📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『荒野から始まる慰めの福音』
新約聖書　マルコの福音書第1章1～8節　2023年12月10日

1神の子、イエス・キリストの福音のはじめ。
2　預言者イザヤの書にこのように書かれている。
　　「見よ。わたしは、わたしの使いを
　　あなたの前に遣わす。
　　彼はあなたの道を備える。
3　荒野で叫ぶ者の声がする。
　　『主の道を用意せよ。
　　主の通られる道をまっすぐにせよ。』」
そのとおりに、
4バプテスマのヨハネが荒野に現れ、罪の赦しに導く悔い改めのバプテスマを宣べ伝えた。
5ユダヤ地方の全域とエルサレムの住民はみな、ヨハネのもとにやって来て、自分の罪を告白し、ヨルダン川で彼からバプテスマを受けていた。
6ヨハネはらくだの毛の衣を着て、腰に革の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。
7ヨハネはこう宣べ伝えた。「私よりも力のある方が私の後に来られます。私には、かがんでその方の履き物のひもを解く資格もありません。
8私はあなたがたに水でバプテスマを授けましたが、この方は聖霊によってバプテスマをお授けになります。」

旧約聖書　イザヤ書第40章1～8節

1　「慰めよ、慰めよ、わたしの民を。
　　──あなたがたの神は仰せられる──
2　エルサレムに優しく語りかけよ。
　　これに呼びかけよ。
　　その苦役は終わり、その咎は償われている、と。
　　そのすべての罪に代えて、
　　二倍のものを主の手から受けている、と。」
3　荒野で叫ぶ者の声がする。
　　「主の道を用意せよ。
　　荒れ地で私たちの神のために、
　　大路をまっすぐにせよ。
4　すべての谷は引き上げられ、
　　すべての山や丘は低くなる。
　　曲がったところはまっすぐになり、
　　険しい地は平らになる。
5　このようにして主の栄光が現されると、
　　すべての肉なる者がともにこれを見る。
　　まことに主の御口が語られる。」

6　「叫べ」と言う者の声がする。
　　「何と叫びましょうか」と人は言う。
　　「人はみな草のよう。
　　その栄えはみな野の花のようだ。
7　主の息吹がその上に吹くと、
　　草はしおれ、花は散る。
　　まことに民は草だ。
8　草はしおれ、花は散る。
　　しかし、私たちの神のことばは永遠に立つ。」

9　シオンに良い知らせを伝える者よ、
　　高い山に登れ。
　　エルサレムに良い知らせを伝える者よ、
　　力の限り声をあげよ。
　　声をあげよ。恐れるな。
　　ユダの町々に言え。
　　「見よ、あなたがたの神を。」
10　見よ。神である主は力をもって来られ、
　　その御腕で統べ治める。
　　見よ。その報いは主とともにあり、
　　その報酬は主の御前にある。
11　主は羊飼いのように、その群れを飼い、
　　御腕に子羊を引き寄せ、懐に抱き、
　　乳を飲ませる羊を優しく導く。

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
　アイハブアドリーム、アイハブアドリーム、と言えば、かの有名なマルチン・ルーサー・キングJr牧師の名演説ですね。日本の中学校の教科書にも載っています。
　
　1963年8月28日、職と自由を求めた「ワシントン大行進」の一環として25万人近い人々がワシントンDCに集結しました。そこですべての社会階層の人々が、公民権と、皮膚の色や出身などに関係なくあらゆる市民を対象とした平等な保護を求めたわけです。
その日最後の演説者となったのがマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師だったわけですね。
　話によると最初は何か原稿を読んでたらしいんですね。それである人が、「アイハブアドリーム、いつも教会でやってる説教やってよ」と言って、そこから原稿を見ずに即興で話し始めたそうなんですね。その一部を抜粋しながら読んでみます。

私には夢がある。それは、いつの日か、この国が立ち上がり、「すべての人間は平等に作られているということは、自明の真実であると考える」というこの国の信条を、真の意味で実現させるという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、不正と抑圧の炎熱で焼けつかんばかりのミシシッピ州でさえ、自由と正義のオアシスに変身するという夢である。
私には夢がある。それは、いつの日か、私の４人の幼い子どもたちが、肌の色によってではなく、人格そのものによって評価される国に住むという夢である。

(中略)

