✴️礼拝メッセージ『ふるさとの家から聞こえる呼び声』
新約聖書　マタイの福音書第21章23～32節　2023年10月1日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『ふるさとの家から聞こえる呼び声』
新約聖書　マタイの福音書第21章23～32節　2023年10月1日

23　それからイエスが宮に入って教えておられると、祭司長たちや民の長老たちがイエスのもとに来て言った。「何の権威によって、これらのことをしているのですか。だれがあなたにその権威を授けたのですか。」
24イエスは彼らに答えられた。「わたしも一言尋ねましょう。それにあなたがたが答えるなら、わたしも、何の権威によってこれらのことをしているのか言いましょう。
25ヨハネのバプテスマは、どこから来たものですか。天からですか、それとも人からですか。」すると彼らは論じ合った。「もし天からと言えば、それならなぜヨハネを信じなかったのかと言うだろう。
26だが、もし人から出たと言えば、群衆が怖い。彼らはみなヨハネを預言者と思っているのだから。」
27そこで彼らはイエスに「分かりません」と答えた。イエスもまた、彼らにこう言われた。「わたしも、何の権威によってこれらのことをするのか、あなたがたに言いません。
28　ところで、あなたがたはどう思いますか。ある人に息子が二人いた。その人は兄のところに来て、『子よ、今日、ぶどう園に行って働いてくれ』と言った。
29兄は『行きたくありません』と答えたが、後になって思い直し、出かけて行った。
30その人は弟のところに来て、同じように言った。弟は『行きます、お父さん』と答えたが、行かなかった。
31二人のうちのどちらが父の願ったとおりにしたでしょうか。」彼らは言った。「兄です。」イエスは彼らに言われた。「まことに、あなたがたに言います。取税人たちや遊女たちが、あなたがたより先に神の国に入ります。
32なぜなら、ヨハネがあなたがたのところに来て義の道を示したのに、あなたがたは信じず、取税人たちや遊女たちは信じたからです。あなたがたはそれを見ても、後で思い直して信じることをしませんでした。

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　あるアメリカから日本に向かおうとする宣教師のお連れ合いが、日本で生活して行くのに、日本語が分からない、そこで、すでに日本で生活していた先輩のような女性がいたんですね。そこで、彼女に教えてもらったんだそうです。日本で生活していくために、二つのことばを覚えておけばいいんだと。皆さん、その二つなんでしょうか？想像がつくでしょうか？
　それは、アメリカ人はイエスとノーをはっきり言うけれども、日本ではハッキリ言わないんだ、と。イエスの時には、「そうですね」と言いなさい。ノーの時には、「そうですか？」と言いなさい。と。「そうですね」と「そうですか」この二つ覚えておけばそれで日本では生活していけると。
　まぁこれはちょっと極端で、半分笑い話みたいなもので、日本でははっきり答えると角が立つことがありますから、こういうアドバイスも頷けるかもしれませんね。

　今日は、はっきりと、答えることができなかった人たちが出て来ます。それは、パリサイ人や律法学者とは書いていませんで祭司長たちや民の長老たちと書いていますね。まぁいずれにせよ、当時のユダヤ教の宗教的な権力者たちです。この人たちが、イエス様との問答で、はっきりと答えられなくなってしまう、こういうことですね。
　今日のみことばは、前半、後半となっていますね。前半は、そのユダヤ教の権力者たちとイエス様との問答、そして、後半は、それを受けてのイエス様のたとえ話、という構成になっているわけですね。もちろん前半後半は、流れが切れていません。文脈としては、当然続いていまして、問答の一部であると言えます。祭司長たちや民の長老たちに対して、さっきの問答の答えをたとえ話にして教えておられる、ということなんだと言えると思います。

