📗今日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『隠れたところで見てくださっている神』
マタイの福音書第6章1～8節、16-18節　2024年4月28日

1人に見せるために人前で善行をしないように気をつけなさい。そうでないと、天におられるあなたがたの父から報いを受けられません。
2　ですから、施しをするとき、偽善者たちが人にほめてもらおうと会堂や通りでするように、自分の前でラッパを吹いてはいけません。まことに、あなたがたに言います。彼らはすでに自分の報いを受けているのです。
3あなたが施しをするときは、右の手がしていることを左の手に知られないようにしなさい。
4あなたの施しが、隠れたところにあるようにするためです。そうすれば、隠れたところで見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。
5　また、祈るとき偽善者たちのようであってはいけません。彼らは人々に見えるように、会堂や大通りの角に立って祈るのが好きだからです。まことに、あなたがたに言います。彼らはすでに自分の報いを受けているのです。
6あなたが祈るときは、家の奥の自分の部屋に入りなさい。そして戸を閉めて、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたところで見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。
7また、祈るとき、異邦人のように、同じことばをただ繰り返してはいけません。彼らは、ことば数が多いことで聞かれると思っているのです。
8ですから、彼らと同じようにしてはいけません。あなたがたの父は、あなたがたが求める前から、あなたがたに必要なものを知っておられるのです。

16　あなたがたが断食をするときには、偽善者たちのように暗い顔をしてはいけません。彼らは断食をしていることが人に見えるように、顔をやつれさせるのです。まことに、あなたがたに言います。彼らはすでに自分の報いを受けているのです。
17断食するときは頭に油を塗り、顔を洗いなさい。
18それは、断食していることが、人にではなく、隠れたところにおられるあなたの父に見えるようにするためです。そうすれば、隠れたところで見ておられるあなたの父が報いてくださいます。

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　最近、ある牧師先生が、能登震災支援のために、全国から献金を集めて、その結果、何万何千何百何十何円が集まって、その金額をあるクリスチャンの慈善団体に送金いたしました、ということをＳＮＳに投稿していらっしゃいました。
　そうしたら、そのコメント欄に、ー正確な文言は忘れましたがーある方が、「ＳＮＳにそんなことを書くとは、それは偽善ではないですか？と、しかもそんな金額まで言い広める必要は無いのではないですか？」というような書き込みをしていらっしゃいました。
　そうしたらその元の投稿をなさった先生が、非常に謙虚に、ありがとうございます、と。この投稿は、皆さんへの報告をも兼ねておりますので、金額も書かせていただきました、と。私ももっと謙遜になれるように、精進いたします。というようなことを書いていらっしゃいました。

　これは、投稿なさった先生にも、それに対して批判のコメントをなさった方も、どちらが間違っているということは無いと思います。両方もちろん根拠があると思います。私がちょっと想像しますのに、批判なさった方の念頭にあったのは、おそらく今日のみことばなのではないかな、と思うわけです(別のみことばかもしれませんが)。「施しをするときに、右の手でしたことを、左の手に知らせるな」このイエス様のことばですね。有名なことばです。こういう善行はクリスチャンはこっそりすべきである、というのは一方でよく分かる気がします。キリスト教倫理でよく言われることですね。
　でももう一方で、全国から献金をお寄せいただいたのだから、それをおかしな団体に流していない、いいかげんに扱っていない、と、というのは、―世の中には統一教会のフロント組織であった「野の花会」のように、集まった募金の一部だけ慈善活動に回して、あとは全部統一教会の収入にしているような団体もありますからね―やはり透明性を確保して、金額も送金先も書いて説明責任を果たすということの方が、倫理的という考え方もあるわけですね。今はこちらの倫理の方が、多分より大事なんだと思います。それは聖書で、一方でパウロが、手紙の中で、きちんと会計報告をしている、ということを語っている箇所があることからも読み取れるわけですね。