今日、私には夢がある。
私には夢がある。それは、いつの日か、あらゆる谷が高められ、あらゆる丘と山は低められ、でこぼこした所は平らにならされ、曲がった道がまっすぐにされ、そして神の栄光が啓示され、生きとし生けるものがその栄光を共に見ることになるという夢である。

　さあ、いかがでしょうか？もうピンと来ている方もいらっしゃるかもしれません。キング牧師は、今日のみことばを、特に目立ってはイザヤ書の第40章の方をみことばを演説の中で引用しているんですね。いや引用しているというよりは、途中で自然に、イザヤ書のみことばが出たのではないかと思います。

あらゆる谷が高められ、あらゆる丘と山は低められ

　というのは、平たく言えば平等になるということなんですね。搾取や抑圧、差別などで低められている人びとが谷だと言えるでしょう。この人たちが他の人たちと同じ権利を回復する、そういうことが語られているわけです。

　今日は、説教題にも「荒野から始まる慰めの福音」とつけましたし、先ほど荒野の果てに、などを歌いましたけれども、この「荒野」っていうのが大きなテーマになってきます。私たちの歩みも、「荒野」っていうのが大きなテーマになっているところがあるのではないでしょうか？
　というのもたとえばこの潮新町のカフェ倍音共鳴さんを日曜だけお借りして礼拝を続けて、もうすぐ丸3年になりますね。早いものですね。あと4か月でまる3年が経ちまして、4年目に突入するわけですね。
　思い返してみれば、あの閉所、というのは、大きなできごとで、荒野を通らされるようなできごとでした。前にも説教で、モーセと共にイスラエルの民が荒野を通ったことになぞらえて、私たちは荒野を進んでいるようなものだと申し上げたことがあるかもしれません。紅海をまだ水が分かれていない時に、「イスラエルの民に前進せよ、と言え」とモーセは命じられますね。道が開けていないのに進んで行けと。そして進んで行ったところに神の恵みが見えてきました。その先イスラエルの民は荒野で天幕(テント)を張って礼拝しましたけれど、まさに私たちも、荒野で幕屋で礼拝するようなもので、立派な礼拝堂を固定資産で持っているわけではありません。丸裸になって、保証してくれるものを全て失う中、神さま以外に何も頼るものがなくて、進む先も分からない中でもしかし、神さまは、昼は雲の柱、夜は火の柱で、私たちを導いてくださいました。
　
　そんな中で、荒野に出てよかったな、と思わされたことがあります。それは、神のみ声がよく澄んで聞こえる、そしてまっすぐに語れる、ということです。荒野っていうのは旧約以来、神の声を聞く場所なんですね。なぜそうなのか、ということは、聖書の預言者たちのことを考えるとよく分かるように思います。今日マルコの福音書に登場した旧約の最後の預言者と評されるバプテスマのヨハネもそうです。
　ヨハネは火の出るような説教をしました。激しい説教です。神のさばきは近い、悔い改めよ！当時、異邦人がユダヤ教に改宗するとき、バプテスマ、つまり洗礼を受けさせる、ということがなされていました。けれども、ヨハネはそういう常識を破ることをしました。当時洗礼は異邦人のユダヤ教への改宗の時になされたものですから、一般のユダヤ人には必要ない、と思われていたんですね。ヨハネは、この洗礼運動をすることによって、ユダヤ人は選民などと言って他の異邦人を見下していい気になっているな、不正義と不平等がまかり通っているではないか。お前たちこそ罪を悔い改めて罪のゆるしのための洗礼を受けなさい。とやったわけですね。
　当時の宗教的権力者であるパリサイ人たちやサドカイ人たちが大勢この運動は何だろうと視察に来た時、彼らに対して「まむしの子孫たち、誰が迫りくる神の御怒りから逃れられると教えたのか！？」と言って、もうあぐらをかいている人びとに対しては容赦ないですね。そんなふうに一切忖度なしにズバズバと語って行くわけですね。
　ここには出て来ませんが、ヨハネはのちには、当時の領主ヘロデアンティパスには、兄弟の妻のヘロディアを横取りして結婚したということがありましたから、ヨハネは「その結婚は不法です。」と批判して言ったので、牢に捕らえられてしまうことになります。
　
　で、この短い8節までの間に、バプテスマのヨハネの風貌までが描かれているんですね。マルコの福音書というのは、福音書の中で一番短いんです。ぎゅっと凝縮して、「するとすぐに」「するとすぐに」と何回も福音書の中で出て来るんですが、先を急ぐような感じですね。早く書き終えたいとマルコさんは思っていたかもしれません。だから、起こったできごとのディティールは書かずに、できるだけ簡潔にシンプルに書こうとしているふしがあります。
　ところがそのマルコが、突然バプテスマのヨハネの風貌を描くんですね。