　皆さんは、今日の朗読をお聞きになって、どんな印象を持たれたでしょうか？色んな印象が考えられますし、それぞれどんな印象をお持ちになってもいいんですけれども、一つは、後半のたとえ話に対して、「あれ？こんなたとえ話あったかな？」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
　これはイエス様のたとえ話としては、とっても有名なたとえ話、というわけではありません。ルカの福音書の放蕩息子のたとえ話とか、先週のぶどう園の、皆が1デナリずつの給料をもらった労働者たちのたとえ話であるとか、に比べまして、どっちかというと影が薄い。それも4人の福音書記者のうちのマタイだけしか取り上げていない、というのが、その原因の一つかもしれません。
　
　では前半の問答はいかがでしょうか？気持ちがスカッとするような痛快な話だと思われた方もあるかもしれません。イエス様が、見事に権力者たちを言い負かしてしまう。相手が答えられなくなって、結局「わかりません」と言ってしまう。時代劇のような痛快さをここにお感じになった方もいらっしゃるかもしれません。イエス様は、とってもトンチのきいた受け答えをされた、やはりイエス様は神の子ですから、知恵があるなぁ、という感想を持たれた方もあるかもしれません。
　ところで問答としては、権威問答なんですね。祭司長たちや民の長老たちはイエス様に尋ねました。「何の権威によって、これらのことをしているのですか？誰があなたにその権威を授けたのですか？」
　これは、イエス様が、その前の日に、エルサレム神殿で、宮きよめをなさったこと、そして、宮で教えたり、病人をお癒しなさったり、そして、子供たちが「ダビデの子にホサナ！」と言っているのに腹を立てていたわけですね。
　彼らがイエス様のもとに来て、「何の権威によって、これらのことをしているのですか？誰があなたにその権威を授けたのですか？」
　と丁寧語で翻訳されていますので、権威についての静かに議論をしているのかな、というようなイメージをもしかしたら受けるかもしれませんが、もうかなり、緊迫した、穏やかでない感じなんですね。
　祭司長たちや民の長老たちは、そういう民の上に立つ者としての立場がありますから、もちろん乱暴なことばを使わずに、丁寧なことばで尋ねたかもしれません。けれど、「何の権威によって？」と聞いていますけれども、「誰かに許可もらいましたかね～？誰かラビに律法の教師としての資格認定してもらいましたか～？許可証見せてくださいね～」って聞いているんじゃないんですよ。要するに含みとしては「誰の許可もらってやりゆうがな？俺らぁの認定を受けんと好き勝手やってくれて、お前は何様な？今すぐそれやめてガリラヤの田舎に引っ込んでおとなしくしよれや。そうやなかったら、どうなるか分かっちゅうろうにゃあ」そんな感じで、一刻も早くこのイエスという男を亡き者にしたいというぐらいの勢いで、祭司長たちや民の長老たちはイエス様に詰め寄ったわけです。もう穏やかじゃないですよね。
　そこでイエス様は、落ち着きはらって答えます。

24イエスは彼らに答えられた。「わたしも一言尋ねましょう。それにあなたがたが答えるなら、わたしも、何の権威によってこれらのことをしているのか言いましょう。

　これはですね、もちろん、質問に質問を返すことによって答えることから逃げるという逃げの手法がありますけれども、そういうことではないということが、その後のやり取りからすぐに分かります。権力者たちとイエス様では腹のすわり方が違いますね。イエス様はびくともしないわけですけれども。
　それから、礼儀として、質問に質問で返すな、というのが現代ではありますけれども、質問に質問を返すというのは、この時代のラビたち、つまりユダヤ教の宗教指導者たちの間では、礼儀に反することでは決して無く、問答の手法として、一つのセオリーだったんですね。今の学校の先生でもたまにありますよね。生徒の質問に対して、「うん、いい質問だ。でもその質問に私が答える前に、君にもう一つ質問させてくれ。」と教師が言う場合、教師側の逃げの姿勢ではないですよね。その生徒がどれだけ理解できているか、そして、教師の言うことを理解する準備ができているか確かめるために質問するわけですよね。ユダヤ教の教師の、この質問に質問で返す手法はそれとおんなじなんです。そのセオリーでイエス様が言いましたものですから、祭司長たちや民の長老たちは、そのセオリーには、乗らざるを得なくなるわけですよね。
　そうしたら、その続きの問答はこうです。イエス様はおっしゃいました。

25ヨハネのバプテスマは、どこから来たものですか。天からですか、それとも人からですか。」すると彼らは論じ合った。「もし天からと言えば、それならなぜヨハネを信じなかったのかと言うだろう。
26だが、もし人から出たと言えば、群衆が怖い。彼らはみなヨハネを預言者と思っているのだから。」
27そこで彼らはイエスに「分かりません」と答えた。イエスもまた、彼らにこう言われた。「わたしも、何の権威によってこれらのことをするのか、あなたがたに言いません。