　さて今日は、イエス様の山上の説教の続きです。途中で主の祈りが9節以降で出て来るんですけれど、それは別の日で説教で取り上げたいので、今週は1～8節、飛んで16～18節とさせていただきました。

　「偽善者たちのようであってはいけません。」「隠れたところで見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。」と繰り返されています。それはどういうことをする時になのか、当時、ユダヤ人にとって、信仰深さをはかるためのバロメーターにもなっていたと言いますか、ユダヤ教の善行と言えば、これでしょ、というのが、3つありました。施しと、祈りと、断食です。信仰深さというのは、もちろん心の中のことですから、外からは見えません。けれど、当時のユダヤの中では、こういうことをちゃんとしていたら、「ああ、あの人は立派にやっている。信心深い、素晴らしい人だね」と尊敬されるというような文化が育っていたわけです。
　それでその３大善行と呼ばれているものの枠組みをそのまま用いて、イエス様はお語りになっている。それは、同じ山上の説教で、イエス様はこうおっしゃいました。

新約聖書　マタイの福音書第5章20節

わたしはあなたがたに言います。あなたがたの義が、律法学者やパリサイ人の義にまさっていなければ、あなたがたは決して天の御国に入れません。

　このことばから、ずっと、じゃあ、律法学者やパリサイ人の義にまさる義とは何か、という視点で話が展開して行っているわけですね。先週の「敵を愛せよ」という愛敵の教えもそうですし、パリサイ人律法学者は、抜け道つきの口伝律法を教え広めているし、さらには、ああいういかにも人の目につく分かりやすい善行をしているけれども、それを真に受けちゃいけないし、あなたがたはマネをしてはいけない、そういう視点で、話が進んでいるわけです。
　ということは、律法学者やパリサイ人たちの善行は、いかにも素晴らしい信仰者の行ないに見えるけれども、それは表面的なものに過ぎないのだということは、イエス様が別のシーンでも次々と明らかになさっていますが、まぁ、目立つことをやっていたわけです。

　施しをする時、つまり貧しい人への支援活動をパリサイ人律法学者たちは熱心にやっていました。しかし、その時に、ラッパを吹くっていうんですね。今から施しをします、と言ってラッパを吹く、これは聖書学者によって、本当にラッパを吹いたんだ、という人もありますし、いやこれは比喩的表現で、自分のやっていることを吹聴したんだ、という人もあります。文字通りか比喩的表現かはあまり関係ないかもしれません。大事なことは、これが「ほめられるため」という動機でやっていたことが大事なポイントなんですね。

　そして祈る時、人々に見えるように、会堂や大通りの角に立って祈るのが好きだからです。と痛烈な批判をイエス様はなさっていますけれども、パリサイ人律法学者たちは、本当にそれをやっていたんですね。
　当時、朝9時と午後3時、決まった祈りの時間がありました。それに加えて、さらに正午にも祈ることを習慣としている人がいました。だから9時、12時、15時ですね。この時間にわざわざ人通りが多いところに出てきて、そして(手を組んで)こういうやつじゃなくて、黙とうでもなくて、当時のユダヤでは、手をあげて「主よ～」って。口に出して祈るんですね。分かりやすく大声で祈ったでしょう。これも、ほめられるためです。自分の評価が上がるためです。

　そして断食ですね。断食は、心も体もすべて集中して、神に身をむけるための一つの努力です。さらにもう一つの意味がありまして、断食は、苦しみの表現、悲しみの表現であったということですね。パリサイ人律法学者たちは、わざと暗い顔をして、顔をやつれさせる。やってる感を出して、苦しいことやってますアピールですよね。こういうことをやっているけれども、これもほめられるためである。こういうことをしていると、実際にやはり、当時の文化では、「ああ、立派な先生ね」ってほめられたそうなんですね。
　イエス様はそこで、あなたがたはそれをマネしてはいけない。頭に油を塗り、顔を洗いなさい、つまり、元気そうに見せなさい。断食してます、ということを人に見せないようにしなさい、とおっしゃるのです。