6ヨハネはらくだの毛の衣を着て、腰に革の帯を締め、いなごと野蜜を食べていた。
　
　私たち日本人なら、こういう彼個人の風貌なんて書かんでもえいやん、と思ってしまいそうなところなんですけれども、ユダヤ人にとっては、物凄い重要な情報なんですね。というのは、この風貌の特徴は、昔の旧約の偉大な預言者エリヤの風貌なんですね。ですからヨルダン川近くまで見に来ていた人というか洗礼を受けに来た人はですね、

「いやー、人が多すぎてひとっちゃあ見えんちや。ヨハネ先生はどこぜ？」
「ほら、あそこよえ」
「うん？あれがヨハネ先生？…あの格好って絶対エリヤでねぇ」

　そんなふうに、言われたと思うんです。マルコはこの風貌を情報を書くことによって、彼を預言者エリヤの再来だと間接的に言っているわけですね。

　まぁ言ってみれば非常にワイルドで、サバイバリストみたいな生活をしている、それは何もエリヤに限らず、預言者たちは皆そうで、この当時の修道生活をしている人びとの当たり前の格好であり、当たり前のライフスタイルでもあったわけです。ある人は、ヨハネがこういうライフスタイルをしていること自体がすでに、社会批判である。と言いました。そうですよね。贅沢な生活している人がこのヨハネさんのそばに来たら、ヨハネを「変な格好」と見下す人もいるかもしれないんですけれど、一方で、この禁欲生活を送っているヨハネに何か裁かれるんじゃないか。と自らを恥ずかしく思うかもしれません。そしてこういう格好と、ライフスタイルは、彼らが忖度なしに神のことばを真っ直ぐに伝えられることと関係があると私は思うんです。
　
　たとえば旧約の忖度しない預言者は、代表的なのはエレミヤとミカヤがいます。ミカヤの方がはっきりしていて分かりやすいでしょうか。当時王さまに仕える宮廷おかかえの預言者が400人いたんです。この400人は口を揃えて、王様が気に入るような預言をするんです。「いや、この戦争いけますよ、攻め上るべきですよ。必ず勝てるでしょう。」などと言って、王様に忖度するんです。ミカヤに聞いてみましたら、ミカヤ一人だけは、この戦争に反対するんです。攻め上ってはいけません、この戦争で王は死にますって預言するんです。場の空気に流されずにまっすぐに語ったわけですが、怒った王様はミカヤを牢屋に入れてしまいます。しかしミカヤの預言通り王はその戦争で死ぬことになるんですね。

　もしここで、ミカヤが、宮廷おかかえの預言者であったらどうなんでしょうか？給料も王から出るわけですね。そうすると生殺与奪の権を握られているわけですから、王様の機嫌を損ねるような預言はとてもできないでしょう。ミカヤが荒野に住んでいたか、妻や子供がいたかは分かりませんが、この時代の預言者よろしくバプテスマのヨハネのような生活をしていたならば、イナゴと野蜜などで暮らせるならば、生活を人質に取られて何も言えなくなる、ということが少なくなりますよね。

　何よりも荒野は神のことばを聞く場所だと申しました。それはなぜかというと、一つは何も無いからです。楽しみとなるようなものはありません。静かです。世間から離れて、（宿泊するアシュラムなどに参加すればそれが体験的に分かると思いますけれども）聖書のみことばを誰にもジャマされないで集中して思いめぐらすのに最適です。もちろん宮廷のいざこざと権力争いに心をすり減らすことも、他のおかかえ預言者たちの語る聖書解釈に引っ張られて同じような解釈してしまうこともないでしょうし、王に無意識に忖度して、王様が機嫌を損ねないように聖書を曲げて解釈することもしなくて良くなるでしょう。
　だから澄んだ心で、まっすぐにみことば、神の声が聞こえるんですね。ですからこんにちの預言者であるキリスト伝道者も、何らかの権力構造の中にいることは良くないかもしれないわけですね。結局まっすぐには言えなくなってしまうことにつながりかけないわけですから。