　洗礼者ヨハネ・バプテスマのヨハネの話が出て来るんですよね。もちろん、バプテスマのヨハネは、すでにとっくに、領主ヘロデ・アンティパスによって、首を斬られて死んでおります。
　生前のヨハネは、祭司長たちや民の長老たちの属するサンヘドリンからも、どのラビからも認定を受けていませんでした。そしてその無資格のヨハネがヨルダン川で授けていた洗礼、これは天から、つまり神からの権威を帯びてなされていたものなのか？それとも、人から、つまり、単にヨハネ個人のアイディアにすぎないのであって、たまたまヒットした人集めの手法にすぎなかったのか、ということですね。どちらですか？と聞いたわけですよね。ここがポイントで、あなたがたがこれが理解できているなら、おのずと答えは導き出せるだろう、とイエス様はおっしゃっているわけですね。

　祭司長たちや民の長老たちの反応は、ここでひそひそ論じ合っている通りですね。もし人から、つまりヨハネ個人の思いつきのアイディアに過ぎなかったんだ、と答えたら、ここで野次馬のように集まっている群衆から総スカンを食らうろう。皆ヨハネを「偉大な預言者だった」って言ってるもんなぁ。
　もし天から、と言えば、ヨハネ神の権威を帯びて洗礼をしていたというなら、私らぁは受けていない。だから、なぜ彼を信じて受けなかったか？と、このガリラヤの田舎坊主は言うだろうと、こう思ったわけですよね。
　そしてもう一つ言えば、イエス様は直接的には、何の権威を帯びているか答えていないんですけれども、間接的にはすでにこの時点で答えているんですよね。なぜなら、バプテスマのヨハネ自身が、イエス様を見て、「見よ。神の小羊」と呼び、「私なんかはあなたの靴ひもを解く値打ちもありません。」と言っているし、イエス様がヨルダン川でヨハネから洗礼を受けることを申し出た時に「とんでもありません。私こそがあなたから洗礼を受けるべきですのに」と言っていますよね。つまり、ヨハネが天から、つまり神の権威を帯びて語り、洗礼を授けていたなら、イエス様はヨハネにも認められただけではなく、より偉大なものとあのヨハネ本人に言われていた者であるから、おのずと答えは出るわけですね。預言者より偉大な者、神の子、メシア、ということになるでしょう。
　でも、祭司長たちや民の長老たちは、絶対にそれを認めたくありません。「分かりません。」と答えました。でも、本当に分からなかったわけではないわけですね。「分かりたくない。」「絶対にこのイエスという男を認める発言はしない」と決めているわけです。さらに、バプテスマのヨハネの評価を下げるようなことは、群衆から総スカンを食らうことを恐れて言えないわけですね。それで、彼らの答えは、当然の帰結として「分かりません」というものになった。

　もうすでに、イエス様は間接的に、神からの権威でこれらのことをしている、と答えているわけなんですけれども、さらにたたみかけて、たとえ話を通して間接的に答えていらっしゃいます。