　これらの3つのことについて、イエス様は、あなたがたはそれを真似してはいけない。それは偽善者の行動だ、あなたがたは隠れたところで、それらのことをしなさい、と呼びかけておられるわけです。

　そうしますと、色々と現代の私たちの信仰生活や、教会生活に適用して、これはどうだろうか、あれはどうだろうか、という話が出て来るわけですね。

　説教の冒頭であげた被災地支援の話もその施しの適用の一例です。じゃあ隠れた施しとパリサイ的な施しとは何か？ということで、他には、プロテスタントのある教団では、ある地方の１つの教会の婦人会だか青年会だかで、こんなことをしました、ということを、教団の誌面に載せたそうなんですね。そうしますとその教団内の全国の教会にそれが知られてしまいますので、そんなことを載せてどうする？善行は隠さなければならない、と言う方もいらっしゃいました。
　またある方は、こんなエピソードも書いていらっしゃいました。救世軍の社会鍋というのがありますよね。この社会鍋に、給料の全額を入れたかのような金額が、毎月入っていたことがあるそうなんですね。ささげたご本人は、絶対に名前を出さないで隠していらっしゃったそうですけれども、確かにそれは物凄い立派だな、と私も思うんですけれども、そういう話を聞かされますとですね、私にはとてもできない、というふうに劣等感になってくるんですね。

　続いて祈りについてですが、人に聞かせるためではなくて、奥まった部屋で、一人で密室で祈る、これがアシュラムの精神でもありますけれども、よくこの箇所で、考えられることは、公(おおやけ)の祈り、についてなんです。
　皆がいる所で神さまに祈る。当時のユダヤのように、道の目立つ四つ角で祈ることはまずないでしょうけれども、こんにちであれば、会堂、教会堂ということで、教会の礼拝でですね、長老さんなどが司会をして、長く立派な祈りを祈る、あるいは平日水曜か木曜の夜の祈祷会で長い立派な祈りをする。そうすると、あれは立派な、形も整った、素晴らしい祈りだなぁ、と思うことがあるわけですね。
　でもこれらのことには、疑問を覚える人もいまして、イエス様がここで、異邦人の祈りを批判して、「彼らはことば数が多いことで聞かれると思っているのです」と言っているではないか？長々とした祈りはよくない。そう批判することもできるかもしれない。
　他にもですね、たとえば牧師がつい、礼拝説教の後の祈りで、説教の補足、あるいは説教のまとめのような祈りをして、会衆に教えることを目的とした祈りをしている、これでは心が神に、ではなくて、人に向かっている。人に向けてのことばなら、それは祈りではない、そういうふうに、この箇所からおっしゃる神学者もいるんですね。

　そして断食についてですね。これは私たちの生活にそのまま適用することは難しいかもしれません。キリスト教会には、断食の習慣があるところもありますけれども、ないところの方が多いと思いますね。けれども、もうちょっと意味を広げますと、苦しいことをやってますアピールなんですよね。
　そうしますと、教会生活、信仰生活にあてはめますと、これだけ奉仕しています、これだけ伝道していますとか、そういうアピールになるわけですね。教会の働きで寝てない自慢とかですね、そんなことになってくるわけです。

　そういったことで、ざっとですけれども、施し、祈り、断食、こういったものを、現代での適用についてよく言われていることを挙げて、また考えてみました。
　でそういうふうにしますと、何か教会生活、信仰生活のやってはならない、あるいはやるべきことチェックリストみたいなものが頭の中にどんどん増えて行くような気がして、どんどん縛られて窮屈になって行くような気がするんですよね。
　ではそういう頭の中のチェックリストを日々チェックしてですね、何か完璧に、守ることができたら、オッケーということになるんでしょうか？そうすると、それでも、いや、もっとイエス様のことばを細かく適用すれば、これもダメあれもダメということになってくると思うんです。どんどん新しい、現代版の口伝律法が増えてくるわけです。

