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自分を支配する物語との決別

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好きな映画が象徴するものは、自分が安心する物語だったり、憧れる物語だったり、深く心を動かされる物語だったりする。

うちの会社の戦闘系メンバーはダークヒーローものが好きだし、当事者運動系メンバーは反権力を描いた映画が好きだ。好きな映画の構造は、その人が生きている物語の構造とも似ている。

私が好きな映画を聞かれていつも思い出すものに、ライフ・イズ・ビューティフルと、ニュー・シネマ・パラダイスがある。私は概してヒューマン系が好きなのだけど、そのふたつを好きな理由については「その中でも特にイタリア映画の明るい雰囲気が好きなのかな」などと適当なことを考えていた。でも、そうじゃないな、と気がついた。

同じ映画が好きでも、印象に残っているシーンは人それぞれだと思う。私がライフ・イズ・ビューティフルとニュー・シネマ・パラダイスのことを考えたとき、決まって思い出して心が動くシーンは、父親(的な存在)との別れの瞬間だ。

ライフ・イズ・ビューティフルでは、強制収容所という最悪の状況の中で、人生を楽しみながら生き延びる力を息子に与えて、喜劇のように息子の前を通り過ぎ、見えないところで射殺される父親の笑顔。

ニュー・シネマ・パラダイスでは、息子のようにともにいたトトを「人生はお前が観た映画とは違う、もっと困難なものだ!自分のすることを愛せ。子供の頃、映写室を愛したように」と送り出すシーン。「アルフレード!」「トートー!」と互いを呼び叫ぶ声。

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わたしの父は、わたしが小学生の頃、突然にいなくなった。

クリスマスの翌日、趣味だった雪山でのアイスクライミングに出たきり、仲間4人と一緒に行方不明になった。ヘリコプターや何百人の力を借りた大掛かりな捜索活動の末、発見されたのは1週間後。大きな雪壁の麓、降り積もった雪の中からだった。

お通夜でもお葬式でも、父の顔は見せてもらえなかった。まだ幼い子供達には見せられない、と親族が考えたのかもしれない。父を最後に見たのは、山に向かう前、空港で別れるときにずいぶん長い間手を振っていた姿だ。

私は特段父親っ子だったわけではないけれど、そのあとしばらくの間の記憶は残っていない。最初の記憶は、少し遅れて登校した冬休み明けの教室、心配そうなみんなの「大丈夫?」という声がけに、なにも感じられないままに「だいじょうぶ」と答えたことだ。

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その頃からだろうか。「それ」はもしかしたら急に私の前からなくなるのかもしれない、という怖さに囚われる瞬間がある。だから、私は必要以上に特定の人や組織に自分の存在を委ねることを恐れていたり、「それ」がある前提で未来を見据えることが苦手だったりする。

一方で、「父」なるものの不在を生きてきたせいなのか、そうしたものには憧れの気持ちがある。揺らがない信念、安心できる存在感、任せられる信頼感、ある種の権力。そういうものに憧憬をいただきつつも、それはいつか突然に失われるのだと恐れ、別れを悲しんでいるのが、私が生きる「物語」だったのかもしれない。

突然に訪れる別れは悲しい。だけど、大切な人との別れは、人生に深い意味をもたらしてくれている。恐れることはない。

そんなメッセージを「ライフ・イズ・ビューティフル」や「ニュー・シネマ・パラダイス」の中から受け取ることで、私は救われていたのだと思う。

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父なるものへの憧憬と、突然に訪れる別れへの恐れと悲しみ、そしてその先に続いていく人生の意味への希望。

不覚にも囚われていたこの物語について思いをめぐらせながら、今までの自分自身を振り返り、「これからもわたしはこの物語を生き続けたいのだろうか?」と問い直した。

答えはまだわからないけれど、答えが「No」なら、新しい物語をつくりなおせばいい。今囚われている物語が必ずしも私が生きられる唯一絶対の物語ではないということが、救いだと思った。

自分の物語は、自分で選ぶことができる。

そこで初めて「それでも今の物語を選ぶ」ことの意味が浮かび上がってくるのだとも思う。

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スタートアップ x カウンセリング/コーチング。 京都大(教育)→ゴールドマン・サックス(株式アナリスト) →cotree代表取締役。Soarの理事も。Twitterもぜひ@marisakura

コメント2件

『自分の物語は、自分で選ぶことができる』
今の私にはズドンと響きました。
そして、自分で作るしかないのですよね。
自分の物語に囚われる感覚すごく共感できます。
僕もそこが今居たい場所ではないから変わろうとしています。
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