　先週もぶどう園のたとえ話だったんですけれども、今週もシチュエーションは違いますけれども、ブドウ園つながりです。そして先週の「後の者が先になり、先の者が後になる」というみことばが、ここでも成り立っているんですね。
　たとえ話のストーリー自体は、難しいものではないでしょう。ある人に二人の息子がいた。兄弟です。2人に、お父さんが「ぶどう園に働きに行け」と言ったんですけれども、一人の息子は、「いやです」と言ったけれども、後で考え直して、結局ぶどう園に行った。もう一人の息子は、「行きます。おとうさん」と最初の返事だけ良かったんですけれど、結局ぶどう園に行かなかったわけですね。
　ちなみにですね、気になった方、おやっと思った方もいらっしゃるかも知れませんので、一応申し上げておきますと、昔の口語訳とか、新改訳でも以前の第二版などでは、お兄ちゃんと弟の行動が、まるっきり入れ替わっています。どうしてそんなにややこしいことが起こるかと言いますと、写本の問題なんですね。聖書は原典は残っていないわけで、沢山の写本があるわけですが、最終的に兄の方がいい子ちゃんになるのと、最終的に弟の方がいい子ちゃんになるのと、両方の写本が存在するわけですけれど、現代の聖書学の本文批評学って言いますけれど、それによりますと、どうも、お兄ちゃんがいい子ちゃんになるのが、聖書の原典つまり実際にイエス様がお語りになった話である可能性の方が高いわけですね。新共同訳も、今日お読みした新改訳2017と同じく、お兄ちゃんがいい子ちゃんになっています。(まぁ弟がいい子ちゃんになる方が、放蕩息子の話なんかとよく調和するので、そっちの方がすっきりするかもしれないんですけれど)ここでイエス様が実際にお語りになったのは逆みたいですね。まぁでも、そこは、どっちでもいいんです。兄でも弟でも、イエス様の伝えたいメッセージは同じです。「二人のうちどちらがお父さんの願った通りにしたでしょうか？」それは、後になってぶどう園にでかけた方の息子ですね。つまりお兄ちゃんです。だから彼らは、つまり、祭司長たちや民の長老たちは言いました。「兄です」
　ここらへんがですね、祭司長たちや民の長老たちは権力者なはずのに、脇が甘いですね。こう答えたら、もうイエス様のペースですね。イエス様は間髪入れずにこうお答えになりますね。

31二人のうちのどちらが父の願ったとおりにしたでしょうか。」彼らは言った。「兄です。」イエスは彼らに言われた。「まことに、あなたがたに言います。取税人たちや遊女たちが、あなたがたより先に神の国に入ります。
32なぜなら、ヨハネがあなたがたのところに来て義の道を示したのに、あなたがたは信じず、取税人たちや遊女たちは信じたからです。あなたがたはそれを見ても、後で思い直して信じることをしませんでした。

　つまり、あなたがたは、あとで思い直して信じることをしなかった、返事だけ良くてぶどう園に行かなかった弟なんだ。お父さんは、もちろん、父なる神です。そして、思い直して、ぶどう園に入ったのは、取税人や遊女たち、あなたがたがアムハーレツ・地の民と呼んで、一番最低のやつらだと見下している取税人や遊女たちが、先に神の国に入る、父の願いどおりにした兄なんだ。つまり、取税人や遊女たちは、バプテスマのヨハネから罪の悔い改めの洗礼を受けたんです。つまり、立ち返って、神の国に入る準備をしたんです。だから彼ら罪びとと呼ばれた人たちは、悔い改めてどんどん神の国に入ってきている。まさに律法を守ることにおいては、祭司長たちや民の長老たちよりずっとずっと遅れている、そんな人たちが続々と神の国に入ってきているんだよ、と。そう言っているわけです。

　そう言いますと、前半の問答でもイエス様は、権力者たちを見事に言い負かし、後半のたとえ話でも、畳み掛けてぐうの音もでないくらいに論破してしまった。そういう痛悔愉快な話として聞きましたら、それこそテレビで時代劇を見るのと同じになってしまいます。

　さらには、このたとえ話を、有言不実行よりも、不言実行の方が、つまり返事だけよくて実際に行動しない人と、たとえ良くない返事をしたとしても、結局最後にはちゃんとやるべきことをやる人の方が、良いですよ、という、言ってみれば倫理道徳の基準として、読む読み方もあります。
　けれども、それではイエス様のたとえ話を、本当に理解したことにはならないでしょう。それにイエス様のおっしゃりたいことと、ちょっと微妙にズレたところに行ってしまいます。さらに礼拝説教とは、そもそも―少なくともメインでは―道徳を語るものではありません。福音、つまり神がきょう私たちにみことばを通して知らせてくださっている、良き知らせを、宣言することなんです。なら、どこに福音があるんでしょうか。

　イエス様のたとえ話を本当に理解するために、大切なことは、これは聖書全体、特に旧約聖書を読む時にそうなんですけれども、「イエス様の十字架と復活の光に照らして読む」ということですね。
　たとえ話もある意味そうなんです。このたとえ話をお語りになった方がどういう方なのかを思いめぐらせながら読むということです(デボーションでの読み方もそうです)。やがてこの後に、十字架におかかりになるお方のお語りになったたとえ話なのです。