　では私たちはどうすればいいのか、細かいチェックリストを作ってもおそらくあんまり意味はありません。アピールを封じるだけでは、人の心は別の形でのアピール方法を考え出すものだからです。
　ではどう考えればいいか？私たちの心が、実はいつもパリサイ的である、ということを覚えることが大切だと思うんですね。聖書を黙想するの時のポイントは、罪ある者に自分を重ねる、ということでもありますから。そして、その表面的なリストではなくて、心の奥にあるものを見つめる必要があると思うんです。

　パリサイ人や律法学者の心の態度を、言い表すのに、現代では便利な言葉がありますね。承認欲求、という言葉です。なぜ宗教熱心アピールをするのか？それは、7～8年前か10年前の私におきかえて考えると、クビになることへの恐れであるとか、要らないヤツ扱いされることへの恐れがありました。まぁ今となってはそんな恐れは無いわけですが、当時の律法学者にも、そういう恐れがあったのかもしれませんから、一所懸命アピールした、ということもあるかもしれません。
　まぁ承認欲求は、人間である限り全員あるものですから、別に悪いものとは言えないんですけれども、承認欲求が強い人と弱い人があると思います。特に子供の頃に両親や両親に代わる人に、ありのままで愛された経験が無いもしくは乏しい人に多いような気がします。そうしますとですね、もう愛は条件付きでもらえるもの、という思考パターンになりますので、その条件を満たしている者であるかのようにふるまうわけですね。過剰にアピールやパフォーマンスをする、時には自分を偽ってでも、つまり、演技をするわけなんですね。

　それで今日イエス様がおっしゃっている「偽善者」ということばは、もちろんここではパリサイ人律法学者を指しているわけなんですけれども、ここで偽善者と訳されているギリシャ語は、役者っていう意味なんです。ギリシャの演劇で、仮面をつけて役を演じる。一人何役も演じることが当時あったそうで、仮面を付け替えると、別の人物の役になったそうですね。
　これは痛烈なことばですね。でもよく分かるような気がするんです。人生において何かを演じて生きることの悲しさであったり、切なさであったりというのは痛いほど分かる気がするんです。

　私は東京で音楽の制作会社で働きましたけれども、まぁその前の音楽専門学校に通った時代も含めても、90年代のいわゆるＪポップの曲をいっぱい聞いていたんですね。それらの歌詞には、正確な文言じゃないと思いますけれども、やはり時々、「誰かになれないことの悲しさ」とか「自分じゃない何かを演じることが悲しくて」であるとか、他にも「あるがままの心で生きられぬ弱さを、誰かのせいにして過ごしてる」とか、そんなのがありまして、凄く共感したんですね。
　とにかく凄いヤツを演じなきゃいけない。そうでないと相手にされないから、と思う。
　おまけに私は、家庭においては、心理学の言葉を使うなら、アダルトチルドレンだったんですね。これは子供っぽい大人という意味ではありません。心理学の言葉で、ざっくり言えば、家庭において子供であるはずなのに、ある意味での大人の役を演じなくてはならなかった子供たち、という意味ですね。この大人とは色んな意味があって、私の場合は、テストでいい点を取るだけのためのマシーンみたいに自分のことを思っていました。いわば優等生の演技をして家庭の中の緩衝材を演じるんですね。こういう人は大人になってから生きづらさを感じるんです。ありのままじゃダメだって強く感じるんですね。
　これは一概に親が悪いとは言いません。なぜなら、あの時代は、受験戦争、というのよりは少し時代が過ぎていたかも知れませんけれども、人間を数値化して評価して、資本のための道具化、商品化をして、上へ上へ、右肩上がり右肩上がり、という世間全体の価値観が、バッチリ日本の多くの家庭に取り込まれていた側面もあるでしょう。そうして人間が非人間化されるんですね。
　だからありのままじゃダメだ、愛されない、条件付きなら愛される、と思っている。それで、アピール、をするわけなんですけれども、それは違うんだ、ってイエス様はおっしゃるんです。そういう者はすでに報いを取っているのだと。
　これは、領収済みだという表現なんです。領収書をすでに受け取っているんだ、という表現なんです。そのアピールの報酬を、すでに地上で受け取っているんだと。それはどういう報酬でしょうか？もちろんパリサイ人のそういうアピールを見てですね、「わざとらしいな」と思ってしかめっ面をしてみる人もあるでしょうけれども、「立派だね」などと言われて褒められたり、あるいは周りからの評価が上がる、尊敬される、という、無形の報酬が得られるんですね。今のＳＮＳの時代だったら、いいねが沢山付く、ということも含むかもしれません。注目されたら、ある良い役につけてもらえることもあるかも知れません。それが報い、報酬です。ところがこれは、1節でイエス様が、