　さて、先ほど、マルコはこの服装とライフスタイルを書くことによって、バプテスマのヨハネのことを、預言者エリヤの再来だと暗に言っていると申し上げました。

　メシアの到来の前に、預言者エリヤが現れる。そのことが旧約最後の預言書であるマラキ書に書かれていますけれども、そういうメシア、救い主が現れるための道備えというか、人々の心を整えておいて、メシアである方が来られる準備をする、それはたとえれば相撲の露払い、落語の真打や二つ目の前に出て来る前座、会場あっためておきましたよ、というような、これがエリヤの再来とも言えるバプテスマのヨハネの、言わば神さまから託された役目でした。だからこそヨハネはここで、

7ヨハネはこう宣べ伝えた。「私よりも力のある方が私の後に来られます。私には、かがんでその方の履き物のひもを解く資格もありません。
　
　と言いました。履き物のひもを解く、というのは奴隷の仕事です。あの火の出るような激しい説教をしておきながら、しかもイスラエル中から大勢の人々がヨハネのもとにやってくるようになって、弟子たちまでいるように有名になっても、私の後に来る方、つまりメシアに比べたら、私は彼の奴隷以下なんだ、奴隷でももったいないんだ、って言うんですね。

　そのメシアが間もなくやってくるんだ。そのメシアとは、言うまでもなくイエス・キリストのことなんですけれども、「私は水でバプテスマを授けているが、その方はあなたがたに聖霊のバプテスマを授けることになる」って言っているんですね。
　ところで今日のみことばの出だし、第1章の1節は、
1神の子、イエス・キリストの福音のはじめ。

　とあります。実はこの「神の子」っていうのが、写本にはあるんですけれども、原文にあったかどうか、かなり怪しいんですね。ですから「神の子」という文言は後代に付け加えられたものであろうと言われているんですけれど、この書物の表題に当たるものですね。ある日本語訳では、福音の源、と訳しました。ある英語の訳では、「ここに始まる、神の子イエス・キリストの福音」となっているんですね。はじめ、という名詞ではなくて、「始まる」って動詞で訳しているんですね。ちょうど舞台演劇か映画などを見に行って、「今はじまる、何とかの物語」ってどういう話が始まるんだろうか、とワクワクしながら待っている感じですよね。そういう緊張と期待が込められることばなんです。
　福音というのは良いしらせですね。グッドニュースです。ギリシャ語ではエウアンゲリオンと言います。アニメのエヴァンゲリオンというのは、ことば自体は福音グッドニュースから来ていますけれども、ラテン語か何かの発音がまじってエヴァンゲリオンになっているんだと思いますね。エウアンゲリオンはグッドニュース、良い知らせです。もともと、戦争で勝利したと、その勝利を伝えるために伝令が飛脚みたいに走るわけですね。この伝令が伝えた勝利の知らせ、これをエウアンゲリオン、福音と呼んだわけですね。他にも、新しい王が即位した。あるいは、王に子供が誕生した、そういう知らせも、良きしらせ、グッドニュース、エウアンゲリオン、と呼んだんですね。
　その福音、良いニュース、その響きがどの聖書箇所を読んでも聞こえてくる説教黙想をしなさい、と私は説教塾では習いました。
　ならばこの1節から8節までの短い間に、福音がどこに聞こえてくるのでしょうか？イエス様は登場はまだです。福音どころか、ヨハネのメッセージはどっちかというとバッドニュースではないか。あなたがたは今のままじゃいけない。それぞれ罪を悔い改めよ、王であるメシアが来られるから、その通られる道をまっすぐにせよ、と言っているんですね。
　これは古代の皇帝や国王が行進する時、王を受け入れる国の人たちが、先ず王様に気持ちよく通って頂けるように、道を広くまっすぐにして備えたという故事にちなんでいます。心を整えることが、その道を備えるということなんだ、ということなんですね。