　そしてもうどの聖書のみことばに向き合う時にもそうなんですけれども、自分を、登場人物のどれかに重ねて読むということなんです。
　ここで皆さんは、どちらかというと、弟でしょうか？兄でしょうか？
　神様に対して、返事だけは良くて、その時はそういう気分になって、神さまに「します」と言ったけれども、結局やらなかった、ということも私たちの信仰生活ではありますね。あるいは、神にまっすぐに向かうよりも、人の目を恐れてふにゃふにゃしてしまうことも誰しもあるかもしれません。
　最初は、神さまイエス様の望むこと、聖書に書いてあることを実際に実行に移すことを、「いやです」と神様に答えてきた。けれども、思い直して、やはりやることにした。そういう者なのか。
　で、ここでですね、「どちらが父の願った通りにしたでしょうか？」とイエス様が問いかけしてくださっているんですけれども、本当にはどちらも願った通りにしていないんですよね。
　返事だけ良くて結局やらなかった人も、あるいは、最初に「いやです」と答えてしまった人も、返事が悪かったし、後でぶどう園に行ったとは行っても、働いた、とは書いていないわけですから、両方罪びとなんです。私たちは皆やっぱり罪びとである。それは誰が弟、誰が兄というよりは、私たちの誰もが、どこか弟であり、どこか兄である、ということなのでしょう。

　この私たちが皆罪びとであるということは、なかなか日本人には理解しにくいんです。あなたは罪びとです。と言われたらですね、元暴力団の方とか、受刑者、元受刑者の方たちに、は少なくともピンとは来るわけですね。「ああその通りです」って凄い納得なさるんですね。
　けれども、そうじゃない九十何％かそこらの日本人に、あなたは罪びとです。と言っても、なかなか通じない。「確かに私は完全無欠な人じゃないけれど、人様に恥ずかしいことしてきたとは思えないし、悔い改めて洗礼受けるとか、イエスへの信仰を持つとか、そんなことは私に必要だとは思わない」という方も日本人には多いと思います。