人に見せるために人前で善行をしないように気をつけなさい。そうでないと、天におられるあなたがたの父から報いを受けられません。

　おっしゃっているように、地上ですでに報いを受け取っていると言うことになるので、天におられるあなたがたの父、つまり父なる神から報いを受けられません、とおっしゃるんですね。
　この報いとは何か？ほとんどの聖書学者は、終末論的な報いのことを言いますね。つまり、天の御国であるとか、救いであるとか、そういう報いなんです。つまり、承認欲求からアピールして、地上で褒めそやされたなら、すでに報いを地上で受け取っているのだから、天国という報酬をいただけない、天国に入ることはできない、ということになれば、これは大変困ったことになると言わざるを得ないと思います。

　私たちは、承認欲求を完全になくすことはできないと思いますし、自己アピールを完全になくすことはできないと思います。これはやはり、前の章の、敵を愛せよ、右の頬を出されたら、左の頬を出しなさい、という教えと同じように、突き詰めていけば、到底人間にはできない高度なことを、イエス様はおっしゃっている、ですからイエス様の厳しい律法解釈というものは、―これはイエス様の解釈というよりは、神の律法の本来の意味と心ですね―律法を守ることによって人は救われることはできないことを示し、そして人をキリストに追いやると、そういうことをしてくださっているのだと思います。

　ある牧師がこういうことを言っていまして、私たちがなぜ仮面をかぶるのか、なぜ演技をするのか、それは、人間がひとりぼっちだからだ、って言うんですね。もちろんこれは、人と人との間、というだけではありません。「神と」、人との間、ということです。絶対者である神との関係が結ばれていない、あるいは関係にどこか破れがあるので、安心できない。そうすると相対的な関係を求めるんです。そうして相対的な人と人との関係の中で、日本だと特に世間や、それが流動化したところの空気・場の空気の中での評判を高めたり、はじかれないように演技をするんですね。
　けれども天の父なる神さまは、まさにその仮面の下にいるあなたに会いたいのだ、隠れたところにいるあなたに会いたいのだ、と、そう、今、おっしゃっています。

　神さまは、隠れたところで私たちに出会われます。イザヤ書第45章15節では、

旧約聖書　イザヤ書第45章15節
イスラエルの神、救い主よ。
まことに、あなたはご自分を隠す神。

　と言われている通りのお方なんです。これをルターは「隠れたる神」と呼びました。パリサイ人や律法学者の演技のような、立派なところとは全く逆の相から現れてくださる方なんです。それがひとり子イエス様もそうなんです。苦難のしもべの歌と呼ばれているイザヤ書第53章には、


