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U理論と、マインドフルネスと、こんまりと。

最近流行っているいくつかのものに共通点があるとすれば、そこには「時代性」とも言えるものが反映されているのだと思います。今日はU理論とマインドフルネスとこんまりという、全く違う3つの「流行」から、今の「時代性」を考えてみます。

U理論

最近、リーダーシップ論の中で話題になることが多かった「U理論」。もとはと言えばオットー・シャーマンが2000年代半ばに提唱しはじめた手法です。非共感的で非生産的な行動パターンを打破するために提案されたもので、過去の延長線上にはないイノベーションや組織変革のための手法としても紹介されます。きっと組織に関わっている人には聞いたことがない人はいない理論なのではないでしょうか。

私たちは世界規模で、環境問題の悪化、終わりなき飢餓と貧困、テロと戦争…社会システムの機能不全の時代に生きています。(中略)より意識的に、意図的に、そして戦略的なアプローチでこれらの課題に取り組むためには、新たな集合的な意識とリーダーシップが絶対不可欠です。そしてそのような能力を開くことが、私たち人間がより大きな可能性に満ちた未来を生み出すことを可能にするとU理論は伝えています。(*)

これがU理論の全体像。

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Uを下る(手放す)
①ダウンローディング(過去のパターンをおろしてくる)
②観る(従来の枠を保留する)
③感じ取る(視座を転換する)
Uの谷(源につながる)
④プレゼンシング(全体性から未来が出現する)
Uを上る(迎え入れる)
⑤結晶化する(言語化する)
⑥プロトタイピング(アイディアに形を与えていく)
⑦実践する(世の中に提供していく)

それまで囚われていた枠組みに気づき、視点を変え、新たな気づきを得て新しい価値や視座を具現化していくという流れ。実践がないとなかなか実感は伴いにくいけれど、こうして見ると、それほど不思議なことではありません。

マインドフルネス

これもきっとビジネスマンで聞いたことがない人は少ないのではないでしょうか。2007年にGoogleが開発した、リーダーシップや集中力を高めるためのマインドフルネスプログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ」が有名です。

「マインドフルネス」という手法自体は、今この瞬間に意識を向ける、仏教でいう瞑想に近い手法であり、心理療法のひとつとして従来から(1970年代活用されていたものの、Googleがプログラムに取り入れて以降、飛躍的にビジネスマンへの知名度と浸透度が高まりました。

その開発者は、このように語っています。

もともとの目的はとてもシンプルなんです。私がやりたかったのは、世界平和のための条件を整えることでした。そして、3つのスキル「内なる平和・内なるJOY(喜び)・コンパッション(深い思いやり)」を世界に広められれば、世界平和に通じる道が開けると考えたのです。そして、私が知りうる限りで最も有効な普及法は、「平和・JOY・コンパッション」を「成功と利益」と結びつけることでした。(*)

内なる平和、喜び、思いやり。これまた精神性が高い感じがします。そしてそうした「精神性」と「利益」を結びつける、という表現も印象的です。これがまさに世界で受け容れられたる視点だったのでしょう。

常に新しいカテゴリーを創造する:マインドフルな状態であれば、旧来の分類方法やレッテルにとらわれることなく、状況や文脈に注意を払い、新たな特徴を見出すことができます。新たな情報を積極的に受け入れ、物事をさまざまな視点から捉える:マインドフルな状態は、カテゴリーを創造できるだけでなく、常に新たな情報を受け取り、新たな可能性に対してオープンになることも意味します。結果よりも過程を重視する:マインドフルな状態は、結果についてあれこれ心配するのでなく、ひとつずつのステップに意識の焦点を当てる状態です。(*)

これもまた、現在の囚われから解き放たれ、今ここのあり方(Being)に意識を向けることで新たなものを感じ取り、次の創造を生み出す手法として提唱されています。

こんまり

こんまりさんが「人生がときめく片づけの魔法」を出版したのは2010年。それは40か国で翻訳され、2015年、米『TIME』誌の「最も影響力のある100人」に選ばれるなど、世界的なブームになりました。

全てのものに居場所を与え、ときめく(Spark Joy!)ものだけを残して捨てていく。

「おうちにあいさつしていいですか」とクライアントに宣言した近藤は、部屋のなかで適切なスポットを探し、「このあたりかな」と場所を決めると、正座して瞑想しながら、心の中で家にあいさつし、家とのコミュニケーションを取るのだ。(*)

片付けの技術かと思いきや、かなり精神論的要素を含んだものになっています。実際、こんまりさんはこんなふうに言っています。

片づけを通して自分の内面をみつめ、自分が大切にしている価値観を知ることで、二度と散らからない家をキープできるだけではなく、キャリアや人間関係など、人生における全ての選択において大きな変革をもたらします。(*)

U理論、マインドフルネス、こんまりの共通点

U理論、マインドフルネス、こんまりという一見何のつながりもない近年の流行に共通点があるとすれば、それは「気づかないうちに囚われている枠組みやレッテルを手放し、自分の中に新たな価値を選び取る余白をつくる」ということでしょう。そもそもの本質が、仏教的な「手放し」の思想に原点を置いているように思います。

リーダーのためのU理論と、ビジネスマンのためのマインドフルネスと、生活者のためのこんまりと。

「手放す、そして選び取る」

それはすなわち、成長と富を追い求め、心の容量がいっぱいになって余裕なく苦しんでいる現代人に贈られる解放の呪文なのかもしれません。

これは、多くの価値体系の中からそれぞれのあり方を選びとる自由と複雑性に耐え続ける不自由を与えられ、その中で新しい価値を生み出し続けることを求められる時代だからこそ、必要とされる方法論なのだと思います。

日本でなく、欧米で流行する理由

一方で、これら全てが「欧米では流行っているけれども日本ではそれほどでもない」という点も注目に値するように思います。

U理論は、さかんに提唱されるほどには実際に日本でその価値を体感した話を聞くことは多くないですし、マインドフルネスは、関連アプリがユニコーン(10億ドル企業)になるくらいにアメリカでは流行していますが日本では当初期待されたほどは普及が進んでいません。「konmari」も、もちろん日本発ではありますが、むしろアメリカで「ブーム」と言える現象になっている。

これにはいろんな仮説が考えられるかと思いますが、一つにはそもそもこの「手放す」という思想自体が仏教的であり、日本人にとっては欧米ほどに新鮮さを持って捉えられなかったということ。

ひとつの価値基準を信じ、PDCAサイクルをまわし、成長に向かい、富は豊かさだと信じる。

こうした価値観からの脱却がこれらのメソッドなのだとすれば、日本という文化に根付いた「関係性を重視する文化」「円環的な時間意識」といった価値観に鑑みれば、日本人にとっては「もといた場所に帰る」という感覚なのであって、改めて「ブーム」をつくりだすほどの新しい現象ではないからなのかもしれません。

多様な価値の中から「ときめき」を見出す世界観は、今の時代にこそ必要なことでもあり、日本人にとっては「原点」であるのかもしれません。

7/14追記:そんなことを考えていたら、プラユキ・ナラテボーさんが、U理論を仏教の理論で解説してくださいました。

なるほど…!納得感。

U理論、マインドフルネス、こんまり、仏教が根っこでつながっていることを確信した瞬間でした☺️

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