　ところでこの罪ということばをですね、みじめさ、と言い換えた人たちがいます。16世紀のクリスチャンたちが書いた本の中で、人間のみじめさについて、という方向で書いてある本があるんですけですけれども、私たち人間は、生まれつき、神と隣人を憎む傾向にあるんだ、と言うんですね。それが人間存在のみじめさなんだ、と。
　で、その本はドイツ語で書いてあるんですけれども、その「みじめさ」を指すドイツ語がですね、エーレントと言うんだそうです。このエーレントは、故郷を失っている、異邦人として生活している、という意味があるんだそうです。このエーレントのレントは、英語でいうとランドで、ふるさとを意味したりするそうですね。だからエーレントとは、「ふるさとから遠く離れている」人間のあり方を、「みじめさ」と言うんだそうです。
　
　私はこの話を聞いてですね、まさにこの、日本語の罪ではなくて聖書の言う、罪、的はずれ、神さまとの関係が破れている、という意味での、聖書の言う罪の、これほどぴったりな、言い換えは無い、と思いました。まさに人間の罪とは、悪いことしたというようなことはまぁ表面的なものでして、それよりも、ふるさとから遠く離れている。故郷を失ってみじめになっている。この姿って放蕩息子の姿なんですよ。故郷、ふるさとって、放蕩息子のお父さんの家のことなんですよ。そこから遠く遠く離れていて。それが、的はずれ・ハマルティア。神であるお父さんと関係が断絶している。ヘブル語ではペシャー言います(帰ってくる前の放蕩息子の姿はペシャー・関係が破れている、ですね)。
　そこから、まぁ悔い改めるって日本語の翻訳ですと、悪いことを悔やんで、行動を直すっていうイメージのことばになってしまいます。ここで思い直して、っていうのも、悔い改めて、と訳せなくもないことばなんですが、もともとのヘブル語まで遡れば、シューブ、なんです。シューブ。単純に「帰る」っていう意味なんです。
　でも帰りたくなんてないと、神様の呼び声に、「いやです」と言ってしまうのは、ともすれば、天のお父さんのことを、信用できないと思ってしまうからなのかも知れないですね。神さまなんかに頼ることは、弱い人がすることだ。そんなんでは、人生やっていけないよ。神なんかに頼ったら、甘えてしまうし、人生とは自分の力だけで切り開くものなんだ、って。
　でも、そういう生き方を続けても、どこか挫折を経験する。そこで自分のみじめさに気づくんです。実はもとから、ふるさとを失っていて、みじめで、さみしくて、愛されないって思っていて、それに気付いて、向きをくるっと変えて、ふるさとのお父さんの家に帰ろう。あの豊かなぶどう園がある家に帰ろう。それは人間の魂のふるさとである、神の愛のふところに帰るっていうことなんですね。
　
　そうしますと、この祭司長たちや民の長老たちに対する問いは、じつは追い詰める問いかけではないということに気付きます。自らの罪に気づいて、神のもとに帰りなさい、とおっしゃっているのでさ。
　なぜなら、思い直してぶどう園に行った取税人や遊女たちがあなた方より先に入る、とおっしゃっているからなんですね。裏を返せば、あなたがたも後から入っておいで、っていうことなんです。じつは、ここに、救い主の権威があります。その権威は、力づくで言うことを聞かせる独裁のような、いわゆる権力ではありません。あまりにも崇高で深く広い愛があるので、自主的に、従いたくなるのが、権力でなく、権威、というものです。
　この権威とは、外に立つ、という意味があることばだそうで、あらゆることから自由である、という意味だそうです。自由にふるまうことができる。
　イエス様のこのたとえ話には登場しませんが、じつは、この兄弟には、もう一人の兄がいるんです。その兄は、父なる神の願ったとおりにしました。それが彼がご自分の権威を用いて自由にふるまったということでした。父の呼びかけに、「はい、承知しました」と答え、そして、まっすぐに、「行け。」と言われた、この世というぶどう園に何の寄り道も無く行き、そこで寝る間も惜しんで働き、兄弟たちが摘み残したものを、いのちまで捨てて摘み、父の望みを満たした方がおられる。この方が、兄も成し遂げなかったことを、弟も成し遂げなかったことを、成し遂げてくださったがゆえに、私たちの罪という負債を十字架の上で流された血潮によって、完全に支払ってくださったので、兄も弟も父のもとに帰ることになった。ふるさとの天の父の家にです。その父の門はイエス様の十字架のみわざによって、閉ざされないことになる。十字架の秘密がここに現れています。

　主は私たちにお語りになっています。どんなに遅れてもいいから、門を開いて待っているから。兄であるあなたも、弟であるあなたも、天のみ国に入るんだ。あなたがたのことを父は今待っているんだ。これが切なる救い主からの願いなんです。父なる神も願っておられる。
　「あなたたちのふるさとを失っているという罪、あの息子が、全部その罪を担うから帰ってきてほしい」という父のひたすらな願いの声が、あの鮮やかに色づいたぶどうの実る、あの園のある、天のふるさとの父の家の門から、私たちの耳に今、聞こえているのです。
　ただ今より聖餐にあずかります。その天のぶどう園の収穫を、今、共にいただきましょう。

お祈りをいたします。
　恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
　あなた様のぶどう園への、招きの声を今お聞きしました。なんということでしょうか。私たちが生まれながらに、あなたと隣人を憎む傾向にあるという、関係の破れの中にありましたので、あなたに背を向け、自分の力でやってやると、むしろあなた様に頼ることの方が悪いことであるかのように、がんばってやってきました。けれども、飢饉が来た時、食べるものさえなくて、みじめで、ふるさとから遠く離れていたことに気付きました。われに返った時に、お父さんの声を聞きました。わたしのぶどう園にかえっておいで。さぁ一緒に働こう、わたしはお前と一緒にいて、お前と一緒に働くのが、何よりもの願いなんだ。わたしのひとり子を、お前のために送ろう、そのように言ってくださり、その御ひとり子は、なんということか、父の家に帰ることのできない越えられない断絶を埋めるために、十字架でいのちを犠牲にして下さいました。だから私たちは帰ります。御ひとり子がいのちがけで開いてくださった義の道を通って。あなたのぶどう園に入り、あなたと一緒に働く喜びを、お一人一人に日々得させてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。

#ふたりの息子 #主イエスのたとえ話