旧約聖書　イザヤ書第53章1～8節
１　私たちが聞いたことを、だれが信じたか。
主の御腕はだれに現れたか。
２　彼は主の前に、ひこばえのように生え出た。
砂漠の地から出た根のように。
彼には見るべき姿も輝きもなく、
私たちが慕うような見栄えもない。
３　彼は蔑まれ、人々からのけ者にされ、
悲しみの人で、病を知っていた。
人が顔を背けるほど蔑まれ、
私たちも彼を尊ばなかった。
４　まことに、彼は私たちの病を負い、
私たちの痛みを担った。
それなのに、私たちは思った。
神に罰せられ、打たれ、苦しめられたのだと。
５　しかし、彼は私たちの背きのために刺され、
私たちの咎のために砕かれたのだ。
彼への懲らしめが私たちに平安をもたらし、
その打ち傷のゆえに、私たちは癒やされた。
６　私たちはみな、羊のようにさまよい、
それぞれ自分勝手な道に向かって行った。
しかし、主は私たちすべての者の咎を
彼に負わせた。

７　彼は痛めつけられ、苦しんだ。
だが、口を開かない。
屠り場に引かれて行く羊のように、
毛を刈る者の前で黙っている雌羊のように、
彼は口を開かない。
８　虐げとさばきによって、彼は取り去られた。
彼の時代の者で、だれが思ったことか。
彼が私の民の背きのゆえに打たれ、
生ける者の地から絶たれたのだと。

　こういう、評判とか名誉とか、そういうものとは逆の相から出て来るメシアとして、みすぼらしいお姿でご自身を現されるんです。そしてこれは、イエス様の十字架の預言だと言われています。まさしくイエス様の十字架の場面を言い表している不思議な預言の歌です。そしてこれは、神は上から現れるというよりは、私たちがどん底だと思っていたそのところに立っていたその後ろの泥沼から、「わたしはここだよ」と現れてくださった、ということなんです。そういうイエス様を、みじめなヒーローのように思うでしょうか？でも、私たちの泥を全部かぶってくださったんです。十字架によって、私たちの罪を全部かぶって死んでくださったんです。でもそれで終わりじゃなくて、三日目に復活してくださいました。そして天の御国を約束してくださいました。そして地上でも皆さんと共にいてくださいます。

　ヘンリ・ナウエンという方がある本でこう語っています。

「イエスは真に自由でした。イエスの自由は、ご自分が神の愛する子であるという霊的な自覚に根ざしていました。生まれる前から御自分が神のものであり、神の愛を宣べ伝えるために世に遣わされ、使命を果たすと神のもとへ戻って行くことを、存在の深みで知っておられました。そのためにイエスは世にへつらうような語り方をしたり、振る舞ったりしないでいられる自由を持っておられました。そしてまた、人々の苦しみに神の癒しの愛をもって応える力がありました」。

　その癒しの愛で、主は今皆さんを包んでくださっています。隠れたところで常にあなたと共におられる神が、隠れたところでしているあなたの善行、祈り、苦労、ぜーんぶ神さまは「分かっているよ。誰の目に留まらなくても、わたしは知っているよ」と言ってくださっています。そして隠れたところにいる、仮面を外したありのままのあなたを愛してくださっている。そして誰かを演じるのから解放されて、この神と共に生きる本当のあなたを生きることができます。そしていい意味で人の目・人の評判から解放されて、クリスチャンライフチェックリストを守る演技からも解放されて、場の空気に流されない心も与えられます。そして解き放たれた心で愛のわざに励むように、皆さんを招いておられます。

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は御子主イエス・キリストを私たちのためにお送りくださり、律法の本当の意味、本当の心を教えてくださいました。私たちは律法の要求を自分の力では満たすことができません。しかし御子イエス様は、律法を完全に成就するお方として、やがて十字架におかかりになり、私たちの人の前で演技やアピールをする罪、いやそれは神との関係の破れから来るものですので、その根本の罪をゆるし、解決してくださいました。ありのままの、隠れたところにいる私たちに、隠れたところで出会ったくださったあなた様に愛されている者は、大胆に、承認欲求からも自由になって、自由に神と人とを愛して歩ませていただけます。ここにいる、またネットで礼拝しておられるお一人一人を、この主の愛で包んで、世界を愛するためにお遣わし下さい。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。

#左手に告げるなかれ #マタイ6章