代表者だけじゃない。 ベンチャー企業のメンタルヘルス問題|調べるおさん(大柴貴紀さん)に聴いてみた

この一年ほど「起業家のメンタルヘルス」という問題について認知が高まっています。

私たちも起業家向けメンタルサポートの「escortをリリースするにあたってたくさんの発信の機会をいただき、その認知の高まりの一端を担い貢献している手応えを感じています。

また、最近では過去に抱えたメンタルの問題について発信する起業家さんも増えてきた印象があります。

一方、メンタルヘルスの問題は代表者に限ったことではありません。先日、大柴さんもこんなことをつぶやいていました。

起業家のメンタル問題はカミングアウトされてきた。次は「No2のメンタル問題」にもスポットあてていきたいと個人的には思ってる。

まさにその通りだと思います。

escortの現場でも、代表者は元気だけれどNo.2や周囲の役員が不調をきたしてしまっているケースを多く見かけます。

そこで今回は、過去にベンチャー企業のNo.2としても活躍され、現在はベンチャーキャピタリストとして起業家支援を行なっている大柴貴紀さんに詳しくお話を伺いました。

大柴貴紀さん プロフィール
1976年東京生まれ。忍者システムズ(現サムライファクトリー)にWebデザイナーとして加わり、取締役、監査役、SEO事業をメインとする子会社社長などを歴任。 退職後は2014年3月よりEast Venturesにてフェローに。現在は、BASE、CAMPFIRE、フラミンゴなどを中心に20社ほどお手伝いをして過ごしている。
本業の傍ら、個人的活動として、2012年より運営しているブログ「インターネット界隈の事を調べるお」の更新や、THE BRIDGE「隠れたキーマンを調べるお」の連載などの執筆、数社のコンサル的なものも行う。


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櫻本 たくさんのスタートアップを投資家としてご覧になっていらっしゃる中で、起業家のメンタルヘルスの問題についてどんな風に感じておられますか?

大柴 起業家も、従業員も、ボードメンバーもみんなリスクは同じだと思ってます。どのレイヤーもそれぞれ固有の問題があり悩みを抱えてますよね。
起業家に関してはいままであまりスポットが当たっていなかったように感じているので、昨今の流れはいいことだと考えています。

そして起業家以上にスポットがあたりにくいと感じてるのが「創業メンバー」であったり、「No.2」であったり、そういったレイヤーのメンタルヘルス問題だと思うんですよね。

僕も長い間No.2としてベンチャー企業で仕事をしていましたがやっぱり辛い時期があり、クリニックに通ったり休職したりしたこともありました。

櫻本 大柴さんも調子を崩されていた時期があったんですね。もしよろしければ少し詳しく聴かせてください。

大柴 はい。二度ヤバい時期がありました。最初の時は、経営企画と営業部門、そして開発部門も管掌する取締役だったんです。
ほぼ会社の全部なんですけど(笑)。とにかく激務で、疲れ果てたんですよ。理不尽に思えることも重なって「心の中にあるストレスを溜めておくバケツ」があふれてしまいました

櫻本 二番手という立場は「代表者が苦手としていることや手がまわらないところを巻き取る」というような位置付けでもあり、役割が幅広く自由度が低くなりがちですよね。
リソースもないベンチャー企業では、その激務を任せられる相手もいなくて抱え込まざるを得なかったり

大柴 はい。それで会社を辞めようと思ったのですが他の役員の協力などもあり、監査役として残ることになりました。

監査役が取締役に比べて「軽い」とは思っていないですが、これまでに比べると穏やかなものでした。せっかくだから「新しいタイプの監査役」でも目指すかと新たなモチベーションで監査役を務めました。

新しい役割につくことで回復していったんですが、結局一年も経たずに取締役に復帰することになってしまったんです……。不安はあったのですが、会社の状況を考えると僕が取締役に復帰する必要性があって。

そんなこんなで取締役に復帰したものの、会社の状況は(多少は改善したものの)不安定であったし、僕自身も不安定でした。半年で体重が10キロ近く減っちゃいました。

取締役に復帰して不安定ながらも仕事に打ち込んでいたんですが、結局また「バケツ」があふれてしまったんですよね。前回よりも激しくあふれてしまって。「もう無理」ってなりました。

一番は理想と現実の大きさを痛感して苦しくなってしまったことですかね。理想通りに経営できず、自分の力の無さ、責任を痛感して、苦しく、悲しくなりました。社内で自然と涙が落ちたこともありました……。コミュニケーションにおける齟齬からちょっとした事件もあって、それで一気に。

最寄駅から家に向かう途中のファミレスで「無理なので、明日から休職します。」と取締役メーリングリストにメールを打ちました。

とりあえず1ヶ月休職することにしました。近しい人に心を崩した人がいたこともあり、なるべく早いタイミングで休まないとマズいという感覚があったので。
自分としてはそれなりに早めの決断ができたんじゃないかと思うんですが、ひょっとしたら遅かったのかもしれない。タイミングに関してはよくわかりません。

櫻本 うつになってしまう方はずいぶんしんどい状況でも、「まだ大丈夫」と我慢してしまうケースが多いんです。少なくとも、半年で体重が10キロ落ちる間には相当なストレスがかかっていたことと思います。

起業家や役員としてバリバリやられてる方なら、なおさら「自分がいないとどうにもならない」と感じられて、タイミングが遅くなってしまいがちなケースが多いように思います。

そんなとき、代表者であれば究極的には「自分の責任だから」と休む意思決定ができることもありますが、強い代表者がいるときのNo.2というのは高い目標や期限に追われて、なかなか自律的に仕事量をコントロールすることが難しいですよね。

大柴 そうですね、タイミングが難しいです。自分では判断難しいんですよね。そういった時に客観的にアドバイスしてくれる人がいるといいなって思いました。って思いました。

櫻本 「自分では判断が難しい」というのはその通りだと思います。メンタルヘルスの体験というのは振り返って語られることが多くて、渦中にいるときは自分自身がそういう状態であることに気づいていないケースも多い
だからこそ「いつ」「誰に」相談していいのかわからずに深刻化してしまうことが多いです。

それに、渦中にいるときは「今逃げたらおしまいだ」みたいに感じておられることが多いんですよね。だからギリギリまで頑張ってしまう。

ちなみにその時には病院などには行かれたんですか?

