です。ある程度のお客さんを確実に呼べる役者だとすると、ギャラがなかったとしても、チケットバックでギャラ分、それ以上もらえる場合もあります。
 役者はお客さんを呼べなければいけません。私の知っている役者は公演までの2ヶ月くらいで100人と会って飲んだという強者がいます。メールやSNSだけの情報拡散でお客さんが集まってくれるほどの役者はそういません。面と向かって会い、来てほしい思いを伝えるからこそ、お客さんはお金を出して劇場に足を運んでくださるものだと思います。

④出演メリット
 これはお金やチケットの話は別の部分で、どうしても出演したい劇団とか、憧れの演出家に師事できるとか、脚本が死ぬほど面白いとか、立ちたい劇場に立てるとか、関係者がめっちゃ来るとか、色んなパターンがあると思います。あとは、メリットと言うわけではないけど、役者同士の繋がりとか、偶然スケジュールが空いていたからとか、出演を決めるポイントは役者によって千差万別なので何がメリットかは一概には言えないかもしれません。


 この4つの「ある/ない」が出演を決めるポイントと言えるのではないかと、私なりに分析をしてみました。ギャラ・チケットバック・メリットが「ある」、ノルマが「ない」オファーが一番おいしい話ではありますが、そのような話ばかりではないのも現実です。出演するかどうかは役者の価値観であり、センスみたいなものだと感じています。

 また役者のスタンスによっても変わってくるものです。ドラマや映画などの映像に出たいのか、舞台をメインに活動したいのか、自分の劇団を持って運営したいのか、色んな劇団に客演として引っ張りだこになりたいのか、その目的によっても、出演する舞台は変わってくると思います。

 私は、自分が出たいと思う劇団の舞台に出ます。ギャラがあれば嬉しいですが、金額は全く気にしません。どんなに安くても、ギャラがあるかないかは役者に対するリスペクトだと思うからです。役者はほとんどがそれだけで生活が出来ていません。稽古に時間が必要で、その掛けた時間だけの金額を得ることは大抵できません。
 でも多くの役者は、芝居と向き合い、いいものを作ろうと必死に足掻いています。(全ての役者に確認したわけではありませんが、そうであると信じています)結果、見て頂いたもののクオリティが低いこともあるだろうし、作品そのものの良し悪しもあります。また観る方の好き嫌い、価値観も大いに影響するものなので、万人の評価を得ることは難しいのです。

 それを十分に分かった上で、私は、出るからにはチケットを売ります。出演する劇団に私はこれだけチケットを売ります!と言うアピールをするためです。きちんとチケットを売ることが出来る役者は、次も声が掛かります。もちろん芝居が出来るか出来ないかが一番大切ですが、同じくらいの力量であれば、チケットを売ることが出来る役者を使うのは当たり前のことです。それは私が公演を主催するときも同じように考えるからであり、当然のことだと思います。
 チケットバックはもちろんほしいです。が、チケットを買ってもらいたい大きな理由ではありません。自分の姿を応援してくださる皆さんに見てもらいたい、もっと知ってほしい、と言うのと、舞台を生で見ることの楽しさを知ってほしいからです。私も初めて舞台を見たときの、緊張感と興奮を今でも覚えています。有名な方が出る舞台はもちろんですが、100名ほどのキャパシティの劇場は劇場で、役者の表情や息遣い、近いならではの楽しみ方があります。

 総じて、何が言いたいかと言うと、劇団HPやチケットぴあやイープラスなどではなく、「チケットは役者から直接買ってください」と言うことです。劇団によっては直接ではなく、専用サイト(コリッチなど)を利用して、ネットから該当(お目当て・知り合い)の役者を選択して購入してもらう場合もあります。声を掛けられた役者に直接聞いてみるといいかと思います。

 行けるかどうか分からないから頼めない、コッソリ行って驚かせたい、というお気持ちは大変ありがたいのですが、公演後にお顔を見て、チケット用意出来たのに...と思ってしまいます。チケットノルマやチケットバックに影響するということももちろんですが、見に来て頂いた方に漏れなく、ご挨拶したいと思っていますし、お礼を用意している場合もあり、事前に来場が分かっていると言うことは実は結構大事なことなのです。事前に分かっていれば、芝居でこっそりアドリブを入れたり、カーテンコールの時に客席を探してこっそり合図したりすることもあります(笑)

 そんなのいらないし・・・って思う方もいらっしゃると思いますが、役者がチケットを何枚売っているかということは、皆さんが思っているよりも深刻だと言うことを知って頂けたらと思っています。

 そんなに頻繫に連絡することもなく、何年も会ってない役者の友人から公演がある度にお知らせのメールが届く、と言う経験をしたことがある方はこれが理由だと思って頂けたら納得いくのではないでしょうか。

 役者と言うのは、舞台に立って、お客さんに見てもらって初めて、芝居が出来ます。誰にも見てもらえない舞台では作品とは言えません。お客さんがいて、役者の動きやセリフに反応してもらえるからこそ、成り立つのです。舞台上の役者だけで作品を作っているわけではないのです。

 その空気感を体験しに、是非劇場に行ってみてください。

 行ってみてつまらなければ一生行かなくていいと思います。そうならないように、舞台に立つ人間は責任と自信を持って臨むだけなのです。その覚悟がない人間は舞台に立ってはいけないとも思うのです。

 あぁ自分にプレッシャーをかけただけの記事になってしまった…。

 それでも私はチケットを売る。

クリエイトすることを続けていくための寄付をお願いします。 投げ銭でも具体的な応援でも、どんな定義でも構いません。 それさえあれば、わたしはクリエイターとして生きていけると思います!