　今日は、マルコが引用しているところの、イザヤ書のみことばを聖書朗読の時に合わせて読みました。もっともここの箇所のマルコの旧約の引用は、出エジプト記と、イザヤ書と、マラキ書の混合なんです。それを、預言者イザヤの書にこう書いてある、と言ったらダメじゃないか、と。今日の論文文化からしたらマルコの引用の方法はペケです。三つちゃんと脚注で書かないといけないですね。ところがこの当時のこの地域の人々の書き方では、引用した中で一番有名な預言者の名前を書いておけばよろしい、という習慣だったんです。マルコはそういう習慣に倣って書いているわけですが、そういうよりも、イザヤからマラキまで、旧約の全部が預言していた旧約の成就としてのメシアが来られるんだ、ということを言っているんでしょうね。さらにこのイザヤ書に、福音のヒントがあるようです。

イザヤ書第40章9節

9　シオンに良い知らせを伝える者よ、
　　高い山に登れ。
　　エルサレムに良い知らせを伝える者よ、
　　力の限り声をあげよ。
　　声をあげよ。恐れるな。
　　ユダの町々に言え。
　　「見よ、あなたがたの神を。」

　この「良い知らせ」って言うのが福音ですね。高い山に登ってそれを言い広めよ、ということで、実はこれは、Go tell it on the mountain日本語訳は世界に告げよ、という讃美歌のもととなっているみことばなんです。シオンというのはエルサレムのある丘の名前ですね。

　ところでこのイザヤが第40章で預言したことは、どういう背景で、どういう状況で語られたことなんでしょうか？
　実はイザヤ書は第40章になりますと、調子がずいぶん変わります。第40章は、バビロン捕囚と言って、イスラエル王国がダビデ王ソロモン王の時代が終わってから北イスラエル南ユダと分かれましたが、北イスラエルは先にアッシリアに滅ぼされました。皆ユダは紀元前586年または587年にバビロン、つまり新バビロニア帝国によってエルサレムが崩壊して戦争に負けます。そこから、当時のあのあたりの国々は、戦争に勝ったら、負けた方の国の国民を奴隷のようにして連れていくんですね。捕虜のほに囚人のしゅう、と書いて捕囚と読むんですけれども、捕囚だけならもうＢＣ597年から始まってはいましたが、イスラエルは故郷を失い、アイデンティティを失い、バビロンの地で苦渋の生活を送りました。
　でも先取りして言いますと、このバビロンをのちに滅ぼしたペルシャの王クロスが取った寛容政策によって、イスラエルの民はエルサレムに帰ることができるようになります。

　まぁその回復の預言なんですけれども、そもそもなぜイスラエルがバビロンに捕囚されるという憂き目にあったか。それは、軍事力が弱かったからなどと聖書は記しません。預言者イザヤは、いや預言者イザヤの口を通して神さまはお語りになっています。イスラエルに不公正と悪、正義を曲げることがはびこったからです。イザヤ書第1章16～17節にはこうあります。
　
[イザヤ書 1:16,17]

16　洗え。身を清めよ。
　　わたしの目の前から、
　　あなたがたの悪い行いを取り除け。
　　悪事を働くのをやめよ。
17　善をなすことを習い、
　　公正を求め、虐げる者を正し、
　　みなしごを正しくさばき、
　　やもめを弁護せよ。」

みなしごやもめとは旧約時代において一番弱者とされていた人々です。最も弱くされ、小さくされている人びとをかばい弁護するように命令されているんですね。ところがイスラエルの民がそれを守らなかったので、捕囚の憂き目に遭ったのだとイザヤ書は語るんです。
ところが、40章の1節になって、はじめのことばがこうです。

1　「慰めよ、慰めよ、わたしの民を。

　これはヘンデルのメサイアの歌い出しがこのことばなんですけれど、この慰めっていうのは強い慰めなんです。日本語の表現ですと、「慰めにそんなことを言っているんだろう？」という表現があるように、気休め、みたいなニュアンスが入ることがありますけれども、これは絶対の神に支えられた確かな慰めなんですね。
　2節の、

2　エルサレムに優しく語りかけよ。

　というのは、これは町の名前を擬人化した擬人法なんですね。優しく語りかけよ、これはエルサレムの心に語れ、という意味ですね。もっと大胆に訳せば、くどけ、っていう意味なんです。