大柴 はい、休職直後に行きました。心療内科に行くのは初めての経験だったので、少し緊張しましたね。

担当の先生は女性の方で、ちゃきちゃきした感じの方でした。結論から言うと相性は良かったような気がします。
「無理して走っていたけど、リタイアしたようなもんだから気楽に歩けばいいよ」みたいなことを言われました。僕にとってはその「気楽に歩いていい」という言葉がお墨付きのように思えて、救われた気がします。

櫻本 それまではきっとリタイアすることへの不安が大きかったんですね。そしてその小さな一言が救いになった。

大柴 そう思います。「気楽に」を自分なりに考えて、これからの人生どうやって生きていくかを考えた結果、まず取締役を再度退任するところから始めました。そしてまずは自分のペースで何かを創っていくのが良さそうだという考えに至り、サイトをたくさん作ったり、ブログを作ったりしました。『調べるお』もその頃に作ったブログの一つなんですよ。

櫻本 そうだったんですか。休職中の取り組みが、大柴さんにとっては代名詞のようになっているんですね。一度お休みしてじっくりご自身と向き合ったことから得られたものでもありますね。

大柴 そうなんです。『調べるお』は作ってから丸7年経ちます。だいぶ経ったなぁ……。会社に復帰して3年後に退職をし、現在のEast Venturesでの仕事を始めました。たまにクヨクヨすることもあるけど基本的にはもう大丈夫、だと思ってます!

2011年に一度小休止したことによって新たな世界を見ることができたし、当時は辛かったけど復活した今になってみれば良い経験だったなと。

櫻本 休むことで道が閉ざされることを恐れていたところが、実はより広い世界が見えるようになるというのは、よくあることかもしれませんね。そのときに支えてくれた先生についてはどんな印象が残っていますか?

大柴 あの時あの先生に診てもらって良かったなと思います。敢えてなのかどうなのかはわからないけど、サバサバとした雰囲気でアドバイスをくれました。暗く重い雰囲気だったら余計に気分が沈むし、良い意味で「たいしたことない」という雰囲気で接してくれたのは良かったです。

もしかしたら日頃から悩みを相談できる友達などがいたら良かったのかもしれない。でも込み入った悩みってなかなか近しい人に相談できないですよね。そんな時に信頼できる先生であったり、頼れるカウンセラーがいりすると良いのかなって思います。

定期的にバケツの水位をチェックし、あふれる前にカジュアルに対処できる術を現代人は身につけておいた方が良いのかもしれません。あとは相性ってすごく重要だと思うので、自分に合ったカウンセラーを見つけておくのは今すぐにでもやってもいいかも、と思います。

櫻本 私たちも、できれば「バケツがあふれる」前に何とかできたらいいなと思ってcotree(オンラインカウンセリング)やescort(起業家向けメンタルサポート)を運営しています。誰かに話すことを通じて自分を客観視するだけでもずいぶん違うと思うので。

実際、健康な時に一度コーチングを受けていただいて、「何かあったらいつでも担当者にご連絡くださいね」とお伝えし、不調を感じた時に少しでも声をかけていただきやすい仕組みを作っています。

「メンタル不調に早い段階で気づくことができる」こと、そして「不調時に話し合える第三者を持っておく」ことがメンタルの問題の深刻化を防ぐために必要なことかもしれません。

大柴さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。

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編集後記

今まで光を当てられることの少なかった「ベンチャー企業のメンタルヘルス問題」。特にNo.2や役員は、「自分でコントロールできる範囲の少なさ」や「元来のサポーター的な性格特性」などから、代表者とは違う種類のストレスを抱えこみやすい存在です。

ベンチャー企業は人の出入りが激しいために、メンタル不調による退職が起こっても「よくあること」「あいつは向いてなかった」などと安易に片付けられがてしまい、同じ問題を繰り返してしまうケースも頻繁に見かけます。

もちろん避けられないケースもあるのですが、本人の意識や代表者の関わり、採用方針、仕事上のコミュニケーションで変えられることも多くあります

起業家向けメンタルサポートescort( https://es-cort.co )では、スポンサーとなってくださっているVC等の支援先の代表者様には無料で性格特性のアセスメント・コーチングを受けていただくことできます。代表者自身が自分のメンタルヘルスの状態を維持するに当たって注意すべきことや、チームとの関わりにおいて意識すべき点などについても学んでいただくことができます。

代表者以外の方やescortスポンサーの投資を受けていない方など、有料での利用をご希望の方は、自身がストレスを受けやすい状況や対人関係の癖について理解を深めることができる性格特性アセスメント+コーチング( https://es-cort.co/assessment )をご用意しています。(現在キャンペーン中につき1回のアセスメント+コーチング30,000円が15,000円で受けられるので、大変お得です…宣伝です…)。

いざ生じたときに誰に相談していいのかわからないのがメンタルヘルス問題です。何かが起こる前に意識を高めておくこと、何か起こったときに相談できる相手を持っておくこと。cotree(およびescort)は、そんなことにお役に立ちたいと思っています(文責 櫻本)。

photo by Toru Harada @maron10ru3

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