　　これに呼びかけよ。
　　その苦役は終わり、その咎は償われている、と。
　　そのすべての罪に代えて、
　　二倍のものを主の手から受けている、と。」

口説け、ってどういうふうに口説くんでしょうか？バビロン捕囚の苦難の日々は終わった。あなたの罪はすでに償われている、と。そして、帰っておいで。立ち返っておいで。神さまは、何度イスラエルが堕落して、罪を犯したとしても、立ち帰っておいで、と、言っておられると、預言者は叫び続けたんです。まっすぐな声で。そして預言者イザヤはイエス様がお生まれになるより約700年も前にこの書を書きましたが、おぼろげながらにやがて来られるメシア、イエス・キリストを指し示しているんですね。それは時代を越えて、イエス様の時代に届き、そしてその約2000年後の私たちにも届いているメッセージですね。神に立ち返っておいで。

　これがまさに悔い改めなんです。バプテスマのヨハネは悔い改めのバプテスマを説いたとありますけれども、悔い改めるという日本語訳もどうかなと思うところもあります。ギリシャ語ならメタノイア、方向を変えること、さらにもっとヘブル語まで遡ったほうがいいです。シューブです。シューブ、それは単純に帰るということです。どこに帰るのか。あの放蕩息子の父親にたとえられるような、いつくしみ深い神のふところに帰るんです。
　ですからバプテスマのヨハネは、火の出るような説教もしましたけれども、ある意味で福音を語っているとさえ言えるのではないかと思います。私の後に来る方が聖霊のバプテスマをお授けになる。これは父と子と聖霊の三位一体の神の御名によって受ける水の洗礼の時に、聖霊が共に働くので、また、「誰でも聖霊によらなければイエスを主と告白することはできません」とあるように、水の洗礼と同時に起こることなのだと言って差し支えないと思います。

　そして、今はイエス様を待ち望んで、イエス様をお迎えする心の備えをするアドベントの期節ですが、でも、「主の通られる道をまっすぐにせよ」と言われても、私たちは本当に心をまっすぐにできるのでしょうか？厳密に言えば、自分ではまっすぐにしたつもりでも実際は曲がりくねっているでしょう。自分の力でまっすぐな道を作ろうと思っても無理です。でも皆さん思い出してみましょう。イエス様は何と言われたでしょうか？「わたしは、道であり、真理であり、いのちなのです。」この道とは、ア　ロードじゃなくて、ザ　ロードなんです。唯一の確かな道、この道を通っていけば、私たちの道はまっすぐにされます。すなわち、十字架による贖いによる、罪のゆるしと永遠のいのちの祝福をもって、天の御国に入っていくことができる。ちょうどイスラエルの民が、モーセに率いられて荒野の旅を続けて、約束の地カナンの地に入ったように、私たちは荒野を通って約束の地である天の御国・神の国に入るんです。アドベントはイエス様のご降誕を待ち望む期節ですが、じつに神さまが長い長い準備の時を備えてくださって、救い主の到来という最も壮大なアドベントを、備えてくださったのではないかと思います。

　今、世界に目を向けますと、様々な戦争、紛争などで、荒野が以前より広まっているように思えます。イザヤが言ったように、社会における、抑圧、差別、搾取、人権侵害、そういうものがあふれています。荒野から叫ぶ声が聞こえます。

　また、私たちの身近というか私たち個々人の心の中に目を向けてみましょう。私たちも荒野に追いやられる時があります。荒野とは安心や安全を保障してくれるもの、そういったものを全部はぎ取られて、手放さざるを得なくなって、ただ救い主と向かい合う。

私たちは行きたくない時に、荒野に追いやられることがあると思います。心の中の荒野を歩む時、その中に、神との出会いの場が備えられています。神の声を聞く場所があなたの中にあると思います。そこでこそ慰められた者は、神から受けた力強い慰めによって、他の人を慰めて行くことができるのです。
私たちはこの時期、特に隣の人に、光を手渡していくことをいたしましょう。クリスマスに向かって、人々に手渡したい光は慰めの光なのです。

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様のまことの慰めの響きが聞こえてきました。一見厳しいヨハネのメッセージの背後に、どんなに深い、あなたの人間への愛がつまっていることでしょうか。慰めよ、慰めよ、わが民を慰めよ。そのことばによって、彼らはもう一度立ち上がって行きました。私たちもまた、虐げられている人びとをまっすぐに見て公正に弁護し、またあなたからまた主イエスからいただいた力強い慰めの光を、人から人へ受け渡して行くことができますように。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。

#キング牧師 #アイハブアドリーム